書評:『コーポレートベンチャーキャピタルの実務 』(倉林陽)

事業会社にいる手前、VCではなく、CVCについての本を読んで見た。

過去にいた会社で、現場や人を見ている手前、日本のCVCがうまくいかない理由はよくわかっているので、私としては、あるべきCVCとその実務というのに興味があって、この本を買った。具体的には、CVCの設立の仕方、関連する法規とか、設立における注意、どれくらいの予算でやるのか、などの実務を期待していたのだが、この本は、そういった実務が何も書かれていなかった。この本を読んで、CVC設立の実務を立ち上げられる気がしない。

代わりに、世の中のCVCがどんなものなのか、といった概要が書かれていて、MBAの学生が買いているような話が多い。どちらかというと、スタートアップ企業における"Hard things"のようなものを期待していたので、生々しさというのが何にもなくて、非常に残念であった。

さて、日本のCVCがなぜうまくいかないのか、本んと関係なく書いておくと、答えは、役員の任期である。VCがうまくいくには、10年の期間が必要である。VCの資金は、LPから10年で引っ張ってくる。GPがその資金の配分は決めるが、出資時にキャピタルコールで実際にお金を引っ張ってくることが多い。スタートアップの事業が軌道にのるのに、5−10年はかかるものだから、VCの年数が10年あるのは当然であり、合理的である。

一方、日本の役員の任期は3年ほどしかないので、CVCをやっても、自分の任期中に結果が出ない。また、10年あると好不況の波がある。好況時に始めようとやって、不況時に予算が出ない。日本の伝統的な企業の予算は、1年単位なので、10年単位の投資ができない。CVCをやるなら、キャピタルコールじゃなくて、一括出資の形が望ましいだろうと個人的には思う。

また、スタートアップの投資だから当然失敗する。減損が出た時に、他の役員からうだうだ言われて、その地位を追われるようなガバナンスをしている企業では、VC投資などできない。ただそれだけである。

日本でCVCができるのは、オーナー企業と、自らスタートアップ企業として起業して、VCから調達して、成功した企業だけだろうと思う。また、そういう人たちがCVCをやれば良いのであって、伝統的な日本企業で、IPOしていて、オーナー企業ではなくて、サラリーマン社長の会社がCVCをやる必要はないんだなと改めて確信しただけの本だった。

それが確認できたという意味では、良い本だった。中古でいいや。

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