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卒業式が変わった! 「はいからさん」が火付け役となった袴ブーム(元教授、定年退職332日目)
ここ数日、やや硬派な科学の話が続いたので、今回は少し柔らかい話題をお届けしようと思います。私は改まった場があまり得意ではなく、これまで大学や大学院の卒業式にはほとんど出席してきませんでした。大学の卒業式当日、友人のお母さんに大学の廊下でばったり会い「卒業できなかったの?」と心配されたことを覚えています。実際には、式には出ずに事務室に行き、卒業証書とお祝いの紅白まんじゅう(笑)を受け取っただけでした。博士号の授与の時は、総長が知り合いの先生だったこともあり、式の後の小さなパーティーに誘われ、それには喜んで参加しました。
高校・大学の入学式・卒業式の思い出
ふと思い返すと、高校の卒業式も欠席していました。というのも、大学入試のため、友人数名と一緒に数日前から京都へ前乗りしていたからです。一方、大学の入学式には出席しました。遠方からわざわざ母親が来てくれたためです。しかし、式が始まると同時に、ヘルメットをかぶった学生運動家たちが壇上を占拠し、式は一時中断することになりました(彼らは後ほど退場させられましたが、時代を感じるエピソードです)。最近の大学の卒業式は、学生代表が壇上に上がる場面が、まるで仮装大会のようになっていると耳にします。
<追記> 大学に職を得てからは、業務の一環として式典に参列することもありました。壇上に座すことは依然として気が進みませんでしたが、教え子たちが学位記を授与される姿には、深い喜びと感慨を覚えました。
親と一緒に参加する卒業式: アメリカと日本の文化比較
近年、卒業式の様子は大きく変わってきました。特に、親が式に同伴するケースが増えてきたことは、顕著な変化の一つです。若い頃の私は、この風潮をやや嘆かわしく感じていましたが、アメリカの大学の卒業式では親戚一同で出席するのに比べれば、まだかわいいものかもしれません。私が留学したコーネル大学は特にすさまじく、親も感激ひとしお(学費がとんでもなく高いので?)だったようです(卒業式シーズンには、MY SON GOES TO CORNELL というステッカーを貼った車がたくさん走っていました)。(下写真もどうぞ)
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「チコちゃん」に学ぶ 『はいからさん』 が変えた大学卒業式の文化
もう一つ、近年の大学卒業式で顕著に変わったのが、女子学生の袴姿の増加です。私の学生時代には、卒業式で袴を着る女子はほとんど見かけませんでした。しかし今では、半年前から大学生協で袴を予約するのが一般的になっているようです(「君は本当に単位が足りているのか?」と聞きたくなる学生もいましたが、それはハラスメントにあたるので自粛しました)。この「卒業式の袴文化」は一体いつから広まったのか。その答えを NHK の番組「チコちゃんに叱られる!」が特集していたので、紹介します。番組によると、その答えは「はいからさんが通ったから」でした。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)
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女子学生の袴着用のルーツ
明治初期に新たな教育制度が導入されると、着物と椅子の相性が悪いことが問題視され、女子学生にも袴の着用が認められるようになりました。当初は男性用の袴に近いデザインでしたが、やがて女性らしさを強調したスカート風の現在と同様な袴が考案されました。賛否両論があったものの、宮中の女官が正装として袴を着用していたことが、この文化を正当化する一因となったようです。(下写真もどうぞ)
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漫画とアイドルが変えた卒業式の風景
終戦を迎え、女子学生の制服は洋装が主流となり、1960年頃からは袴姿をほとんど見かけることがなくなりました。しかし、1975年に発表された漫画『はいからさんが通る』が転機をもたらしました。この作品は、大正時代を舞台に、主人公・花村紅緒の恋愛模様を描いたラブコメディで、大正ロマン風の袴が女性の間で注目を集めました(下写真)。1987年の映画化を経て、卒業式で袴を履く風習が定着していきます。
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<追記> 1980 年に高校生だった奥様は、文化祭で大正時代の女学生にふんして袴をはいて劇をしていました(下写真)。『はいからさんが通る』が大流行したことから生まれたアイデアだったようです。
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それに加えて、特に大きな影響を与えたのは、当時のトップアイドル・南野陽子さんの存在でした。彼女が映画の主題歌を袴姿で歌ったことにより、多くの女性が憧れを抱くようになったのです。その結果、袴は卒業式の定番スタイルとなっていったそうです。
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番組では、袴着用率の変化をグラフで紹介し、その普及の流れを具体的に示していました(下写真)。さらに、南野陽子さんが当時を再現し、久しぶりに袴姿を披露する場面もありました(下写真)。彼女自身、「チコちゃんに叱られる!」のファンだったこともあり、封印していた袴姿の決意をしたのだとか。ちなみに、彼女はその功績が評価され、業界から表彰を受けたそうですが、「袴姿の女子学生が増えたことで、振袖姿が減ってしまったのは少し残念だ」との声もあったとか。文化の変化には、いつも賛否がつきものですね。それでは、また。
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注1:NHK 番組「チコちゃんに叱られる!:卒業式における袴文化の変遷」より