バジルについて
高校1年生の頃の担任で、古典担当だった先生の話。
当時の見た目からして多分43歳くらい?噂では独身。家でバジルを育てているらしく、生徒からは陰で『バジル』と呼ばれていた。真面目でお堅くて冷たい人という印象。それと私にすごく厳しかった。
高校1年生の3学期。
留年ギリギリだった私が見事2年生に進級できると担任のバジルから告げられて、めちゃくちゃ喜んでいた日。その日の古典の授業中、バジルから集中攻撃を受けた。(私にとって)難しい問題について私が指される。一応返事をして立ち上がるんだけど、答えが分かんなくてモゴモゴしてたら「ちゃんとした日本語で話して?」とみんなの前で言われて恥ずかしい思いをした。クラスは爆笑してたけど。その後も中々座らせてもらえなかった。
この先生って私のことすっっごく嫌いなんだろうなーと思った。
ところでバジルは演劇部の顧問でもあった。そして私は演劇部の劇がすごく好きだった。校内公演がある時は絶対見に行った。
部員の子たちの演技がうまかった、という訳ではなかったけど、劇の内容がとにかく面白かった。ギャグ系とか感動系とかロマンス系とか色々。聞いたところによると、なんと話はバジルが全て1から考えているらしかった。「へー、あの先生がこんな面白い話作るんだ、意外」と思った。
私が高校2年生になった頃、演劇部の1つ上の先輩が自殺してしまった。
学校のベランダから飛び降りて、1週間後に亡くなった。話したことはなかったけど演劇してるのを見たことがあったから当然悲しい気持ちになったし、バジルのことが心配になった。
先輩が亡くなって数日経った日の古典の授業中、バジルが突然プリントを配って、その後すぐ廊下に出ていってしまったことがあった。みんながプリントを解いてる中、私はバジルのことを見てた。バジルはずっと窓の外を眺めていて、きっと泣いてるんだろうなと思った。そりゃつらいよなと私も悲しくなった。
そうやって私は気にかけたりもしてたけど、バジルからは引き続き目をつけられていた。当時の私はどの授業もきちんと受けてなくてテストでは当然のように0点を取りまくってたし、それについて私は何も気にしてなかったから、バジルはそんなところが気に入らなかったのかなと思う。
ある日バジルから職員室に呼び出された。「ロクに勉強もしないで。将来どうするつもり?」と。私は即座に「もうすぐ自殺するんで気にしないでください」と答えた。自分の生徒で自殺した子がいるのに、そんなこと言い放つ私も鬼だよなと思う。でも当時は本気で早く自殺したいと思ってた。先生はあの時すごく怒ってた。どんな気持ちで怒ってたんだろうって今想像すると、すごく申し訳なく思う。
高校3年生の卒業間際。
最後の演劇部校内公演があって見に行ったのだが、その内容にかなり感動して声を出して泣いてしまう、という出来事があった。周りで泣いてる人は1人もいなかったけど、とにかく素晴らしくて衝撃的な話だった。わんわん泣いた。バジルが作る話ってやっぱり面白いなぁーと思って公演が終わった後涙目のままバジルにとても面白かったですと伝えに行ったら、バジルはにっこりと笑った。そして「良かった。あれは君のための物語だよ。」と。
そう言われた。
??
よく意味が分からなかった。私のための物語?特にメッセージ性はない話だったけども。というかそもそも先生は私が1年生の頃から私に厳しくて嫌っていたはずだった。『君のための物語』とは?一体どういうことなのだろうか。など色々考えて混乱して変にドキドキしてしまって、その場では何も言えなかった。バジルがにっこり笑った顔も、多分その時初めて見た。
というなんとも言えない思い出がある。今でもたまに思い出して、あれってなんだったんだろうなと思ったり、今前向きに生きてる自分をバジルに知ってほしいな、と思ったりする。
おしまい