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202X。日本。~縮みゆく独裁国家。抵抗拠点の胎動②~


日沈み、地下出(いず)る国の反体制機関紙『スキゾちゃんぽん』第二号
※本機関紙を手に入れたラッキーなあなたへ。末尾にあるQRコードを読み込めば次号以降の配布予定箇所がわかります。しかし!弾圧回避のため大概場所が変わります。

・「堅苦しい空気を吸わない町は、抵抗の空気を吐き出した」②

 そう、自分たちが仕事中、散々「ゴミだめ」と言ってきた町の酒場にいざ入ってみると、そこは清潔な空間であり、広くはないが、左側がカウンターで、その奥で酒やつまみが出る。そして右側が座布団の席で客はゆっくりくつろぎつつ呑んでいる。笑い声は絶えないが、何とも平和な雰囲気であった。
 拍子抜けする私服警官を相手に、まずは「寒い中仕事ごくろうさんです。サービス!」と温かいお茶が出る。当たり前だが呑んでも普通のお茶だ。

「いやはや、そうか。少しでも気を許したら汚れると。とんでもない思い込みをしていたかもしれねえ」

 何やら私服警官が呟く。(薄くなった頭を掻きながら)
 「なんか言いましたかい。そりゃあ今日は飲みなはれ。では、皆さん注目!」
 カウンターも座敷も、全ての客が一斉に私警の方を見る。
 「栄光と繁栄の日本に。かんぱーーーーい!!!」
 「いえ~い」
 「日本ばんざ~い。日本さいこう~~~~」
 これで国営スマホアプリの「愛国心ポイント」が爆上がりし、ここの酒場のほぼ九割を陣取っていた、反政府組織人員の偽造転向に役立ったのは言うまでも無い。
 変幻自在に反政府拠点が変化し、追い続けるのに疲れ果てていた私警も次第に心を許していく。
 「本当に反政府の連中はロクでもないですよね。金稼げないから国のせい。働くのがキツイのも国のせい。結婚できないのも国のせい。あげくの果ては、一人で生きさせてくれないのも国のせい。もう訳わからないですよね」
「ほんとうだよなあ」
「我々は本当、国のために働く人を応援していますよ」
「ところで携帯は何使われてますか?」
 おう、これだよと携帯を取り出しカウンターの上に置く。その瞬間、携帯の機種を聞いた若者と、私警挟んで反対側にいた女性が、
「ねえねえ、そういえば何の仕事されてるんですか?」
と聞き、質問攻めにし、私警は呂律の回らぬ口調で同じことを何度も答える。その隙に若者がカウンターの上の携帯を静かな二階へと運び去り、1分間早口で国の悪口を囁き続ける。
 そして素早く一階に戻り、元の場所に携帯を置く。
 そして閉店になり、皆客のはずなのに皆で私警を見送る。
 数日後私警は上司に呼び出され、「愛国心ポイント」の急落について問いただされた。(了)

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