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「花」が地球を席巻する理由: 多様な生存戦略による驚異の進化 (元教授、定年退職330日目)

「チコちゃん」で知る、椿が選んだ戦略

先日、NHK の番組「チコちゃんに叱られる!」で「なぜ椿は冬に咲くのか?」というテーマが特集されました。日本椿協会の小泉副会長によると、メジロなどの鳥に蜜を吸ってもらうために椿が進化した結果なのだそうです(実際は花の蜜はご褒美で、鳥に花粉を運んでもらい、子孫を残します)。つまり、暖かい季節は競争が激しいため、椿は花のライバルの少ない冬に花を咲かせ、昆虫の代わりに鳥に花粉を運んでもらう戦略を選んだのです。(下写真もどうぞ)

「チコちゃんに叱られる!」で「なぜ椿は冬に咲くのか?」というテーマが特集(注1)
椿は花のライバルの少ない冬に花を咲かせ、鳥に花粉を運んでもらう戦略を選んだ(注1)


特に注目すべき点は、椿の花が鳥に蜜を吸わせるために適した形状や特性を持っていることです。鳥は昆虫と比べて体が大きいため、椿はサラサラとした大量の蜜を作りました。また、花を少し下向きに咲かせることにより、鳥が足を引っ掛けやすくなり、蜜が吸いやすい角度になりました。番組内では、鳥が花びらにぶら下がり、くちばしを花の奥深くまで伸ばして蜜を吸う様子が映し出されていました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

椿が鳥に蜜を吸わせるために適した形状や特性を持った(注1)


「地球ドラマチック」に見る花の進化と生存戦略

NHKの科学番組「地球ドラマチック」では、花の進化について特集が組まれました(下写真)。その内容が非常に興味深かったため、今回は番組前半で取り上げられた、「花がどのようにして急速に発展したのか」に関する様々な現象や試みについていくつか取り上げます。

「地球ドラマチック」で花の進化についての特集(注2)


1. 一年に一度、砂漠が花で覆われるスーパーブルーム

普段は植物がほとんど生息していない砂漠地帯でも、ある条件が揃うと、一年に一度、花々が一斉に開花し、鮮やかな色彩で埋め尽くされる「スーパーブルーム」という現象が起こります(下写真)。それが実現するには適切な気温と十分な降雨が不可欠で、雨が降った後、短期間のうちに植物は急速に成長し、花を咲かせます。

砂漠が鮮やかな色彩で埋め尽くされる「スーパーブルーム」(注2)

この現象の背後には、砂漠の植物が持つ驚異的な繁殖能力があります。多くの花は受粉を終えるとすぐに種を形成し、翌年のスーパーブルームに備えるのです。花を持つ植物(被子植物)は、松などの針葉樹(裸子植物)と異なり、オシベとメシベが同じ花の中にあるため、このような効率的な繁殖が可能です(下写真)。この特性こそが、被子植物が 30 万種以上もの多様性を持ち、植物界の主役となった理由の一つです(対して、裸子植物は約 1000 種)。

被子植物と松などの針葉樹(裸子植物)(注2)


2. 昆虫を引き寄せるための色の工夫:青い花の秘密

花の繁栄の背景には、花粉を媒介する昆虫との密接な関係があります。風による受粉は花粉を無作為に拡散するだけですが、蜂や蝶は意図的に花を訪れ花粉を運ぶため、花の繁殖成功率が格段に向上します。そのため、花は昆虫を引き寄せるために蜜だけでなく、色彩の工夫も重ねてきました。

花の色を決定する主な色素は、赤から紫まで様々な色を作り出すアントシアニン、黄色やオレンジのカロテノイド、赤や紫を作るベタレインです。そのため、花の多くは赤、紫、黄、オレンジなどの色をしています。しかし、ミツバチは青色を素早く認識できるため、花にとって青い色を作り出すことも重要になります。

花が青色を発色する方法には、(i) 細胞の酸性度や育つ土壌の性質を利用する方法と、(ii)「構造色」と呼ばれる光の反射を利用する方法があります。例えば、ギンセンカの花びらを電子顕微鏡で観察すると、表面に微細な波状の構造があり、そこに光が当たると、その波長と反射する角度の関係でギンセンカの花びらは青く見えました(下写真)。つまり、花は単なる色素だけでなく、物理的な光の反射をも利用して昆虫を惹きつけているのです。

ギンセンカを電子顕微鏡で観察すると、微細な波状の構造があり「構造色」で青く見えた(注2)


3. 耳を持たない花が「音」を感じて蜜を増やす?

近年、植物が音を感知する可能性についての研究が進んでいます。ある実験では、異なる音を花の近くで流し、蜜の分泌量の変化を調べました。その結果、コウモリの鳴き声では変化が見られなかったのに対し、蜂の羽音を流すと花の蜜の分泌量が約 20% 増加することがわかりました(下写真)。これは、花が蜂の羽音を聞き分けて蜜を多く分泌することで、より多くの花粉を運んでもらおうとする戦略であると考えられます。

花の近くで音を流し、蜜の分泌量の変化を調べた(注2)

さらに、花が音を検知する仕組みを調べるため、1/1000 mm の振動を検出できるセンサーを用いた実験が行われました。すると、花びらが蜂の羽音に応じて微細な振動を起こすことが明らかになりました(下写真)。つまり、花は「音を聞く」能力を持ち、それを利用して花粉媒介者を引き寄せているのです。

花が音を検知する仕組みを調べるため、振動を検出できるセンサーを用いた実験が行われた(注2)


花が進化の過程で獲得した多様な仕組みは、巧妙な生存戦略の賜物です。椿は冬に咲くことでライバルを避け、砂漠の花は短期間で一斉に開花し、青い花は光の反射を利用し、さらには音を感知して蜜を増やす能力を持つことまでわかりました。これらの進化の過程を知ることで、花の生存戦略の奥深さを改めて実感できました。


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注1:NHK 番組「チコちゃんに叱られる!:椿が冬に咲く理由」より
注2:NHK 番組「地球ドラマチック:フラワー・パワー ~花が地球を“征服”できたワケ~」より


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