ホップリンクと2つのテレビ番組
今回の算数・数学の記事は、小学校3年生くらいからお楽しみいただけると思います。でも、きっと難しい漢字を使ってしまうと思いますので、実際に読めるのは小学6年生くらいからだと思います。「算数や数学のおもしろい授業のネタはないかな」と思っておられる現役の先生のネタにもなり得ると思います。よろしければお読みくださいね。
以下のように2つの輪がからんでいるとします。2つの輪がくさりのようにつながれていますね。これを、「結び目理論」という低次元トポロジーの世界の専門用語で「ホップリンク」と言います。
私の先輩で、結び目理論を専門とする数学の研究者の先生がいます。だいぶ前から名門大学の准教授です。女性の先輩ですが、同じく結び目理論を専門とする女性の研究者がこのようなイヤリングなどをしてきますと思わず「あ、ホップリンク」と言ってしまうそうです。「ホップリンク」はとても専門的な用語ですが、結び目理論が専門の研究者のあいだではこういう会話も成立する、という例でした。
さて、私は、だいぶ前に、この「ホップリンク」をネタにした、2つのテレビ番組を見たことがあります。いずれもクイズ番組でした。私が作った問題ではありませんが、さすがに位相幾何学(トポロジー)が専門であった私は、いずれも即答することができました。
ひとつ目は以下のような問題です。いわゆる、東大生みたいな「優秀な」学生さんなどを集めて、早押しクイズをしているところでした。以下の絵のように、かんぬきが地面に立っており、そこの左側の足に、わっかがからんでいます。
これを、以下の絵のように、かんぬきの右側の足のほうに移動してください、という問題でした。なんだ、簡単なクイズですね。幼稚園生でもできるのではないですか。
しかし、ここからが問題なのです。以下のように、かんぬきのうち、私が「ダメ」と書いてバツ印を打ったところを通してはならないのです。それで、左側の足から、右側の足のほうへ、わっかを移してもらいたいのです。これはどうしたらよいでしょう。切ったり貼ったりしてはいけません。その代わり、わっかはいくらでも伸び縮みします。
これが問題でした。私は即答できました。そのクイズ番組でも、ある学生が早押しで、わりとすぐに答えていたと思います。みなさんなら、どうお答えになりますか?
これは、以下のようにするのです。「地球を1周してくる」のです!これならOKですね?文句なしの解答ですね?
これも、ホップリンクの問題だったといえると思います。私は位相幾何学を専門としていたため、頭がこういうことを考えるのに慣れており、すぐに答えることができたのでした。
つぎの問題に行きます。さきほどの「かんぬき」の問題もだいぶ前に見たのですが、つぎの問題は、さらに前です。以下の図のように、白衣を着た人物がいます。その人は、左のポケットに左手を入れています。そして、そこには、絵のように、ひもでできたわっかがからまっています。さて、この人物が、ポケットから手を取り出すことなく、このわっかを外すことはできるでしょうか?
これも私は即答いたしました。すぐに答えはわかったのです。位相幾何学を専門としていたからでしょう。この問題は早押しクイズではありませんでした。3、4人が組になってスタジオでチームをなしており、それぞれのチームに白衣を着たモデルさんが立っていました。そういうチームがいくつかありました。「さあ、みなさん、やってみましょう!」というアナウンスのあと、各チームが試行錯誤を始めました。「このチームは1番にできました!」とか「このチームは最後までできませんでした!」とかいう感じの番組の進行でした。早いチームでもかなりの時間がかかったのです。しかし、私は番組を見ながら「即答」でした。
答えを書きますね。以下のようにやるのです。
つぎの絵のように、左手のそで口から、わっかを入れていきます。
そして、そのままわっかを腕に沿って上げていきます。
わっかが肩まで来ました。今度はわっかを頭に通します。頭の上をわっかが通って行きます。
頭を通したところが以下の絵です。
そうすると、今度は「右手」がじゃまになるでしょう。右手のほうまで行って、わっかを通します。
わっかを右手まで通すと、今度こそ、わっかは胴回りを通っているだけになります。
こうなったらあとはわっかを下へストンと落とすだけです。いかがでしょうか。わっかは外れたのではないでしょうか?
これでおしまいです。スタジオでは、だいぶ試行錯誤したチームが、ようやく正解していました。正解できなかったチームも少なくありませんでした。いずれにしても、モデルさんの体をなでまわす試行錯誤になるので、なかなか気持ち悪い話ではあります(笑)。しかし、とにかく私はこの問題も即答したのでした。
これは、一見、ホップリンクの問題に見えます。しかし、ほんとうのホップリンクであれば、絶対にはずれるはずはないのです。これはホップリンクの問題と見せて、「白衣のポケットに手を突っ込んでいるだけだ」ということから、おのずと答えがわかります。
いかがでしたでしょうか。「こんなことが即座にわかっても何にもならない」ことがおわかりいただけましたでしょうか?(笑)しかし、私が大学と大学院で学んだことで、世の役に立つようなことはなく、これらのテレビのクイズ問題に、「数学的に」即答できたということにしか役に立たなかったのでした。私は社会の失敗者です。皆さん、私みたくなりたくなかったら、数学を専攻するのはおやめになったほうがいいかもしれませんね。私は大学と大学院で数学を専攻したことに何の悔いもありませんが、みなさん「なんとなくおもしろそう」くらいの感覚で「数学」という専門を選んではいけませんよ!(笑)
※サムネは「ホップリンク」の形をしたドーナツです。みんフォトにこんな写真があるなんて!感謝です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?