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小説 転がる石は全て川へ~D子は縛られ踊る男と、ネット上の悪口のペアダンスを見る 編~

ひどい書き込みを見つけてしまった。罵詈雑言というやつだ。

「元いじめられっ子で何も人生上手くいって無い奴。元いじめられっ子で一回浮上したけどまた沈没した奴。元いじめられっ子でその後逆転したけど、妬まれたくなくて周りに隠してる奴。後よく分からない奴。コイツらが自分たちをいじめていた加害者を、東京郊外のとある一室に閉じ込めている。夜中にカーテン越しにオレンジのライトが付いて、悶える加害者のシルエットが見える」

8畳ほどの部屋。私の向かい側に浮かび上がる三つの人影。私と三人の間には、両手を天井に縛られた裸の青年男子が大きく左右に揺れている、ハアハアと息を切らしながら。オレンジのライトに照らされる青年の顔は、幸せそうにも、苦しみの絶頂のようにも、どちらにも見える。

私はスマホに目を落とし、罵詈雑言の書き込みをじっと見つめる。私たちの境遇をとにかく悲惨に書き、面白おかしくしたいのだろうが、単純に情報がデタラメだ。ただし、なんでこんな投稿が出てきたかは予想が付く。私は罵詈雑言の書き込みが付く、約三分前にアップした動画を観る。

「お前たち不幸になるぞ。いやもともと不幸か。生まれた時から!僕も同じ!」

裸の男の影が叫びながら、両手を縛られて激しく揺れている。そう、目の前に広がっている光景と同じだ。昨日撮ったのだ。画面上の男と目のまえの男がダンスセッションを繰り広げているようで、なんだかシュールだ。同一人物が分身して踊っているよう。

そして男が動画で叫んだ「不幸」が視聴者の心にスイッチを入れ、「不幸な連中の仕業」とか、「ロクな人生歩んでないからこんな動画アップしてるんだ」とか、そういうコメントが殺到した。デタラメ情報の罵詈雑言もその一つに過ぎない。言葉の断片を抜き取り、好き勝手な文脈を読み取り、好き勝手言いまくる。目の前にいる裸の男とSNSは、どこかで共振関係にいるようだ。これもまた、ダンスセッション。

ただし、デタラメ罵詈雑言にも見過ごせない点はある。この部屋の様子や人数等がやけに正確なのだ。目の前で佇む三人の影が、不気味に感じられるようになる。誰かと「共振」しているのかもしれない。

それは困る。敵はできるだけ少なく、味方はできるだけ多い方がいい。私は携帯に目を落とし、連絡先リストを指で弾いた。

「C美……協力してもらう」


~続く。次回はA夫とB助の危険真夜中ドライブ編!~


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