書評:『ロケット・ササキ』(大西康之)
孫正義さんの恩人であり、スティーブ・ジョブスの恩人であるという嘘くさいタイトルが本当なのが、シャープの伝説的なエンジニアだった佐々木正さんである。その人生が描かれた本。先日亡くなられたそうだ。RIP
純粋なシャープの方なのかと思っていたが全然違う。佐々木さんは一言で言えば、頭の良いスーパーエリートである。戦中・戦後の環境が、そのエリートをさらに育てる環境も整っていた。
佐々木さんは日本の商人の家に生まれて、台湾育ち。文学、英語に通じていて文系志望だったが、親の志望で理系に。ドイツ語も学んで、当時重電が主流の中、弱電の電子を選んだ、スーパーエンジニア。理論系の物理学がわかるほど頭が良くて、さらに、語学もできる。時は戦争だったので、大学から軍の研究所の呼ばれて、研究を始める。原理は電子レンジと同じ、殺人光線の研究させられるが、殺人実験を行う直前に終戦を迎える。が、この研究所で、たくさんのエンジニアと交流をもつ。その時に、民間企業に出向させられ、真空管の電話を作る。初期の黒電だと思う。
その後、その出向していた企業にいると、GHQに呼び出されて、電話を作らされる。お前らなっていないと言われて、米国に派遣され、ここで、米国の真空管・半導体のエンジニアに知己を得る。英語もドイツ語も得意だから、余裕で友達になる。
で、帰ってきて、神戸工業は潰した。母校である京大の教授になるはずだったが、シャープ創業者の早川さんに熱心に誘われて、伊達と酔狂でシャープに。ここまでがシャープに行く経緯である。47歳。佐々木をさんを作るという意味では、シャープは役になっていない。使った方である。
この頃は、情報産業の起こり。昔は、計算機も高級品で、軍需のみ。真空管から半導体になって、民需も作ってきた。この時に、重電っぽい半導体のバイポーラから、MOSへの転換が起きる(起こす)のが、佐々木さん。あと、役に立たなかった液晶もライセンスを持ってきて、役立つものに変えてしまったのがシャープ。これは、全部計算機を作るため。
そんなことをやっていたら、半導体に革命が起きる。全機能セットだった半導体を割って、MPUを作ったのがインテルの創業者。これも、お友達。慌てて追従してZ80を作るが、間に合わず。
計算機で作った半導体の用途の先を探していると、孫さんとかアスキーの西さんに出会って、色々助けてあげる。スティーブ・ジョブスもappleを首になってきて、佐々木さんを頼ってきて、ソニーの大賀さんを紹介してあげる。
現、経団連会長の中西さんが大好きな「共創」の創始者は、スーパーエンジニアの佐々木正さん。制御システムの天才的なエンジニアだった中西さんのスーパーヒーローは、私は密かに佐々木正さんなんじゃないかと思う。佐々木さんは、シャープが作ったエンジニアではなく、戦争とその戦後が育てた世界的なスーパーエンジニアなのである。
と、佐々木さんはすごい人である。天才である。というわけで、この本は面白い。
面白いのだが、残念ながら、この本はビジネスの役には立たないと思う。佐々木さんは天才だから、模倣できないのである。語学能力からして佐々木さんに叶う人はごく少数だと思う。
国策としては、「ちゃんとした先進的テーマを設定し、こういうスーパーエンジニアを発掘し、日本のスーパーエンジニア同士に交流を持たせ、世界のそれとも交流させ、民間に解き放つ」ということは有効だろう。ただ、佐々木さんは(元武家の)商人の家に生まれており、商売勘もあった。最近で似たような人をあえて言えば、孫さん何だろうけど、育ちが違う。孫さんの次を生み出すような仕組みを作るという国策にしか落ちず、個人の生き方としては、参考になるものは少ない気がする。
とは言え、この本は読むには面白いのでおすすめでは、あります。もっと、煽りの少ない佐々木正正史に近いものがあれば、ぜひ読んでみたいと思いました。