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【舞台脚本】「カレの引越し」(冒頭)

〈人物〉
野々村夏恋(かれん)(26)会社員
田畑優二(26)夏恋の恋人
太田理恵(27)夏恋の親友
笠原ユカリ(28)田畑の大学時代の先輩
間宮啓(38) 田畑のアルバイト先の店長

一幕一場 田畑優二の部屋(夜)
   舞台中央から上手に、狭い1K。
   部屋の右手にキッチン。
   左手に乱雑なベッドと扉の開いたクローゼット。
   中央のローテーブルの左手に田畑優二(26)が座り、ノートPCで作業している。
   野々村夏恋(26)はその向かいに立ち、上手寄りの玄関土間に立つ太田理恵(27)と話している。

理恵「ごめんね夏恋、引越し前に無理言って」
夏恋「理恵、こっちこそごめん。式まで10日も無いのに。
   差し入れありがとうね」
   夏恋、ローテーブルの上の箱を指す。
理恵「そのくらいはね。明後日、手伝えないし」
   田畑がテーブルから立って理恵に近づき、DVDを差し出す。
優二「はい、これ。我ながら、うまく編集できたと思うよ。
   太田の親父さん、絶対泣くなぁ」
   理恵、受け取りながら、
理恵「ありがとう! 田畑君、昔からほんと優しいよねぇ。
   夏恋てば、幸せ者ー」
   夏恋、大きく横に手を振る。
夏恋「理恵こそ! 優二は優しいっていうより、優柔不断?」

   夏恋、部屋を見回す。
   そこここに、荷造り途中とおぼしき段ボールがある。
夏恋「これで本当に、引っ越しできるのやら」
優二「まぁ、日曜までにはなんとかなるっしょ」
   三人、笑い合う。
夏恋「理恵、そこまで送るよ」
   夏恋と理恵、玄関の扉を開け出て行く。 
   携帯の着信音が鳴る。優二、ポケットからスマホを取り出す。

   *  *  *

   舞台下手が明るくなる。
   電信柱に、ゴミの集荷スケジュールの貼られたブロック塀。
   電信柱脇に笠原ユカリ(28)がスマホを耳に当て立っている。

ユカリ「もしもし、優二?」
優二「ユカリ?」
ユカリ「近くなの。今から取りに行くわ」
優二「今日はちょっと」
ユカリ「大丈夫よ、すぐ帰るから。彼女、今は?」
優二「ちょっと出てる」
ユカリ「そう。すぐ行くわ」

   舞台上手、暗くなる。
   ユカリ、スマホを鞄にしまいながら上手へ歩き出す。
   夏恋と理恵、上手より登場、ユカリとすれ違う。
   夏恋、振り返って上手に消えてゆくユカリを目で追う。

夏恋「今の人、綺麗だったね~」
理恵「そう? なんか気が強そうな感じ。男が寄りつかなさそう」
夏恋「うわぁ、勝ち組、容赦ないー」

   理恵、電信柱のそばで立ち止まると、夏恋の方へ向き直る。
理恵「夏恋、あんたたちどうなってるの?
   引越しって、てっきり決まりだと思ったのに」
   夏恋、うつむく。
夏恋「…私だって、思ってたよ。
   高校からだもん。今度こそ、そうだろうって…」
理恵「あーあ。実家も出ずに、プロポーズ待って。
   もう何年? 8年か…」
   理恵、天を仰ぎ、ため息をつく。

理恵「親友として言うけど、さ。
   夏恋、他の人にも目を向けてみたら?」
夏恋「他の人って…」
理恵「結婚式、うんとお洒落して来てよ。
   旦那の友達、結構イケてる独身いるから。ね!」

   理恵、軽く手をふり下手へ去る。
   夏恋、手を振り返しながら曖昧な表情で見送る。
   と、手を下げ少しうつむく。
夏恋「他の人って…」
   夏恋、顔を上げ両手で頬を叩くと、向きを変え上手へ歩き出す。
   下手、暗くなる。

   *  *  *
   
   インターフォンが鳴る。舞台上手、明るくなる。
   優二が玄関の戸を開けると、ユカリが入って来る。

ユカリ「こんばんは。久しぶりね」
優二「…久しぶり」
   ユカリ、部屋を見回す。
ユカリ「もう6年? 懐かしいわ」
   優二、ベッドの方へ歩きながら、
優二「結構、色々残ってるもんだな」
ユカリ「捨ててくれても良かったのよ」
優二「いや、それはさ…」
   優二が紙袋を持って玄関に戻ってくる。
ユカリ「ありがとう。相変わらず優しいのね」
   ユカリ、紙袋を受け取り、ちょっと中を覗く。

   玄関の戸が開く。夏恋が立っている。
   固まる優二。
夏恋「ただいま…って。え、何? 誰?」
   夏恋、大きく目を見開く。
   ユカリ、向き直って、じっくり夏恋を観察する。
   と、テーブルの上でスマホが鳴り出す。

   *  *  *

   舞台下手が明るくなる。
   電信柱の脇に間宮啓(38)がスマホを手に立っている。

間宮「あらぁ、優ちゃんたら、出ないわねぇ…」
   間宮、手に提げたデリ風の紙袋と、スマホを見比べる。
間宮「ま、いっか。行っちゃいましょ♪」
   間宮、上手へ歩き出す。

去年、課題で初めて書いた、舞台脚本形式の習作です。
映像シナリオとは組み立て方も書き方もかなり違って、大変勉強になりました。
いずれお芝居として完結したら公開を、と考えていましたが、公開しないと書き上がらない気がして来て…。
ただ今、職場は、改装工事を控えて段ボールが山積み。
連日、引越し前夜のような風景の中で働いていることも、公開スイッチに影響しているのかもしれません。

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PD * みふみ
こんな状況だからこそ、心をロックダウンしない★ サポート(創作系の勉強に使います!)も嬉しいですが「スキ」やシェアが励ましエネルギーになります♡ 応援よろしくお願いしますっm(_ _)m❤︎