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世の中にある大抵のものは「存在しすぎ」説
まずはこちらの図をご覧ください。
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図を見だけだと何を言っているのか分からないと思いますが、これは「存在のありように含まれる顕在と潜在の濃度バランス」を棒グラフにした図です。なぜこのような図を作ったのかというと、最近読んだ本に大変面白いくだりがあったからです。「リアルであること」と「アクチュアルであること」の違いについて書かれたものです。
[リアルについて]
コンピューターによる囲碁の場合、ある局面で打たれる一手は、多数の可能性のなかから計算によって特定され、リアライズされた手でしかない。
[アクチュアルについて]
これと違って生身の棋士の場合、打たれる石はそれぞれに潜在的な動きあるいは勢いを持っている。つまりそれは、当面はまだ潜在的であっても、いずれは周囲の石達のあいだでアクチュアルのものとなるであろうところの勢力関係を宿している。
これを読んで筆者は「なるほど、リアルとアクチュアルでは同程度の臨場感の中にも潜在と顕在の濃度に差があるんだな」と思ったのです。
アクチュアリーとは、我々にとって日常語ではありませんが、日本語で置き換えるならば「マジ」が最も近いんじゃないかと思います。
より噛み砕いて説明するならば「主体的体験の中に生じてくる真実味」あるいは「主体が行為そのものと含み合うことで立ち上がってくる現実感覚や臨場感」ということになるでしょうか。
筆者が思うに人類史上、最もアクチュアリーな場面は、スティーブ・ジョブズが新作Apple製品をプレゼンテーションしている講演会です。ジョブズがやっていることは全て「アクチュアリー歌舞伎」だと考えていただいて差し支えありません。有名シーンですが、どこにでもありそうで簡素なA4の茶封筒からMacBookairを「スッ」と「実にさりげなく」取り出し
There’s something in the air.
(大気中に何かが現れている)
と告げるシーン。これはもうアクチュアリーという観念そのものを体現している(しすぎて歌舞伎局面に突入している)と言っていいでしょう。
「現れている」とは、もちろん新商品だけを指しているのではなく
「この新商品の登場によって今から大きく変貌させられてしまう世界の予兆、最先端の空気をあなた方は吸っているのですよ」
という宣言(Apple信仰者に対する現世利益の提供)も含んでいるものと思われます。アクチュアリーの実演販売と言ったらいいのか。アクチュアリー神話として星座になってもおかしくないくらいの顕在に向かう予兆に満ちた現場です。ちなみにジョブズ自身もプレゼン中かなりの頻度で「actually」と言う傾向があります。実測はしませんが、体感としては2〜3分に一回くらい言います。
(iphoneを発表するスティーブ・ジョブズ)
このように事例を挙げて考えた結果、リアルとアクチュアルの差異が言い表しているものの内実にある程度接近できた感じがあります。それは「ある」という事態に含まれている「顕在と潜在の濃度のバランスを指し示す効果」です。
顕在と潜在について辞書にはこうあります。
顕在:(はっきりと認められるように)かたちに現れて、あること。
潜在:表面には表れず内にひそんで存在すること。
これは次のように言い換えられるかもしれません
顕在:「今まで存在していたもののありよう」を参照して具体的に、統計的に、分析的に、客観的に過去の実績を参照して一般に共有されているもの
潜在:「これから存在するかもしれない予兆」を含んで抽象的に、創造的に、現場主義的に、主観的にその場の体験のなかで実感されるもの
このように考えると、実はリアルとアクチュアルの他にも顕在と潜在のバランスを指し示す語が考えられるのではないか、という思考過程から作ったのが冒頭でもお見せしたこの図というわけです。
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図を見ていただくとわかるように、ここでは存在のありようを
①「イマジナリー」なもの
世の中のどこにも「ない」。いずれ「ある」ことになる予兆、確信だけで成立しているもの。
②アクチュアルなもの
いままで「なかった」ものが、「ある」ことになりつつあるもの。そのきっかけが生じた瞬間。
③リアルなもの
「なかった=あった」が一致し、現実味の中に創造性と具体性がバランスよく含まれていて伝わりやすく話が早いもの。
④「芋がゆ」
「ありすぎて」存在感が希薄になっているもの。
⑤「タイル」
「ありすぎて」もはや「ない」もの。
の5つに分類しています。
それぞれの項目について具体例を交えながら解説します。
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