書評:『小説 映画ドラえもん のび太の新恐竜 』
小学生の息子が自分で買っていた。息子より、「読め」と指示が来たので、素直に読んで見た。
こちらは小説なので、ネタバレをしないように書きますが、まあ、これ、面白いんですよ。ドラえもんを小説で読むというのがまた新しい感覚でありましたが、結構、いけます。小学生でも読めるようになっていますが、大人が読んでも良い仕上がりの小説になっています。
往年のドラえもんファンからすると、「のび太と恐竜」が有名なので、「その焼き直しでしょー」と思われるかもしれないが、全然中身のストーリーは違います。これは、新作のドラえもんの映画の小説であります。「のび太と恐竜」とは別物だと知っておいた方が良いでしょう。
ドラえもんを小説で読むという体験
ドラえもんとなると、我々ドラえもんを見て育った世代にとっては、絵が浮かんでしまいます。そういう明確なイメージを持ったものを、小説で読むというのはなかなかに新しい体験であります。さらに、ドラえもんの道具のイメージができてしまっているので、小説においても大した記述力がなくともストーリーができてしまうのが、新鮮な体験です。ただ、だからと言って想像力がいらないのか、というと、そうでもなくて、本を読むならではの頭の使い方はします。
小説ならではなのは、のび太くんの気持ちの描写です。漫画や映画ではセリフでやるしかないですが、小説なので、より深くのび太の精神描写が入るところが小説ならではの面白さかもしれません。のび太くんの優しさみたいなものが小説から読み取れて、これはこれで面白いです。
小説もドラえもんってどうなのよ?と思うところがあるかもしれませんが、結構情操教育として良いのかもしれません。
玉に瑕なのは、恐竜の名前がたくさん出てくるところですね。私は、息子につられて多くの恐竜図鑑や恐竜番組をみる羽目になっているので、恐竜の名前で絵が浮かびますが、あまり恐竜に興味がない子供達は、アロサウルスとかスピノサウルスなど書かれても、想像がつかないのではないかと思います。それはそれで楽しめるとは思いますが、そういう各々の恐竜に対する描写は丁寧ではないので、そこは、やはり、文豪の作品とは違う。
令和のドラえもん
「のび太と恐竜」と言えば、ハナスパです。ハナスパとは、鼻でスパゲッティーを食べるというやつです。のび太くんがスネ夫の恐竜フィギュア自慢に腹を立て、自分はもっとすごいやつをみつけてやる、見てろ!と宣言して、嘲笑気味のジャイアンやスネ夫に「できなかったら、鼻スパな」と約束してしまうあれです。
まあ、この鼻でスパゲティを食べるは、平成まではギリギリ許されたのかもしれませんが、令和のこの世の中では許されません。ということで、違うもう少し緩やかな表現になっている(ここだけネタバレですが、目でピーナッツを掴む)のは、時代が変わったんだなあという気にさせます。
また、映画ドラえもんシリーズは、「のび太の宇宙大戦争」に代表されるように、基本、勧善懲悪で、子供の教育には悪いものでした。というのは、主人公が善で、悪役が出てきて悪役をやっつけるという昭和な価値観に基づいたストーリーな訳で、ドラえもんの便利な道具を活用して、暴力で悪役をやっつける勧善懲悪なのです。もう、こんなものは、アラブ諸国の兵や民を虐殺するイスラエル軍みたいなものなので、教育の風上には置けないものなのです。
しかし、『のび太の新恐竜』は違います。勧善懲悪ものではないのです。あくまで、恐竜大好きなのび太くんの心の葛藤を描く作品となっており、大変に好感が持てます。
まあ、藤子不二雄さんの時代とは違う訳で、藤子不二雄さんが創造したドラえもんという世界が、現代の脚本家・作家の手を通じて、令和の時代環境にいいように書き換えられている訳です。いわば、オープンソース的な作品に仕上がっており、ドラえもんという作品像の広さというか、ドラえもん世界の強さを感じるものであります。ドラえもんという世界を使って、新たな恐竜の物語を書いたというのが、この作品と言えるでしょう。
また、恐竜の世界は日進月歩です。科学考証も必要になりますが、こののび太と新恐竜の科学的なテーマは決して浅くなく、これも21世紀のテーマだなあと思う訳であります。
人の薦める本を読んでみる
まさか、小学生の息子に本を薦められる(しかも、自分の小遣いで買った本を父親に貸してくれた・・・)とも思っていませんでしたし、それを読んで面白いと思う予想もありませんでしたが(薦められるテレビ番組はつまらないことが多いので)、実際本を読んで見たら、面白かった。
それは、1.5時間もあれば読み切れてしまうものではあるけれども、小学生の感性というものもまた大事にしていきたいと思った週末午後のひと時でした。
おっさんが、街の喫茶店で、ドラえもんの小説を真剣に読んでいたので、見かけた人はどう思ったのだろうか、いまいち定かではございませんが、危うく感動で涙しそうだったので、危ないおじさんがいると通報されずに済んで良かったと思っております。