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202X。日本。~縮みゆく独裁国家。逃げ場の無い壁 どこにも無い壁③~

日沈み、地下出(いず)る国の反体制機関紙『スキゾちゃんぽん』第三号
※本機関紙を手に入れたラッキーなあなたへ。末尾にあるQRコードを読み込めば、次号以降の配布予定箇所がわかります。しかし! 弾圧回避のため大概場所が変わります。

・「ある女性の裕福だが孤独過ぎる暮らし」③

 遠くで白みだす空。そろそろ両親が帰ってきてもおかしくない。玄関先であくびをしながら靴を履く有海。A美さんはふと気になったことを聞いてみた。

「国営スコア認証アプリって、どうやってごまかしてるの? ことあるごとに日本大好きとか言いまくってポイント稼いでるの? でも普段から反政府活動やってるんじゃ、なかなかごまかしきれないよね。ポイントだだ下がりしそう」
 有海は一瞬微笑み、A美さんの耳元で囁いた。
「鋭いね。A美。それはね。私や組織の人間は、スマホに政府のアプリを入れてないのよ」
「え。でも、国内流通携帯は全て入れないと駄目じゃん。それで海外の大手携帯会社とかが反対して、日本市場撤退したんじゃないの。逆にアプリ入ってないのは電子監視網かなんかで分かっちゃうんじゃないの」
「ニュース見ない割に妙なこと知ってるね。電子監視網は私たちの携帯にも政府系アプリが入っており問題ない、という認識でいる。何故なら内側からウイルスで政府系アプリを食い破り、ボスが管理するアプリに書き換えたから」
「そんなことできるの」
「大金でアプリの運営会社社員を買収している。かなり前に、富裕層地区で強盗殺人が散発的に前起きたでしょう。それは私たちの組織がやったもので、そこで得た金で買収した。運営会社の顧問は今の経産省大臣なんだけど、結局、皆高給や接待で繋ぎ止められているだけだからね。金さえ詰めればチョロい。実は中国のスパイが入っているという噂もあり、対中強硬派だった、大臣の息子のスコアが、異常にダダ下がりした事件があって、大臣自身が釈明に追われたんだけど、スパイの仕業が疑われている」

「ねえねえ。声大きいんじゃない」

 A美さんに言われて、有海は赤面した。凄く優秀に見えるけど、たまに 周りが見えなくなり、おっちょこちょいなところがあると感じた。
 A美さんは入れ替わるように有海の耳元に口を付け、囁いた。
「ねえ、有海」
目を見開く有海。大胆だな、と思われたのだろうか。
「私のスマホも、国営アプリから、有海の使ってるアプリに変えてもらうことはできるの?」
「……」
 そりゃそうだよね。いきなり初対面の人を組織に入れるなんてできないよね。しかも暗殺対象の娘なのに。
「即答はできない。でも、A美も覚悟は迫られるんじゃない」
「……」
 A美さんはハッとした。両親の顔が浮かんだのだ。
(有海の情報曰く)隔離地区で虐殺を起こすための殺人薬を開発し、実験しようとしている両親。
 ほぼ毎日深夜まで帰ってこず、朝まで帰ってこないこともある両親。
 A美さんとする会話は、週末の「スマホに毎日I love Japanと吹き込むんだ」と指示するだけの両親。(国営認証アプリで愛国心ポイントと、英語で言っているから「学習意欲・態度ポイント」が上がる)
 両親との関係を頭の中で並べてみても、良い要素はほとんど無い。それでも、両親は両親だ。有海と同じ反政府勢力のアプリになれば、「I love Japan」と吹き込むことは無くなる。両親とのほぼ唯一の会話の意味が失われる。もともと、こんなの会話の内に入らないのかもしれないが、揺れてしまう気持ちが、A美さんの中にあった。

「まあ、私がA美の家族演じてもいいけどね。この年齢差だと姉かな」

 パッと表情が輝くA美さん。
 すかさず有海はA美さんの唇を奪った。温かい息が体内に伝わっていく。
 呼吸を合わせ、歩幅を合わせていけば、やがて家族みたいになれるのだろうか。(続く)

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