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冬に手足が冷たくなるのはなぜ? 「チコちゃん」に学ぶ体温調節メカニズムの不思議 (元教授、定年退職329日目)

先日、人間の体温調節に関する2つの興味深い話題を、NHK の番組「チコちゃんに叱られる!」を通じて学ぶ機会がありました。「寒くなると手足が冷たくなる現象」と「風邪を引いたときに寒気がする現象」です。これらの現象自体は、ほとんどの方が経験することだと思いますが、その理由を聞いて驚きました。なんと、前者は「手足を犠牲にして心臓や脳を守っているため」で、寒気がする方の原因は「脳による設定温度より低いから」でした。私が全く予想していなかった答えで驚き、note で取り上げることにしました。今回は前者をご紹介し、後者は別の機会にさせていただきます。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

「チコちゃんに叱られる!」とチコちゃん(注1)

<追記> いつも明るく、時々ブラックで楽しい MC のチコちゃんですが、番組最後のエンドロールを見ていると、声を担当しているのが関西のお笑い芸人の木村祐一さんということがわかりました。道理で、センスのある受け答えをするなと思っていました。

寒い季節になると手足が冷たくなる現象についてですが、私は冷え性ではなく、寒くてもあまり手足が冷えません(ユニクロで買った手袋も年に数度使う程度です)。一方、奥様は大変な冷え性で、よく「手足が氷のように冷たい」と言っています。そのため、奥様は冬には使い捨てカイロを何個も持って出勤しています。そういう私も、最近は年のせいか少しだけ冷えるようになり、寝るときに靴下をはくようになりました(笑)。


手足が冷たくなるのは、命を守るための賢い戦略だった

さて、その理由ですが、私は単に「血流が悪くなる」ためと考えていましたが、それだけでは手足のみ冷たくなる理由になりません。体温調節のメカニズムを研究している神戸女子大学の平田先生によると、この現象の本質は「体温調節する血管が手足を犠牲にしているから」というのです(下写真)。少し説明を追加しますと、命を維持するためには心臓や脳の核心部の温度を保つことが重要で、手足にある動脈と静脈の間をつなぐ一部の血管を閉じ、手足を温める血量を少なくしているためなのです。

神戸女子大学の平田先生による解答(注1)


体温調節の鍵となるAVA血管とは?

実際に映像を見せてもらうと違いは明らかでした。その血管は下写真中の赤矢印の所の AVA 血管(動静脈吻合)と呼ばれるものです。通常は AVA 血管と毛細血管の両方に血液が流れていますが(イラストの方もご覧ください)、寒い環境にさらされると、AVA 血管はギュッと閉じてしまい、全体の血流が減ります。その結果、手足への血流が大幅に減少し、温かい血液が流れにくくなるため、手足が冷たく感じるのです。

AVA 血管と温度による変化(注1)
AVA 血管の温度による変化(注1)


さらなる説明によると、AVA 血管があるのは手足や顔という体の末端部分で、これらは小さな部位でありながら表面積が広く、熱が逃げやすい特徴を持っています。そのため、寒い環境下で末端部分に多くの血液を送り続けると、体全体の熱がどんどん奪われてしまうのです(下写真)。これを防ぐために AVA 血管を閉じ、熱の損失を最小限に抑え、生命維持に重要な心臓や脳の温度を一定に保つ仕組みが働くのです。つまり、手足は冷たくても体は温かいままになるのです。

寒い環境下で末端に多くの血液を送ると、体全体の熱が奪われる(注1)


手足が冷たくなるスピードの検証: 冷え性の人はAVA血管が閉じやすい?

番組内では、冷え性の人とそうでない人の手足の冷たくなるスピードを比較する実験も行われました(下写真)。部屋の温度を 18℃ まで下げたところ、冷え性の人の指先はすぐに青白くなり、AVA 血管が早く閉じてしまうことが確認されました。一方で、冷え性でない人は 15℃ まで下げた時点でようやく指先が青白くなったのです。このように、AVA 血管の閉じるタイミングに差があることが分かりました。この結果から、冷え性の人はAVA 血管が寒さに敏感に反応し、より早く閉じるため、手足の冷たさを強く感じるのではないかと考えられます。

冷え性の人とそうでない人の手足の冷たくなるスピードを比較する実験(注1)


手足の冷えを防ぐには「芯を温める」がカギ!

手足の冷えを防ぐ方法として、私たちは手袋やカイロを使って手足を直接温めることが一般的です。しかし平田先生によると、より効果的なのは「体の中心部や首を温めること」だといいます(下写真)。体の中心部や首が温まると、血液全体の温度が上がり、手足にも温かい血液が届きやすくなるそうです。

効果的なのは「体の中心部や首を温めること」(注1)


「手が冷たい人は心が温かい」は本当?

「手が冷たい人は心が温かい」という言葉を聞いたことがありますし、逆に「手が温かい人は社交的で人付き合いが良い」とも言われます。ほとんどが迷信だとは思いますが、もしかすると何か意味があるのかも知れません。私自身、普段は手が温かい方ですが、緊張すると冷たくなったり汗ばんだりすることがあります。これは交感神経の影響によるもので、リラックスすると再び元の状態に戻るのです。今回の特集を通じて、体温調節のメカニズムについての理解が深まりました。体の仕組みを知ることで、自分の状態をより適切に把握し、効果的な対策を講じることができるかもしれません。


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注1:NHK番組「チコちゃんに叱られる!:寒くなると手足が冷たくなる理由」より



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