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転がる石は全て川へ~C美はドライブ中、D子から現実認識のハンドルを握られる~

行方不明になってたD子とSNS上で連絡できたので、待ち合わせ場所に向かったら、彼女の車に乗せられて、とある郊外の「アジト」に向かうこととなった。

「C美。長らく外界と一切連絡してなかったのは、『アジト』での仕事がバタバタしていたから。今三人のメンバーと、一……なんだろう、単位が付けられない。一応人間だから『一人』でいいんだろうけど、躊躇いがある。まあいいや。三人のメンバーと一人の捕獲物がアパートの一室にいて、私入れて計五人がいることになるね」

「私は何をしたらいいの?」

運転中のD子は目を細めるが、答えない。D子のスマホが鳴り、車内中に、若い男性ぽい囁き声が響き渡る。なんだか不思議だ。

「D子さん。E之介はやはり怪しいです。というか限りなく黒に近いです。僕がE之介に、『D子さん裏切って天下取ろうぜ』と半分冗談めかして言ってみたら、凄い満足そうな目をして、色々話してくれましたよ。金庫のパスワード知ってるだの。SNSで色々アジト情報流して、外部に味方増やしてるだの」

「了解。ありがとうF太。もう少し探れる?」

「はい。探れそうです。D子さんが今いないから、E之介さん自身も、何か事を起こすには今がチャンスと思ってるかもしれません」

「分かった」

潰れたような電子音とともに、電話が切れる。団地に囲まれた坂道を、車は力強く登っていく。車道のオレンジライトが、D子の退屈そうな横顔を映し出す。

「C美には、捕獲物を管理、取引するチームに加わってほしい」

「さっきも言ってたね。捕獲物って何?」

「今はまだ詳しく言えないのだけど、金が欲しい人には金を、意思を強く持ちたい人には、鋼の意思を、バラバラな個人間には鎖より硬い団結を、それぞれ齎すことができる、魔法みたいなツールね」

「うーん。ごめんD子。昔からあなたの言うことはスーッと入って来て信頼できたけど、今回ばかりは唐突過ぎて難しい。漠然としてるけど凄いウマイ話があります、って感じ?」

「C美。もう迷いながらも、私のこと信頼したいって、なり始めてるでしょ」

D子は瞬間的にこちらに身を乗り出し、私の頬に唇と舌を充てた。舌が素早く動き、気づけば何事も無かったかのように、運転する姿勢に戻っていた。速度を抑えながら、下り坂を走る彼女の車。フワッと地面から浮かぶような、くずぐったい感覚が、頬を通し、身体中に残響する。

「C美は私の前では、いつも臆病で頭の悪いフリをしている。だけど本当はとても強くて賢い子。だから、私が現実を流し込んであげると、戸惑ってるのに早く現実で動き回りたいというような、とても愛おしい表情を見せる。顔を赤くして。C美。好きよ」

身体が痺れながらフワッと浮かび、空の上からあれこれ指図しているD子と同じ高さに到達する。D子は何か分からない物体を操り、世界中の人々に、団結と意思と金を吹き込んでいる。色々な旗が建ち、色々な国の中心となる建物が壊され、勢い付いた水の流れが岩を砕くように、これまでの世界が決壊している。そして……

「C美。下にいる人たちと違い、あなたを痺れさせることができるのは私だけね。そして私を痺れさせることができるのはあなただけ」

車内にスマホの振動音が鳴り響き、私の意識は現実に戻される。

「D子さん。やっぱりE之介は駄目ですわ。私の煽りに乗って『よし!今外部から二人の味方も来てるところだし、皆を説得して、D子が戻ってきたらとっ捕まえてしまおう』と目をキラキラさせながら言ってましたよ。いくら何でも計画が杜撰過ぎますよね。ちなみに彼との会話は全て録音済みです」

「ありがとう。お疲れ様。彼は粛清ね。計画丙の通りに頼むわ。私も今、最強の援軍を連れてきているところだから」

「ほう。それは興味深い。とにかく動き出しますね」

「うん。お願い」

潰れた電子音。

「F太はE之介から、現実を見る力を奪った。残ったのは安い野望だけ。夢も野望もいらないの。ただただじっと現実を見れば、私にとってのC美みたいな、甘美なものに行き当たる」

名前を言われるだけでゾクゾクする。隣で運転しているD子以外色あせて見える。現実の中から一部を切り取って、それだけを凝視し続けた時、本当は何が見えるのだろうか?

~続く 次回はA太とB介の川だべり日記 お楽しみに!!~



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