書評:『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』(本田 健)
いい話といえばいい話で、内容も人生の肥やしになる良い本のような気もするのだけれど、タイトルからして胡散臭い通り、胡散臭さは抜けず、実証的な証明がない、宗教色が濃い本であると私は認知した。
内容は、大学生時代に米国を放浪気味に旅した本田さんが、米国でふとしたきっかけで大富豪に会い、人生のあり方と、お金持ちになる方法を聞いた。大富豪になる秘訣を書いてくれているありがたい本、である。
ロバート・キヨサキさんの『金持ち父さん、貧乏父さん』と言う名著があるが、テーマとしてはそれに近いが、もう少し精神論が表に出てきている感じである。キヨサキさんのはシンプルな方法論で、論理的であるため、再現可能であるのに対して、こちらは、心の持ちようのようなことが書かれているのが中心である。私は、「精神論だから意味がない」と言う気は全くなくて、やはり、人間、同じ事実に向き合ったとしても、そこをどう認識して捉えるかで、人生がうまくいったり、ダメになったりすると私は思っているし、人生の中でそう言う感覚や経験もある。なので、この本に書いてあることを否定することは全くなく、むしろ、書かれていることには内容には賛同したいし、有意義であると思う。何しろ、話が面白いのだ。
その一方、冷静になって一歩引いて考えてみると、誰だかわからない「大富豪様」の啓示と言う形をこの本はとっていることに気づく。つまりは、論理的な根拠はどこにもないことに気づく。この本の構成は、聖書の類の神話と同じである。よくよくあとがきを読んでみると、「この本の物語はフィクションです。事実を元に脚色しています」とちゃんと書いてある。『ホモ・サピエンス全史』の作者の言葉を借りるなら、この本は、聖書や『ハリーポッター』と同じ神話である。ありがたい「大富豪様」のお言葉、つまりは、お金持ちになるための神の啓示をどう受け取るのか、が論点となる。
そこにこの本の胡散臭さと100%信用しきれないところ、つまり、一見良い話であるように聞こえるが、うっかり騙されるとオウム真理教に入信していた系の危なさを感じなくはない。
本の内容は面白いし、話の内容は、『ハリーポッター』としては面白いのだが、それが、まるで事実であるように信じてしまうとそれはちょっと危険な行為であるなと思った本であった。よくあるネットに流れてくるいい話の部類で、読み手のPVを取るために、脚色し、人の受けが良いように最適化されている香りがプンプンするが、そのように演出され、脚色されているだけに、お金持ちになるための『ハリーポッター』的物語としてのストーリーはよくできていて面白いし、引き込まれるものがある。また、人の行動を望ましいものに変えるという面では良い気がするが、間違っても、本田健氏の主催するセミナーにはまってしまうことがないように気をつける必要がある気がする。
なにせ、本田健はペンネームで、その元は「ほんだけ」だそうである。この本に書いてある大富豪の教え通り、本田健氏は、自分が得意で好きなストーリーを書くことだけに特化していると容易に想像ができる。ロバート・キヨサキ氏よりも古い本多静六氏の本が私は好きなのだが、そのホンダをパクっているのかもしれないし、関係ないのかもしれないなあと思いながら、この本を興奮を持って読んでみた。ぜひ、皆様も斜め上からの姿勢を保ったままこの本を読んで、その世界に引き込まれていただければ幸いです。
そして、本田健氏に置かれては、私の勝手な希望を述べさせていただければ、これだけ良い神話を書けるのであれば、思い切って、『ハリーポッター』のようなフィクション作品を書かれて、小説家の道を歩まれれば良いと思う。大富豪になるべく、人生をあゆむハリーポッター的な作品を書かれるのであれば、この人以上の才能に溢れた人はいないのではないかと思うので、是非とも偉大な小説家の次回作に期待である。