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キューバ旅行記(9)~デカい飯食い、CD買い、国営アイスクリーム店を楽しみ、素敵な大学生と出会う~

 タクシーを降りた後はすぐホテルアバナリブレ内に入り、食べ物から酒から服から、様々なショップが並ぶ廊下を歩く。(泊っているホテルではない)
 しばらくブラブラした後は、ホテル内一階のレストランに入り、カウンターに座る。
 フライドポテト、ハンバーガー、キューバのビールを頼む。ハンバーガーは大きく、持って食べるのは難しい。ナイフで分解する。暑い中を歩き回った後のビールはやはり格別だが、それだけでは喉は完全には潤わず、コカコーラを頼む。
(ちなみに昨日はキューバのコーラを飲んだ)

 
レストランは解放感があり、振り返るとホテル前の通りを一望できたため、ホテル前にあるらしいCD屋を探してみるが、全く分からない。仕方ないので会計のときにウェイターに場所を聞いた。交差点の傍にある白いショップを指さす。
 正直、外から見たらCDショップとはなかなか気付けない。レストランを出て早速CDショップへ向かう。
 入ると涼しい店内。すぐに店員の女性が話しかけてくる。何か欲しいものはあるか。オススメはこれだ、等。大半の説明は分からないため、ジャズに興味があるとか、インテラクティーボ(2018年のフジロックにも来たバンド)が欲しいとか、知ってる単語を中心に出して、結局四枚CDを買った。当たり前だが日本のオーディオでも普通に聴ける。
 
 CDショップを出て、交差点から下り坂へと歩く。
 青い壁に、赤い字で「Coppelia]と書かれた壁が見える。「コッペリア」という響きに覚えがある。
 青い壁の向こうには白い建物と緑の茂った公園のような所が見える。入ってみると白い建物の下はくぐることができ、二階がレストランのようだが閉じており、閑散とした雰囲気である。
 公園(?)を奥まで歩いていき建物の下を抜けると、木々の日影の中にアイスクリーム屋台が見えた。近くのテラス席で観光客と見られるカップルがアイスを食べている。思い出した。コッペリア。国営アイスクリーム店の名前で、革命後キューバでの同性愛差別問題を扱った映画「苺とチョコレート」に出てくるのだ。屋台の中には二つのアイスクリームを模した映画のポスターがあった。チョコレートアイスを買い、日影のテラスで食べた。

 
 アイスを食べ終わり、ガイドブックの地図を見ると、近くに昨日行けなかったハバナ大学があることが分かり、この後散策しようと決める。コッペリアを出て、来た道を戻る。昨日も通った交差点。旅先では同じ場所でも通る方向で全く印象が違う。交差点横の建物の日影に人がパラパラ集まっている。どうやら映画館みたいで、フランスとの国交樹立何周年(忘れた)かを記念した仏映画特集みたいだ。さすがに映画館に来るのは地元民がほとんどだろうが、映画館と分からなければ、観光客と見分けは付かなかった。
 
 アバナリブレの前を再び通り、坂を登っていく。二人組の女性がペットボトルに石を入れて転がしていたが何だろう。坂をしばらく上っていくと、右側に横長の長い階段が現れた。階段の上には西洋風の白い門が威厳を備えている。階段の両脇にも、威厳を備えた建物が並んでいる。一目で分かった。ハバナ大学だ。
 


 一般人が入っていいものか。ほんの少し迷う。日本の大学は入れるところも多いがキューバはどうだろう。なんて考えてる内に足は勝手に階段を登る。途中黒人の青年に声を掛けられる。色々話してくるがよく分からない。
「アーユースチューデント?」
「ノーアイムナット」
「オーソーリー」
 少し残念そうに去っていく青年。やはりあまり部外者が入らない方がいいだろうか。考えながらも足はまた動き出す。何かのイベントに声を掛けたのかもしれないな。階段を登り切り、振り向いて写真を撮る。階段の下の水色や白等の建物が並ぶ通りが印象的だ。

 
 結局白い門を潜り、大学敷地内に入る。周りを校舎に囲まれた、緑豊かな寛ぎスペース。学生たちが憩いの時を過ごしているようだ。
 しかし緑の中に展示されている傷付いた戦車には驚いた。カメラをぶら下げた人も歩いている。観光客か。普通に入っていい訳か。いかにも大学らしい、広くて人がまばらで落ち着いた場所。一通り散歩して、白い門を潜り、階段を下る。ふと斜め後ろを見ると、さっき会った青年がいる。目が合う。お互いカタコトの英語で話し始める。

「どこから来たんだい?」
「日本から旅行に来た」

 聞いていくと、彼は大学で歴史を学んでいるという。日本人の友達もいて「〇〇〇大学」からハバナ大学へ留学に来ているそう。〇〇〇が聞き取れず、何度か聞き返す。三文字であることが分かり、直感で「ワセダ」と答えると大当たり!

