みにまりすと 江戸人
「ミニマリズム」という、いわゆる必要最小限のものだけで暮らす生き方をする人を「ミニマリスト」といい、どうやら、2010年前後から海外で広まり出したものらしい。
とすると、「ミニマリスト」は生まれてから、実にまだ10年ほどしかたっておらず、日本にいたっては数年といったところになる。
「ミニマリスト」で思い浮かべるのが
・必要最小限の生活品
・ミニマムな賃貸住宅の部屋
・自由な時間を持つ
・必要な分の生活費を稼ぐ仕事の仕方
・・・といったものなのだが、改めて見ていて、ふと・・・。
これって、まるで
「江戸人」
じゃあないか??
江戸時代は、日本で17世紀から19世紀の中ごろまで、260年あまり続いた江戸幕府の統治した時代。江戸は、当時としては世界でも珍しい百万人の人口と、治水などが整備された近代的大都市だった。
そんな江戸に暮らす江戸っ子たちは、
・九尺二間(和室4.5畳の1K)の長屋(アパート)住まい
・ひと月のうち、働くのは半分
・定職につかず、思いついたらのアルバイター
・あくせく働くことより自由を楽しむ
といった感じで。
薄い戸板に囲まれた、狭い長屋には暮らしに必要最小限のものしかない。
今のように、豊かに暮らす選択があるのにモノを減らす・・・という生き方とは違うかもしれないが、「自分らしく自由に生きる」という点では、すこぶる似ているような気がする。
確か、数年前のNHKで「江戸大火」の話を見ていた時のことである。
未曽有の大火事がおこった江戸の町で、長屋に住む男と火消しのこんな感じのやりとりがあった。
火消し 「早くしねえと、ここもすぐ火が回る!」
長屋の男「おう!遠慮しねえで、とっとと、うちを壊してくんな!」
火消し 「・・・すまねぇな」
長屋の男「なあに!これ以上火が回って、死人がでちゃいけねえ。思い切っ
て、やってくんな!後のことは、火が消えてからだ!」
当時の消火方法と言えば、密集した家を壊して火の回りを止めることくらいしか手がなかった。消防として、町の四隅に水桶を置いたり、火除け地として、建物を立てない場所を設けたりもしたが、木造の長屋に火が回ってしまえば、それも役に立たない。
まあ、長屋は店賃(たなちん)を払って大家から借りてるものだから、そもそも男の物ではないので、大家からしたら「おいおい、何を言ってくれてるんだ」というところだけれど(笑)それにしたって、わずかばかりであっても自分の家財はあるだろうし、自分の城だったところを壊してくれだなんて、なかなか言えるものじゃない。
この辺が、なにかモノに縛られない自由を手にした人間の「意気」というか、「粋(スイ)」というか、江戸っ子特有の、なんとも気持ちいいものがある。
海外からやってきた「ミニマリズム」ではあるけれど、ひょっとしたら町に暮らす日本人には、昔からそんなDNAが刻まれているのかもしれない。