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書評『新世界より 全3冊合本版』(貴志祐介)

珍しく小説なんです。

普段、あまり小説を読まないので、人に聞いた本でも読んでみようかということで、読んだのがこの本でした。最初の方は、久々の小説だったせいか、なかなかに苦痛で進みも悪かったのですが、後半になるにつれ、読むスピードが上がったのは面白いもので、「新世界」に入り込んでいけたのかなと思いました。いまいち感情移入はしきれませんでしたが、まあ、お値段分ぐらいは楽しめたかなと思います。

流石に小説となるとネタバレがまずいような気もしますので、書評というものを書いていこうと思います。

この本は、まず盛りだくさんです。何が盛りだくさんかというと、ステージが多い。RPGで言えば、子供時代あり、思春期時代あり、戦闘シーンあり、ダンジョンあり、お色気シーンあり、とゲームのように場面が色々と巡ります。そのシーンというか、ステージというものの盛りだくさん具合は大したものだと思います。合本を読みましたが、まさに3冊に及ばないと描けない物語を書いていると言えましょう。

であるからこそ、初期のステージの仕込みが大切で、この本のストーリーは、未来の特殊な環境を描いているので、その世界観に読者を慣れさせるのに時間がかかるのでしょう。

また、魔法使い要素があるので、その説明をする必要があります。アニメや漫画であれば絵や映像で表現することもできるのでしょうが、小説ですので、全て文章で書いていく必要があります。それなりの世界観を作り出すには、それなりの文章が必要なのかもしれません。それが、前半の退屈さを生み出しているのかもしれません。

途中の場面からは、スピードアップして、迫力も出てきます。

まあ、非常にRPGゲーム的な小説だと私は思いまして、ドラゴンクエスト的な展開が主人公であるわたしを中心に進みます。わたしをめぐるHard Thingsが進行していくわけです。

私があまり作者の表現方法で好きではないのは、主人公が過去を語る方式になっていることです。この方式にしてしまうと、主人公は必ず生きていて、死なないのが保証されてしまっています。その時点で、主人公に対するスリルがなくなるので、私はちょっとそこが残念でした。

舞台は、日本で、利根川あたりと茨城県・千葉県・東京都あたりです。この辺りの地形は、太古の日本では随分と形が違っていたので、SFの舞台にするには都合が良かったのかもしれません。利根川のルートは江戸時代に変えられていますし、霞ヶ浦のあたりは海だったという古代の地図もありますし、色々設定の自由がきいたのかもしれません。

色々なアクションの要素あり、セックスのシーンもありで、小説として盛り込むべき要素をたくさん入れているので、そこそこ人気が出たのかなと思うのですが、私としては、数少ないキャラクターが、限られた空間の中で、心の動きを中心に進んで、衝撃的な結末を迎える小説の方が好きなので、どうも大きな印象は残らなかったのですよね。まあ、エンタメ目的の商品なので、これで良いのでしょうが、読後の感想は、暇つぶしだなと思いました。

逆にいうと、私は読書に何を求めているのだろうか、と考えるきっかけになったのは、まあよかったかなと思いました。

中学生時代は推理小説もたくさん読んだのですけどね・・・


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