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ティアマト再び(1)

"ティアマト" 
一般的になんとなくでもその名を聞いたことはあると思います。
ある人は女神の姿を思い浮かべ、ある人は複数の首を持つドラゴンの姿を思い浮かべ、またある人(特に競馬好き)は馬だったりするかもしれません。

以前、"ティアマトの11の怪物"としてメソポタミア神話に登場するティアマトと11の怪物の姿を考察しました。
その中ではティアマトを女神の姿として描写しましたが、更なる文献に当たる中でもう少し深堀できるとわかり、追加の記事を書いてみます。

先ほど挙げた
・女神
・ドラゴン
・馬
この中で一番ティアマトの真の姿として相応しいのはどれか、という話の前に、まず一番ダメなものがあります。
それはちょっと昔のRPGではお馴染みだったドラゴンです。

この原点はダンジョン&ドラゴンズ(D&D)というテーブルトークRPGというゲームにおいて"5頭のドラゴン"として登場したものになります。
このダンジョン&ドラゴンズにおいて、バハムート、ヌルと合わせて3柱のドラゴンとして扱われており、ゲーム独自の設定で複雑なドラゴンの階級と属性が決められています。
実際、ティアマト以外にもバハムート(魚)やクジャタ(牛)といった本来はドラゴンとは関係ないものもドラゴンとして扱われているので、ティアマトもそれらと同じように偉大なるものの名前を冠されたのだと考えればよいのかと思います。

ただ、バハムートとクジャタに比べるとティアマトは完全にドラゴンと関係がないかというとそうでもなく、彼女は神話の中でも竜と呼ばれる存在を生み出した神であったりします。
神話ではティアマトの生み出した11の怪物の内、
・ムシュマッヘ(7頭の竜)
・ウシュムガル(偉大なる竜)
・ムシュフシュ(炎の蠍尾竜)
・バシュム(毒竜)
と4体の竜を生み出しています。
名前がなんとなく似ていることから察しがつく人もいるかもしれませんが、古代シュメール語、そしてそれを取り入れたアッカド語において"ムシュ(muš)"は蛇ないし竜を意味する言葉です。
怪物の像ないしレリーフは古代メソポタミアでは人気で様々なものが残されていますが、この4つの竜の内不思議とムシュマッヘだけは現存するものがありません。単に残らなかったのか、それともあえて作られなかったのかは未だ結論といえるものはありません。
神話"エヌマ・エリシュ"においてムシュマッヘは他の怪物たちに比べて別格の凶悪さ(鋭い牙を持ち、血は毒で満たされている)で表現され、そもそもちゃんとした説明が加わっているのはムシュマッヘだけです。
そのため、ティアマトの姿と同一視され、ティアマト=多頭のドラゴンというイメージがD&Dでも採用されたことで他のRPGにも採用され広まってしまったのだと思われます。
しかし、11の怪物というようにティアマトが生み出したのは竜だけでなく、他は蠍人間、魚人間、海人、獅子X2だったりしますから、彼女自身を竜と同一視するのは完全に後付けのそれもD&Dの世界を創造する上での都合でしかないわけです。

ドラゴン系ティアマトはD&Dを筆頭に("ティアマット"のような表記揺れも含めて)
ファイナルファンタジー
ブレスオブファイア
オウガバトル
聖剣伝説LOM
サンサーラナーガ2
モンスターストライク
マジック:ザギャザリング
パズル&ドラゴンズ
などに登場しています。
(他作品があればコメントいただければ追加します)

ムシュマッヘと同一視されたにしてもD&Dで5頭とされた影響か、どの作品でも首の数が原典より減っている傾向があります。
なお、女神転生では邪龍とついてはいるのですが、その姿は魚人に蛇が絡みついたような姿なので、ある意味より原典の怪物の意図を組んでいるように思います。
ただ、ティアマト自身が生み出した怪物と同じような姿をしていたという表記もそれに関連する像やレリーフも残っていないのでこれも想像としては面白いの域でしょう。
そもそも、ティアマトの姿として描かれる文章が残っているものでも極端に少なく、分かるとすれば"尾を持っている"ことぐらいです。

次回は女神系ティアマトについて考察していくのですが、これもなんとなく無難なようで"尾を持っている"という表記が原典にある中、どのように考えていくかを書いていきたいと思います。


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