 彼は階段の両脇にそびえる建物の一つ一つを指し、何を研究している建物か説明していく。大学の周りは学生街らしく、さっき写真に収めた水色やら白やらの建物は寄宿舎とのこと。
「カストロを知っているかい?」
「うん。知ってる」
「彼はここで法学部だったんだ」
 真っすぐで澄んだ目。出会ったばかりだが好感を持った。その内彼の友人が現れ、キャンパス内を案内してもらうことになった。
「カモン!」
 
 話をするほとんどは後から来た友人だが、時折真剣な顔で史学科の学生が頷く。会話で大事なのは言葉だけじゃない。階段の横の、大きな建物の間が木々の日影になっており、記念碑がある。学生によればウゴ・チャベス(元ベネズエラ大統領)が学生を前に講演した記念らしい。

 涼しい木々の間の道に入っていくと石像があり、キューバ独立の英雄ホセ・マルティに哲学を教えていた先生だという。そのまま小さな階段を降り、学生街へ繰り出した。街中にある何の変哲も無い建物を指し、ここは心理学部の実験棟だと説明する。言われなければまず気付かない。

「街中に当たり前のように大学施設があるのは凄いね」
「そりゃあ、街全体が大学みたいなものだしな」

 学生街をしばらく歩いた後、涼しげなバーに入る。ここは絶対に写真を撮るべきだと言われ、店内を撮る。壁には「BAR de THEODORO」と書かれ、数字や文字が書かれた大小の茶色い円盤が無数に飾られている。
(樽の上部分だけ切ったものだろうか)

「ここの机でゲバラとカストロが向かい合ったんだ」

 ある席を指し、熱心に説明する学生。木でできたこじんまりとした机と椅子。学生の説明が本当だとしたら凄いが、凄いからこそ半信半疑になってしまう。そして三人でその席に腰かける。時間を超えて、英雄と繋がっているのか。学生は何やら飲み物を注文し、やがて葉がたくさん入った、濃いオレンジの飲み物がくる。(モヒート?)
「これはキューバに来たら必ず飲んでおくべきだ。カストロも好きだったんだ」
 
 カストロとこのモヒート(?)の関わりや由来を詳しく説明してくれる。それからは色々な話をした。日本の大学の授業料を聞かれ、平均くらいを考え答えるとかなり驚かれた。キューバでは医療と教育が無料であり、学生は葉巻等、様々なものを買う時に、かなり安く買うことができるという。

「学生証は持ってないのか」
「持ってない」
「おお、そうか、残念だ」
「自分は学生ではない。もう二十六歳だ」
「え? 二十六?」

 歴史学選考の学生が隣の友人に私の年齢を伝え、二人で驚く。私はよく実年齢より若く見られる。たまに三十代くらいに見られることもあるが。それより日本の大学の学生証でも優遇されるのか。どうなんだろう。

 日本の経済が三十年近く上手くいってないと話した時は、信じられないという顔をされた。ニューヨークのように東京では物凄いビルが立っているではないか、と。
 別に誰でもあのビル群に住んだり働いたりできる訳ではないし、働いてても長時間労働で薄給かもしれない……そんなことを思った。

 後、帰ったら是非キューバについて、家族や友達に話してほしいと言われた。「もちろん」と返した。行かないと損だ。

 ホテルに泊まっていると言うと、「それは高かっただろう。民泊なら安く泊まれる。エアビーアンドビーは知っているか?」と言われた。逆に相手がエアビーを知っているのに驚いた。

 後は日本の『おしん」が好きとか、漫画『ナルト」が好きとか、オリバーストーンの映画『コマンダンテ』(カストロに取材したドキュメンタリー)の話とか。 

 日本の景色を見て欲しくて、雪山を見せたら、雪を見たことがない、と驚かれた。(その反応にこっちも驚いた)また、ハバナで撮った写真を見せて、革命防衛委員会の建物の写真で「よく知ってるね。これは旧市街全体をコントロールしている組織なんだ」
と言われ、「コントロール」って少し怖いな、と思った。
 お互い上手くはない英語で、聞き取れなかったことは何度も確認して、様々な話題で話すことができた。

「ちょっと待っててくれないか。絶対にお土産に買ってほしいものがある」
「お、おう」

 後から合流した方の学生が素早く席を立ちあがり、どこかに行く。そして五分ぐらいして戻ってきて、葉巻コイーバの五本セット(もちろん本物)と高級そうなラム酒を買ってきてくれた。

 財布を取り出すと、格安だったから30クックでいいとのこと。(後で簡単に計算してみると、相場の半分以下の値段で私の手に入ったことが分かった。コイーバは職場のスモーカーの人にプレゼントしたらかなり好評であった)
 安いモヒート(?)代は三人分私で払い、(一回ホテルに戻ると言ったため)ホテルの方向を教えてもらい、握手して別れた。俺達が日本に行ったら案内しろよ、と。
 
 一緒に歩いたキューバ人の中で、一番誠実だったと思う。自分の国、社会に誇りを持ち、相手にも開かれていくこと。自分たちの利益も、相手のことも大切にすること。
 国際都市ハバナで革命の成果を感じ、葉巻と酒を通じ、私も革命の成果を享受(?)した時間だった。(続く。次回は一度旅行記から離れてキューバ史を概説)

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