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キャッシュレス消費者還元事業は、誰のための政策なのか、を考える
又の名をポイント還元制度というらしい、いわゆる消費税10%に値上げしたものを和らげるべく、キャッシュレス決済をした場合、5%を戻すという政策が、日本政府によってなされているわけだ。この政策の意味を考えて見たいと思う。
制度の概要と起きている結果から、誰が得したのか?その意図はなんなのかを考えていこうと思う。
中小店舗でクレジットカードを使えるようにする
この制度、大手チェーン店は含まれず、小型の店舗では含まれる。
Paypayがわかりやすいが、今まで現金決済であった中小のお店に、キャッシュレス決済が入っていく。中身としては、Paypay, linepayなどの電子マネー型のものもあれば、多くはクレジットカード、デビットカードの決済が入る。
今まで日本の小型店舗というのは現金主義であった。日本円がすごくしっかりしていて、偽札が少ないということや、コイン体系がしっかりしていて、硬貨もちゃんと機能しているという要素が大きい。
ただ、これから東京五輪で色々な人が来るというのに、クレジットカードさえも使えないというのはまずい。なので、消費税10%にかこつけて、現金をばらまいて、こういう事業をやって、中小の店舗でもクレジットカード、デビットカードを使えるようにしようというのが大きいだろう。
大きく言えば、外国人向けのおもてなし。インバウンド市場の加速というところが、表向きに見える意図である。
実際の経営を深掘りしてみると、違う姿が見えて来る
さて、ここまでが大学1年生の分析であるが、実際の経営の現場となると違う絵が見えて来るであろう。
中小店舗がクレジットカード、デビットカード、電子マネーを採用しないのは合理性があるからである。何かと言えば、資金繰りである。
八百屋でも真っ当に経営して入ればわかる程度の話であるが、小売業を行う際に大事なのは、資金繰りである。ものを仕入れる、ものを売る、というのが小売業の基本であるが、お金の出入りの順番を加えると、
ものを発注する、ものが届く、ものを売る、現金が入る、仕入れを支払う
という順番になる。この場合、ものが売れている限りにおいて、資金繰りの問題は発生しない。品を売ってお金が湧いてきた後に、品のお金を仕入れに支払うので、事業をする人は銀行からお金を借りる必要がない。売上が伸びている限りにおいて、資金は溢れてくる。
さて、クレジットカードである。クレジットカードを入れた場合は、取引条件によるのだが、売った後の数ヶ月後に入って来る契約が多い。
ものを発注する、ものが届く、ものを売る、仕入れを支払う、現金が入る
この順番になる。この場合、品の仕入れにお金を出してから、品を売った代金が入って来るので、手元に資金がなければ、商売ができない。十分な手元資金がない事業者は、銀行からお金を借りる必要が出て来る。しかも、売り上げが伸びれば伸びるほど、資金が逼迫する。
Suicaであろうが、クレジットカードであろうが、デビットカードであろうが、店舗側の条件は似たようなもので、資金繰りを考えるのであれば、現金決済、現金商売が、リスクが少ない。
借金をすれば、もちろん、利払いも発生する。
おまけに、クレジットカードであろうが、なんとかペイであろうが、決済には手数料がかかる。この手数料というものを誰が払うのかというと、店舗側が決済事業者に支払うことになる。これは、店舗にしてみれば、税金のようなものである。こちらも取引条件によるが、0.5%-3%ぐらい取られていると捉えるのが常識的な数値であった。
これも店舗からすると、税金を取られるようなものである。利益が数%削られる。ちなみに、この手数料、交渉力の問題なので、大手は安く済んでおり、中小企業に高く設定されている。これを嫌う小売チェーン店大手は、自社グループにクレジットカード会社を持ち、収益化している(これは、伝統的な手法であり、かつてのダイエーはクレジットカード事業で儲けて、倒産した)。
というわけで、中小店舗にとって、キャッシュレス決済を導入する影響を並べてみると、
・資金繰りが悪化する
・運転資本が赤字体質になり、負債が増え、利払い費用が増加する
・決済手数料を取られるので、利益率が数%低下する
と、楽しいことばかりである。
ポイント還元で店舗の売り上げは一時的に増えるが、、
そりゃ、5%も還元すれば、消費者の消費は上向く。この辺りは心理的な側面もあるが、もっと単純な話で、消費税が2%上がって、給与が2%上がっていないのであるから、同じ手取りなので、2%消費を下げるわけだ。
これが、5%の還元をかけるから、消費の落ち込みを抑えて、消費を刺激する。消費者側の政策としては正しいし、その消費刺激効果は、去年のpaypayが証明しているのである。
店舗にとっても、売上増の効果はあるので、キャッシュレス決済を入れるモチベーションになる。この辺りは、paypayキャンペーン時の大手量販店(ビックカメラ、ヨドバシカメラ)における騒動をみれば十分だろう。
但し、この還元は期限が決まっているのである。問題は、還元事業のその後である。
ポイント還元が終わった後に得をするのは誰か?
