ギリシャに苦しめられた過去、ギリシャに助けられた今日~「それでも僕らは出社する」(2)
この記事は、エーゲ海の美しい国ギリシャとは何の関係もございません。
不愉快に思われる方がいらっしゃいましたらお詫び申し上げますm(_ _)m
私の会社には、系列にシステム系の会社がある。
当然ここが、グループ全体のシステム管理をするという立て付けだ。
そのシステムの中に、当然「リモートワークシステム」も含まれる。わけなのだが。。。
緊急事態宣言にあたり、「最大限に営業停止」「原則就業禁止」「特定業務従事者も原則出社禁止」「出社は最小人数・時間で」「特定業務従事者には在宅勤務用のモバイルキットを配布します」と立て続けに社が出した方針。
それを見て、ひとり、いや~な気分になった私だった。
ギリシャに苦しめられた過去
かつて私は、系列のwebニュース配信会社に異動させられたことがある。
3年ほど、記者や編集者、広報の真似事をし、毎日毎日大量の記事を書き、校正し、各種メディアで発信し続けていた。
最後の年のこと。社の意向で「スマホアプリを開発し、建物内でスマホの位置情報を元にユーザーに情報発信をする」というプロジェクトが持ち込まれた。
「情報発信の部分を担当せよ」というわけだ。
当然、組むのは件の系列システム会社である。…悪夢の始まりだった。
我が社にありがちな展開だが、まず、時間が全くなかった。
「ゴールデンウィークには、ローンチさせる」と上から言われたこの案件、私に知らされたのは、年度末のチーフ昇格辞令と同時である。
「もう1ヵ月しかないやんけ!」
システム会社の当該チームに慌てて会いに行った。
顔合わせしたのは、
「いやいや、デモ版はもうほとんどできてますから~」と、悠然と構えているシステムチーム6人組。
…実施商業施設(もちろん系列である)側との認識共有も、ローンチのキャンペーン案も発信テーマも、情報の収集・更新といった運用体制の整備も、何もかもが白紙だった。
ただ、システムの原型があるだけだった。
ここからの1ヵ月の記憶はまだらである。
ただでさえ忙しいニュース配信チームのメンバーに「えーっ、聞いてない!」「そんなのウチの仕事じゃない!」と金切り声を上げられ、結局ほぼ1人で商業施設側との調整&運用フロー作りと、キャンペーン立案&発信計画&コンテンツ作成をすることになった。
毎日15時間くらい会社にいて、「間に合わない! 間に合わない!」と叫びながら、web配信業務で時間を細切れにされながら、必死でタスクをこなした…ように記憶している。
幸い、商業施設側のフットワークの良い実力者に出会い、賛同を得られたため、なんとかギリギリ間に合ってローンチに漕ぎつけた。が、課題山積のスタートだった。
ここで、「課題点」を、きっちり! システムチームに伝えてしまったがために…。気づけば、私は、知識ゼロで企画開発側に片足をつっこんでいた。
社内で微妙に注目されることになったこのPJ(華々しい成果があった訳ではなく、ちょっとだけ流行りの技術に掠っていたからである)。それを受けてか、やたらと小刻みに微妙な改修を重ねたがるシステムチーム。
連日彼らと話し合いを重ね、「商業施設側の事情」「情報発信者の視点」「運用側の実感」から、システムチームの「下請け企業さんへの改修発注案(わが社の本業が全く別業界のため、系列会社の社員も生粋のシステム屋は少なく、当然のように外部に頼るのである)」に待ったをかけ、より実用的なシステムプランと改修スケジュールに軌道修正する、という戦いが始まった。
…重ねて言うが、知識ゼロの状態からのスタートだ。
そして敵は6人(この後さらに人数が追加されていく)、こちらは1人、そしてワンオペ“中の人“である。
もう、アプリの中の週次更新コンテンツなんか作っていられない!
