書評:『世界の街角から東京を考える』(青山佾)

著者の青山佾(やすし)さんは、先の東京都副知事で、都市計画が専門の方。今までの都知事に対する批評を新聞に書かれていたのを目に留めて、その著書を読んでみました。

本の内容は、世界の都市についてです。読み始めて一番最初に思い出したのは、『ミシュラン・ベール』という本です。ミシュランと言うと、赤いミシュランが有名で、赤は、レストランガイド。緑のミシュランがミシュランベールで、こちらは観光ガイドブック。昔、フランスのTGVのリヨン線で、隣に座ったパリジャンのビジネスマンのすてきなおじさんが勧めてくれました。ガイドブックなのですが、「文化的な背景等が書いてあり、面白い」と言っていたのを憶えています。

さて、この青山さんの本は、米国、欧州、アジアの都市を東京都比べて書いてある本です。中身をよく調べずに買ったので、表紙を見た時には、

「あちゃー、やっちゃったかな?」

と思いました。私は旅行好きで、欧州の街を中心に大きな都市は観光で巡った事があります。本がカバーしている都市の一覧を見ると、欧州で行った事のある都市がたくさんだったので、

「JTBのガイドブックみたいな本多ったら困る。本代ぐらい、諦めるか」

と思いました。

本の書き出しは、ニューヨーク。私も行った事のある都市です。
読み始めると、良い意味で期待を裏切られました。

タイムズスクエアの歴史から、ウォール街から橋を渡る話。スラム街の話、地下鉄の話と続き、NYの歴史とともに、都市政策が語られていきます。

「うーん、正に、ミシュラン・ベール」

その内容の深さに、私の観光の浅はかさを思い知りました。
また、NYの建ぺい率の設定等、おもしろい話が一杯でした。

続いて、ボストン、シカゴ、ワシントンD.C.と続きます。少しずつ情報量は落ちますが、何せ私は米国観光に興味の無い人間なので、その分解的な背景や、都市の歴史を知る事ができ、大変おもしろく読ませて頂きました。

期待を高めながら、欧州に入ると、オリンピック後を検証しているロンドンまでは良いですが、私の大好きなフランス、イタリア、スペインになると、ちょっと『地球の歩き方』ぐらいになってしまいます。こと、フランスの街になると、内容が薄過ぎて役に立ちませんでした(私の興味の薄いドイツはまあまあ面白かったけど)。

アジアは、私の行った事の無い中国が少し詳しく、北京等は面白く読めました。

青山さんの研究は、東京・NY・ロンドンの都市政策比較研究だそうですし、東京とのお仕事をなされていたので、首都の研究をされていたという背景からは当然の帰結だろうと思いましたが、首都以外は内容が薄い。特にフランス等は都市に人がおらずに地方都市に人がいる構造なので、私から見てもフランスのまちの魅力が分かっていないなーと思いました。まあ、全てを深く理解するのは無理なので、しょうがない話ですが。

という意味で、米国と首都の機能を話すのであれば、この本はおすすめですが、世界を広く見ると言う意味では、ちょっと研究不足に思いました。

さて、肝心な都知事選に向けた中身も書いておきましょう。

世の中の都市は、
・環状線によって作られている街
・碁盤の目の街
の二つにわけられます。

東京は前者で、皇居を中心に環八まで走っていると言うとみんな分かってくれるそうです。田園都市を作る思想は英国にあり、真ん中の都市に対して、グリーンベルトの田舎地帯を作り、その外側に自立した職住接近の都市を造るのがセオリーだそうです。ベッドタウンを作って都心に通勤させちゃうと、電車が混みますからね。この発想でできるはずなのが田園都市。東京は、田園都市を作ってもオフィスが都心だから電車が混んでダメなんですね。田園都市線に職場ないし(最近で言うと、二子玉川を開発して、楽天がそこにオフィスを設けたのは、偉いと思いました)。他には、パリなんかが、この環状線型の都市です。

この手の都市は、環状線が命だそうで、これが無いと混雑しちゃうんだそうですね。東京は、関東大震災の後に環状線を整備して良かったと。ただ、他の都市と比べると、道路が細すぎるし、いい加減、あのうざい首都高速をつぶしませんかと思いました。地下に通しなおす例としては、ボストンがあるそうです。

後者の碁盤の目の街は、NYや北京です。弱点は、慢性的な道路の渋滞だそうです。NYもひどいと言います。北京は思い切っていて、社会主義なので、土地を召し上げて、環状線も地下鉄もガンガン作ってしまったとの事です。また、三国志の劉備、諸葛亮の都、成都もこのタイプ。成都は大都市で、環状線までばっちり整備された東京みたいな都市だそうです。田舎と思っていくとびっくりという規模の1000万人都市だそうです。京都も道が混雑するし、碁盤の目の都市も結構問題があるんだなと思いました。


この辺りを読んで思ったのは、「ハコモノ行政はダメ」と民主党は言うけれども、「必要なインフラの整備はやった方が良い」と思いました。特に、道路と地下鉄の整備ははやり必要だなと。

あと、「高層建築を作り、余った土地を生み出して、緑を増やす」と言うのも必要だと思いました。森ビルの森稔さんもこのようなビジョンをお持ちだったと思います。歴史的な建造物を残しているウィーンは、ほとんど公営住宅だから、歴史的な建物と町並みを残せたと。高級な公営住宅もあるみたいです。

東京もいつかは関東大震災があり、ごちゃごちゃした住宅地が燃えてしまうと思います。「その時に備え、都市計画を練っておき、高層化+緑の多い東京をつくってくれるような知事さんが素晴らしいのにな」という感想を持ちました。


また、世界で見ても、「東京にはスラム街が無い」と言うのが特徴だと青山さんは言います。低付加価値業務を行う為の移民を受け入れると、都市に貧富の差が生まれ、必ずスラム街ができると私は思います。なので、東京都は、単純業務をロボットで代替させて、高付加価値業務を人がやるようにして、いつまでも大規模なスラム街が発生しないまちづくりをして欲しいなと思いました。

そして、私が旅行をして思った事でもありますが、何よりも、日本の良いところは治安が良いところなので、素晴らしい警察力の維持・向上を含め、テロを発生させない、武器を持たせない、持ち込ませない、安全な東京で居続ける為に、都民として頑張っていきたいと思いました。

まあ、教育も大事なので、保育所、幼稚園、公立学校の整備もお願いしたいですが、インフラという視点で都市政策をみるのも面白いと思いました。

今度は、青山さんの『小説 後藤新平』でも読んでみようと思います。

『世界の街角から東京を考える』(青山佾)
http://goo.gl/LlTfpQ


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