損をするのは誰か。明らかに中小の店舗である。
得をするのは、ズバリいうと、金融機関である。
店舗が払うクレジットカードの加盟店手数料(店舗の利益を削って払う)は、クレジットカード会社に入る。デビットカードも同じである。大手のカード会社は、MUFGとか三井住友なども持たれているわけで、銀行を持つ金融グループの懐に入る。大手小売店はこの被害には会わない。自社発行のカード会社に利益があるが、店舗で損をしているので、ゼロサム。損益の効果はニュートラルである。
中小店舗の資金繰り悪化による負債は、誰が得をするか?資金繰りが悪化した店舗に対してお金を貸すのは、銀行や信金やサラ金。なので、金融機関が得をする。そして、今では、サラ金(消費者金融事業者)の多くは、大手の金融グループによって保持されている。
さて、新興のなんちゃらペイの事業者が特をするだろうか?おそらく答えはNoだろう。
大きな金額の決済であれば、クレジットカードやデビットカードが使われる。小さな決済は足しても大きな額にならない。しかも、なんちゃらペイのチャージにクレジットカードを使うのであれば、なんちゃらペイ事業者は、クレジットカード会社に手数料を取られているわけで、結局クレジットカード会社に大きな利益が入り込むであろうと予測される。
結論は、メガバンクの救済?
と、真面目に影響を分析していくと、この政策の本当の狙いは、メガバンクの救済ではなかろうかという気がしてくる。
前提として、アベノミクスで、日銀は大量のマネーサプライを入れまくって、強引に日本の金利は低く抑えられている。アベノミクス以前の日本の銀行は、芸がなく、預金を集めて薄利の利回りをつけて、日本国債を黙って買って利回りを取り、その差額で儲けてきた。一方、RPAに代替されるようなどうでも良い書類仕事をして経費を積み増してきたので、大した利益は出なかった。それに怒った日銀総裁が、日銀バズーカを売って、国債の金利をゼロにしてしまったので、社債を買い出した。社債も利回りがつかなくなったので、米国債を為替ヘッジをかけて買い出したが、ヘッジのコストが高くて、こちらもスプレッドが取れない。
「それじゃあ」と、大手安定企業にお金を貸して、利回り取ろうとしても、リスクの割に金利は取れないし、そもそも、企業の方も持たざる経営をしているので、キャッシュフローがプラスで、資金需要がない。企業の預金は増えるばかり。
じゃあ、住宅ローン貸そうとして頑張ってみる。一般顧客への住宅ローンは十分低くなって、こちらもマイナス金利まで飛び出している制度だから、たいして儲からない。
じゃあ、サラリーマンに借金させて、強引にアパート建てさせて、賃貸住宅を立てようとしていたのが、スルガ銀行さんで、見事に、かぼちゃの馬車でおめでとう、となってしまった。
さて困った銀行さんであるが、こうなると中小企業に借金してもらうしかない。信用が低いので、金利は取れるし、である。でも、ニコニコ現金払いの健全経営の中小企業には資金需要がない。そこでキャッシュレス事業で、中小店舗の利益率を下げさせ、お金を貸し付けて、儲けようというのが、クレジットカード会社と銀行を傘下に持つ金融グループの作戦である。
じゃあ、どうして銀行を救済するのかと言えば、それは日本政府の為でもある。
今の日銀バズーカ、大量のマネーサプライのゼロ金利政策は、銀行をはじめとした金融グループの業績の悪化という大きな副作用を抱えている。銀行がガンガン倒産してくれても、景気にはマイナスなので、どこかでこれはどうにかしなくちゃならない。銀行の経営を安定化させる上で、一番素直なのは、ゼロ金利政策をやめて、金利を上げることなのだが、そうも問屋が卸さない。
日本政府は、言わずと知れた借金漬けの政府である。そのバランスシートの左にどういう資産をのっているのかはともかく、国債の利払いの費用がかなり大きくなっている。これをゼロ金利にして、借り換えれば、日本政府の借金は棒引きになる。借金漬けの日本政府としては、しばらく、これを続けて、バブル時代の高金利の国債を低金利で借り換えたいのである。
と一周回って、おもてなしとか、消費者の為と偽装した、日本政府の国債対策でしかないのが結論である。良くできた政策だな、と感心するわけであるが、本質的なところに手をつけない猿知恵のような気がしなくもない。やはり、「ちゃんと産業構造改変の政策をとってほしいよなあ」という気持ちで、この記事を閉じようと思います。
長い記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。