そう思った私は、これまた系列の人材派遣会社に求人依頼を出した。
そして、たまたま仕事を探していた、某有名雑誌編集部バイト経験を持つ友人に頼み込んで応募してもらい、「PJ専任スタッフ」として採用した。
彼女もIT知識はほぼ皆無だった。が、持ち前のカンの良さで、何度か会議に参加してすぐにアプリの特性をつかみ、私の挙げるテーマに合わせて週ごとの情報収集&コンテンツ作成をほぼ一手に引き受けて私の荷物を軽くしてくれた。
その彼女が、ある時、会議からの帰り道に言ったのだ。
「なんかさぁ~。あの人たち、ギリシャにいるみたいだよねぇ」
…大笑いした。
それから2人の間で「ギリシャ」は流行語になった。
問合せメールの返信が待てど暮らせど来ない時。「お昼に行ってますので戻り次第…」と言われた電話が、3時間4時間待ってもかかってこない時。
何度も説明をした商業施設側の事情や運用課題を、まったく無視した企画やスケジュールを出してきた時。。。
私たちは、都度都度「ギリシャ!」と言い合った。
1年後、私は急遽の異動を言い渡され、web配信会社を離れることになった。前後して彼女も別の会社に正社員の口を見つけた。
PJの後任者を決めて、2人が慌ただしく去った数年後…このアプリは地上から静かに姿を消した。
ギリシャに助けられた今日
さて、現在。緊急事態宣言が出てからの話だ。
今は別の会社でバリバリ働いている彼女と、情報交換をし、冒頭の「在宅モバイルキット」の話をした。
すると、開口一番、
「ギリシャに用意できるの?」と来た。
実はこの時、社内では「キットが足りない!」と大問題になっていた。
不足の原因の一つとなっていたのが、わが「経理部」チームである。
4月1日付でやってきた、新しい体育会系の部長が、会社が就業禁止・自宅待機を命じている契約社員やシニアスタッフまでをも「特定従事者」に指定し、キットを配布してしまったのだ。
しかも、キットを配布していながら、「ほぼほぼ全員、毎日、リアル出社」という方針だった。
この流れで、先月に復職したばかりの要加護扱いの私も、「それでも僕らは出社するチーム」に加えられてしまった。
当初は自宅待機(就業禁止)で…という話だったのが、180度変わったのである。
私は不安になった。
働くのは構わない、むしろ働きたい。でも、この状況で「毎日、リアル出社」って何??
そもそも、この状況で、要加護勤務者、働いていいの?
なんでコロナでころりと行きそうな人(うちのチームは洒落にならないレベルの高齢者揃いだ)に限って、「出たい出たい」と騒いでるの?
経理部が、他社への支払いを握っている以上、緊急出社は当然あり得る。あり得ると思うが…「それを減らすための体制作りは」と言う会話に、展開していかないのである。
部長をはじめとする一部の人が、台風か祭りの前みたいに「緊急事態・ハイ」になっている状況に全くついていけず、
「コロナで外出自粛が呼びかけられてる中、こんな危険に無自覚そうなハイな人たちと同じペースで週5でバリバリ働いて、1ヶ月もつかしら…」
「そのぐらいなら、たとえギリシャ・キットの悲惨な性能に苦しむことになっても、家から出ない方がいいんじゃ…」
と思い悩んでいた。
そんな私の潮目を変えたのが、意外なことに「ギリシャ」だった。
社長が、
「経営陣の会議もリモートで行うんだぞ!
ただでさえ容量の少ないモバイルシステムを、どうでもいい要員にまで配ってどうする!」
…と、吠えたとか、吠えないとか。。。
その結果、業務部による「本当~に、必要ない人にキット配っていませんか?」調査が始まった。「余剰モバイルキット狩り」である。
キット狩りの結果、「新経理部長の職務規程違反未遂」も検挙され、人事部から強烈指導が入った。
この指導に当たったのが、少し前に私の経理部配属を決めた「大岡越前」部長(私の駆け込み訴えに人情裁きをしてくれたため、このあだ名を献上した)である。
「大岡越前」はついでのように「要加護者の勤務体制に関する配慮」も要請し、結果、私は初めて、新部長に今後の勤務に関する意向を確認された。
そして私は、「それでも僕らは出社する」チームから「在宅勤務ベース」チームに乗り換えることができたのだった。
新部長は、「大岡越前」の名を私に出しはしなかった。
しかし部長の態度は一気に軟化し、
「体調第一だから! 在宅勤務って言っても、自宅待機ぐらいの緩~い感じでいいから!」と言った。
それはそれでどうなんだ…という感じではあるが。
私は礼を言って
「できる限り業務に触れつつ、自己研鑽にも充てられればと思います」
とお行儀よく収めたのだった。
こうして大波は回避した。まさかの「ギリシャ」のおかげである。
あとは、部長が方針変更しても「それでも僕らは出社する」と主張している「真正・緊急事態・ハイ」のメンバーたちからの波しぶきをどう躱すかである。
続きます。。。