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書評:『バフェットからの手紙 第5版』(ローレンス・A・カニンガム) その3
この本を読みながら読むべき記事がこちらです。
第三章 選択肢について話していきましょう。
選択肢
長期的に持つ普通株以外の保険会社の資産運用について書かれています。シンプルですね。
1 長期普通株投資
2 中期固定利付債
3 長期利付債
4 短期現金等価物
5 短期裁定取引
投機をしている人たちは、「株をやる」なんて言いますが、資産運用を考える上では、株式なのか、債券なのか、現金なのか、裁定取引なのかを選んだ上で、もっとも利回りの期待値の高いものをやるという当たり前です。しかし、それが、できる人は少ないなあと思います。
パイルAの話
バフェットの話の面白さが凝縮されているのが、その説明とユニークさとわかりやすさでしょう。その代表例と言って良いのが、このパイルAという話です。
現在の世界の金の保有高は、約17トンで、積み上げると野球場にピッタリ収まる程度の立方体になりそうです。これがパイルA。
パイルAと同じだけの金額になるパイルBを株式ポートフォリオで作ろうとすると、以下のようになるそうです。
・米国のすべての農地
・エクソンモービル 16社分
・1兆ドル
驚くべきことに、これのどれかではなく、全部になる。
パイルAは所有しても何も生み出さないが、パイルBはたくさんの農作物と、たくさんの利益と配当金と、現金が手元に残る。
不況時に金を持ち続けることの馬鹿馬鹿しさをバフェットは時々話しますが、この例は非常にわかりやすくて良いかと思います。
まあ、インフレする紙幣などもっと酷いので、相対的な問題でしかなくはありますが。
ジャンクボンドの話
低格付の債券がジャンクボンドです。バフェットは、低格付の債券を二つに分けていて、債券を出していた時に大丈夫だった会社が格付を下げた「堕ちた天使」と「元々の資本構造が破綻している会社の債券」の二つです。
健全な資本構造をしていた会社が、一時的な不況などで格付を落としている堕ちた天使であれば、ポートフォリオを組むことによって利益を得ることはできるかもしれませんが、「元々の資本構造が破綻している会社の債券」では、それが成り立ちません。
統計学がわかる学生でもわかるとバフェット言っているのは、ジャンク債ポートフォリオが儲かるという理論は、「堕天使」の数字を統計にして、「元々の資本構造が破綻している会社の債券」のポートフォリオに適用しているということです。巧妙な嘘は、一部だけをすり替えますからね。こういう警告に、投資家は耳を傾けるべきでしょう。
本には出てませんがマンガーの「くそに味噌を混ぜてみても、クソはクソ」という言葉を思い出します。
ゼロクーポン債の話
私は、この話を読むまで、ゼロクーポン債の悪さを理解していませんでしたが、バフェットの解説はわかりやすくて良かったです。
ゼロクーポン債というのは、利子を払う代わりに、元の調達額を減らしておく債券だそうです。
例えば、100万円の通常の債券があるとして、利率は1%とします。
すると、1年目に1万円がもらえ、2年目も同じ。これが10年続いて、満期に100万円が返ってきます。
ゼロクーポン債は、最初に90万円で債券を買って、10年後に100万円が返ってくるというものです。
これは普通に使うと便利なのですが(利子を支払う手間がなくなるので)、悪く使おうとする人には、悪用できる代物なんですね。
人から100万円借りて、遊んで返すつもりがない人がいるとします。
100万円を借りました。3日後に、キャバクラで遊んで全部使いました。
普通の利付債券であれば、1年後に1万円の利払いができないので、1年目に破綻します。まあ、ろくでもない人ですから当然です。
ところが、ゼロクーポン債であれば、それがバレるのは10年後です。
お金を貸した人は、10年後に「100万円返して」と言ってみて初めて、気付くわけです。
「ん、ああ、10年前にキャバクラで全部使ったよ。返せない」
出した90万円が返ってこないことに気づくは10年後であるわけです。
1年で気づけば、誰もこの人にお金を貸しませんが、10年の猶予があると、途中でまたゼロクーポン債を発行し続けて、この人は遊ぶことができます。
1年目は100万円、2年目は200万円と、発行を多くしていけば、債券の調達で1年目の債券を支払うことができ、キャバクラで浪費をしながら、生きながらえることができるわけです。
という、ろくでもない輩が、企業でもいるので、特にゼロクーポン債を買うときには気をつけろという話でございました。
債券投資をするなら、これ知っとかないといけません。
優先株
優先株というのは、契約によって債券の性質をつけたり、株式との引き換えができたする代物で、普通株とは区分けされています。
まずは、優先株というものがあるかどうかを知っている、ことを通じて、普通株とどっちが良いかの比較ができます。
