書評:『主体的に動く アカウンタビリティ・マネジメント』(ロジャー・コナーズ)
どうして、こういう邦題をつけてしまうのかなというよくあるやつなのだが、本のタイトルの『The OZ Principle』という方が、私は良いと思う。『人を動かす』を意識しすぎだ。邦題が安っぽい(とはいえ、『魔法使いオズの法則』だと、プリキュアっぽくなってしまって、ビジネス本として認知されないという大人の事情があるのかもしれない)
オズの魔法使いという映画や本があるが、それが仕事で大切なことを教えてくれるという論法で進む本である。乱暴にいうと、楽天の人たち的な仕事を進め方を思い出す本である。ちなみに、本書は、完全なビジネス本であり、仕事の話しかない。
内容的には、「仕事はオーナーシップを持って望むことが大切だ」というのが全般的な主張であると思われる。他の言葉で言うと、コミットメントとか、デプロイするとか、であろう。これらのことは、私も仕事をする上で大切であると思うので、賛成である。
そのためには、事実を見つめ、それをOwnし(日本語では当事者意識を持つと訳されているが、いわゆるオーナーシップを持つと言う意味で、正確な訳語がないために、ここを説明するのは難しい)、問題解決を考え、実行すると言う4段階のプロセスが大切だと言う話である。
仕事にオーナーシップを持って取り組むことは当然大切だと私は思っている。そこに齟齬はないので、チームとして、はっきり言うと、部下にオーナーシップを持ってもらうためにどうすれば良いのかが私の課題であり、そこに良い方法論や、私自身が改める点があるかどうかを知りたくて読み進めてみたのだが、どうやらそれはなかったし、マネジメントとしてのはっきりした答えはなかったように思う。
この本は、チームを率いる人が読む本というよりは、チームの人に読ませる本(仕事にオーナーシップを持って欲しい人に読んでもらって、オーナーシップとは何か、オーナーシップを持って仕事をするということは、具体的にどのようなことをすることかを理解してもらう)であるなと思ったので、部下に渡して、感想を聞くことにした(が、前に本を貸してもいつまでたっても返ってこないので、そもそも本を読んでいるのかも怪しい)。
楽天風にいうと、"get things done"、日本語でいうと「やり切る」文化をある程度身につけていると自負している私としては、nothing newというか、当たり前のことが書かれていると思ったし、本を読むとかの知っている/知らないの問題ではなくて、やるかどうかの「実践の問題」であると思うので、私個人にとってこの本は無意味であったと思うが、人に勧めて役に立つのかもしれないので、部下の感想を気長に待ってみることにしてみようと思う。
ちょっと気になるのは、このような方法論で仕事を任された人たちに、仕事への義務感ややらされ感が出ないのか、というところである。そうなると、主体性からは程遠いので、その辺りを大変に心配しながら、この本を読んだ。主体的にこの本を読むような人は、そもそも主体的である可能性が高く、人に勧められて読むような人がやらされ感を持つような方法論であれば、あまり役には立たないのかもしれない。逆に、本を読んだ本人が、オーナーシップに目覚めてくれるのであれば、それは大変に喜ばしいことであるし、役に立つ方法論であろうと思う。
客観的に方法論を眺めたときの疑問点は、solve itの段階である。この本の問題解決は精神論でしかなく、科学的な問題解決手段がない。そこに、論理的なフレームワークさえ設定していない。問題解決能力が高いわけではない人がそこに直面した時に、前に進めず詰まってしまうのではないかという心配を私はしながらこの本を読んだ。
いずれにせよ、試してみないとわからず、実践してみないとこの本の有効性はわからないように思うので、やってみることにする。