2021年6月8日ナスが切れなくなる


晩のおかずにナスのいためものを作ろう。そう思って粛々とナスを切っていると、トイレから出てきた妻が「陽性になっている」と言う。手には妊娠検査薬の棒だ。

びっくりして包丁に力が入らなくなってしまい、ナスが切れなくなった。カボチャやニンジンならともかく、ナスだぞ。ナス。野菜の中でも、やわらかい部類に属しているやつ!

子どもを持つことを希望していたが、なかなかできなかった。待望の妊娠というところである。しかし「ヤッター」というよりは「お、おう……」という感じなのだな。

へなへなと膝から崩れ落ちた。立てない。妻はソファでリラックスしながら
「おいおい」
という感じでこちらを見物しているのだった。

妻の日記より

妊娠検査薬を使ってみると、判定窓にくっきりとピンク色の線が浮き出ていた。どうやら私は妊娠しているらしい。

病院で診てもらった訳ではないのだから、喜ぶのはまだ早い。冷静に、冷静に。

夕食の話題はもちろん子供のことだ。将来、子供と一緒に何がしたい?と夫に聞いてみる。夫は「凧揚げがしたい」と言った。最近小さな凧を買って、二人で揚げて遊んだことがあったのだ。それをいつか、三人で。なんて素敵なことだろう。

もし本当にお腹に子供がいるのなら、食べられないものや、飲めないものもあるし、薬なんかも気をつけなければいけないね、なんて話もする。しばらく大変になるなあ、と口では言いつつ、本当はちっとも煩わしいことだとは思っていなかった。望んでもなかなか子供を授からなかった私にとって、そんな苦労も憧れだったのだから。

お腹いっぱいだからか、妊娠のせいなのか、とにかく眠たくて眠たくて仕方なく、21時半に就寝。とてもよく眠れた。


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斎藤充博
サポートしていただけたら妻においしい果物を買ってきます。