バフェットはたびたび優先株を買っていますが、その個別銘柄の評価は、経営状態によって大きく変わります。スーパーな経営者が出てくると、経営を立て直して、優先株の株式部分の価値が大きく高まります。それまでは、潰れなければ、債券として生き残るという道を模索します。
バフェットは長い期間優先株を持っているので、その個別銘柄の悲喜交交が書かれていて、優先株とはなんなのかが、よくわかって良いと思います。
金融派生商品
いわゆるデリバティブと言われるやつですが、まあ、悪どいです。
バフェットがこれを問題と言っているのは、リスクが隠蔽化され、リスクが顕在化したときに、どこまでリスクが波及しているのかわからなくなる事象を指しています。いわゆる、不透明さが、パニックを引き起こす部分に問題をハイライトしています。
金融派生商品のほとんどは、オプションです。「一ドルが100円を切った時に、100ドル分を1ドル100円で買うことを保証する」などがオプションです。
金融派生商品を買う側は、「一ドルが100円以下になるリスクをなくす」ために、こういうオプションを買うわけですが、実際、一ドルが100円以下になったときに、このオプションを引き受けた金融会社がなくなってしまう、というのが金融派生商品のリスクです。
オプションを買っていた側は、1ドル100円以下になるリスクをオプションでヘッジしていたはずなんですが、そのリスクヘッジがいきなりなくなるので、前提がおかしくなって、パニックになる。何がパニックになるかというと、「こいつに金を貸して良いのか」がわからなくなる、信用パニックが起きるわけです。
いわゆる、透明性が禿げると、信用は機能しなくなる。まあ、中国みたいに嘘ばっかりつくやつは、経済システムに取り入れない方が良いってやつだし、金の貸し借りは現金ってことですよね。
本文の中で、失敗事例としてのLTCMが書かれていますが、少し引用しましょう。
この種のトータルリターンスワップは、取引証拠金制度を無意味なものにしてしまいます。その上、他の種類の金融派生商品によって、規制当局がレバレッジを抑制し、銀行、保険会社及びその他の金融機関のリスク特性を全般的に把握する能力は著しく低下してしまいます。同様に、経験豊富な投資家やアナリストでも、金融派生商品取引を大規模に利用している会社の財務状況を分析する際には問題に直面するでしょう。
あれ、これ、アルケゴスに対するコメントですか?
まさに、トータルリターンスワップを多用して破綻したのが、アルケゴスです。そして、そのリスクが顕在化した途端に損害が確定したのが、自称、経験豊富な投資家である野村証券であり、クレディ・スイスであり、その他の証券会社であるわけです。そして、彼らは、アルケゴスという会社の財務状況を分析する際には問題に直面しました。で、損害がでたわけです。
ま、野村証券にも、クレディ・スイスにもバフェットのこの文言を読んだ人はいるでしょうから、本当に株式市場の参加者というのは、物忘れの酷い人たちですね。
一見、金融派生商品(それはデリバティブとか、オプションと呼ばれます)でリスクをヘッジできているように見えても、その商品自体が飛ぶリスクがあるので、本当の意味でのリスクヘッジなどできていないわけです。
よくわからぬものは買うな、ということだけですね。
持ち家政策ーー実践と方針
住宅ローンについて書かれています。お金を借りる方ではなくて、貸す方の話です。
頭金を払って、住む目的の不動産(業界で言う実需)むけの住宅ローンなら安全だけれども、住宅価格の上昇を狙って、頭金なしで組んでいるローンは不安定だから買っちゃダメよね、という話が載っております。
まとめ
グレアムの証券分析に詳しいですが、投資の対象となるものは、株式だけでなく、ましてやビットコインなどだけではなく、多岐にわたります。
それを比較検討した上で、それらのポジション(比率)を最適にしていくのが投資であるわけです。
この株価は上がるのか、ではなく、今は、現金で持っていた方が良いのか、株式で持っていた方が良いのか、債権を持っていた方が良いのか、というのを判断するのが投資なんですよね。
また、普通株で買うのか、優先株で買うのか、債権を買うのか、なんていう選択肢もあるべきです。
ほとんどの素人投資家がその証券の存在や仕組みを知らない中で、プロの投資家たるバフェットはそれらを熟知しているので、儲かるんだよなあ。とこの章を見るとわかります。
また、優先株の章のように、知っているだけでなく、バフェットはそれを買って運用した経験もあります。買ってみてわかることもあるわけです。なので、やはり投資家というものは、経験を積んでいる方が有利であるなあと思うわけです。
経験を積む意味で、若い頃から初めるのが良いと思います。また、最初は続く失敗を大きなものにしないという意味でも、あまり多くのお金を持っていない若い頃から投資は始めたほうが良いのだろうなと思います。
気が向いたら続く。