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クイズ歴12年の踊り場リスナーが空気階段『ハイスクールクイズ 群馬予選決勝』の問題を分析する
こんばんは、放送開始当時からの踊り場リスナー、コヤマです。古参アピール。
【本日発売🎉】
— 空気階段 第5回単独公演「fart」 (@kuki_tandoku) July 20, 2022
DVD「空気階段単独公演fart」
KOC2021チャンピオン空気階段👑初の全国ツアー最終日の模様を収録!
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特典映像には、踊り場記録映像集を収録!峯田和伸弾き語り「エンジェルベイビー」も!#空気階段fart#odoriba954
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「空気階段 第5回単独公演『fart』」のDVDが発売されましたね。
私も早速買いました。
今回披露されたコントの中に、『ハイスクールクイズ 群馬予選決勝』という、あの『高校生クイズ』の地方予選を思わせる作品がありました。
そこで出題されていたクイズの質が、コント中のものとは思えないほどになかなか高く、大学時代にクイズ研究会に在籍していた私は、初めて見た時に「誰かクイズ作家さんが監修してる・・・?」とスタッフロールを凝視したほどでした。
当時の私の感想↓
#空気階段fart 、やっと配信で見ました。サイコゥ!サイコゥ!サイコゥ!
— 3.14kb/H.Koyama (@314kb) April 10, 2022
クイズプレイヤーとして触れずにはいられないのが『ハイスクールクイズ 群馬予選決勝』。くだらなさ過ぎて一番笑いました。
この公式写真のかたまりさんのクイズプレイヤーっぽさったらない。表情。そして白いメガネフレーム。 pic.twitter.com/1ylDOMTkSJ
誰も注目してない視点かもしれませんが、クイズを題材にした数多くのコントの中でも、一番と言っていいほど、出題する題材と問題文のクオリティが本物のクイズ番組に近かったと思います。クイズ作家さんの誰かが監修したのかな、と思うほど・・・配信は今日いっぱいまでです。#空気階段fart
— 3.14kb/H.Koyama (@314kb) April 10, 2022
そこで今回は、クイズ歴12年、かつ「踊り場東大王」でのメール採用経験のある私の視点から、いかにこのコントで出題された問題の質が高かったかを、野暮と知りつつ僭越ながらばかまじめに解説したいと思います。
(以下、コントの内容に少しだけ触れます。なお、「核となる部分」には一切触れませんのでご安心ください)
Q.原子番号19番の元素であるカリウム。その別名を答えなさい。
A.ポタシウム(Potassium)
対戦相手、渋川学園に出題された1問目。
初っ端でこんなことを言ってしまうのはちょっと気が引けるのですが、実は、今回出題された7問のうち、この問題はクイズ研究会的な観点では若干微妙?と言わざるを得ません。
「カリウムの別名を答えなさい」という問題文だと、上記の「ポタシウム」だけでなく、略称の「カリ」などの呼び名が「正解とは言えないけど誤答にもできない」解答になってしまうのです。
添削するなら「原子番号19番の元素であるカリウム。英語では別名で何という?」の方が、正解が1つに定まってよりベターな問題文かと思います。
ただ、「カリウムが英語では『ポタシウム』と呼ばれている(「カリウム」はドイツ語またはラテン語)」という知識は、過去の『高校生クイズ』予選でも実際に出題されたことがある頻出事項なので、その題材をチョイスした点については再現度の高さが伺えます。
Q.哲学者・アリストテレスの倫理学に関する著作文をまとめた、アリストテレスの息子の名前とは?
A.ニコマコス(Nicomachus)
高崎中央高校、清水に出題された1問目。
はいこれ、私はド肝を抜かれました。クイズ研究会の高校生に出題するには絶妙な難易度、十分なクオリティと私は思います。
アリストテレスの有名な著作のひとつに『ニコマコス倫理学』というものがあるのですが、この著作名の中にある「ニコマコス」が、これを編纂したアリストテレスの息子の名前である、ということまで知っていないと正解できない問題。
先ほどの「ポタシウム」にも通じますが、単に「教科書に載っている知識」をストレートに問うのではなく、「教科書から一歩踏み出した事項」が出題されやすい、という傾向も上手に体現している1問だと思います。
あくまで私の難易度感覚ですが、現役学生に出題しても「差がつく」問題なのでは、と思いました。単独ライブのひとネタにこのクオリティの問題、QuizKnockあたりが監修に入ってますか?
Q.太陽のおよそ8倍の質量を持ち、日本では「布良(めら)星」とも呼ばれる恒星の名前とは?
A.カノープス(Canopus)
高崎中央高校、清水に出題された2問目。
「カノープス」が答えのオーソドックスな問題なら、本来は「りゅうこつ座のアルファ星」という情報を入れておきたいところなのですが、地方予選の決勝、それをあえて外した問題文にすることで問題の難易度を上げるように仕立てたのでしょう。
ある事柄を説明するのに一番有名な情報(クイズ業界では「落とし」や「後限定」などと言ったりします)をあえて外すことで、問題の難易度をわざと上げるという手法はよく行われます。「小説『逆行』が第1回芥川賞の候補作になるも落選した作家は誰?→太宰治」みたいな。
Q.江戸幕府第11代将軍は誰?
A.徳川家斉(とくがわ・いえなり)
動揺する清水に倉田がその場で出題した問題。
「心ここにあらず」状態の清水を心配したチームメイトの倉田が、普段の調子を取り戻させるべくその場で出題する1問なのですが、家康でも家光でも綱吉でも吉宗でも慶喜でもなく、家斉をチョイスするのがなんとも「クイズ研究会」らしいと思いました。
江戸幕府で歴代最長の50年間、将軍職に在位したことや、多くの側室を持ち合計50人以上の子を生ませたという「子だくさんエピソード」などがよくクイズに出る将軍です。
Q.ベートーヴェン、バッハとともに「ドイツ音楽界3大B」と呼ばれた、その作曲家は誰?
A.ブラームス(Johannes Brahms)
動揺する清水に倉田がその場で出題した問題2問目。
はい出ました、いわゆる「名数ベタ問」です。クイズでよく出る頻出問題「ベタ問」の中でも、「3大〇〇」や「4つの〇〇」といった、いくつかの要素があるもののラスト1つを答える問題。
こういった問題の場合、その中で「最も一般的な知名度が低い」ものが答えになりやすいとされています。(例:「スイスの4つの公用語とは、ドイツ語、フランス語、イタリア語と何語?→ロマンシュ語」)
この問題で答えになっているブラームスは、『ドイツ・レクイエム』や『大学祝典序曲』などの作品で知られる高名な作曲家なのですが、ベートーヴェンやバッハと比べると一般知名度がやや下がるため、「ドイツ音楽界3大B」でクイズの答えにするならブラームス、ということになります。
クイズ業界で典型的な「名数ベタ」であるこの問題を出すとは・・・単独ライブの作家陣にクイズ経験者が混ざっていたとしか思えない出題です。
Q.トルコから始まりイラクの南部・クルナで合流する「シャトルアラブ川」を形成する2つの川の名前とは?
A.チグリス川(Tigris)、ユーフラテス川(Euphrates)
高崎中央高校、清水に出題された3問目。
答えはメソポタミア文明を形成した2つの河川として有名ですが、このように切り口を変えて出題されると、ややピンと来にくいかと思います。これも「カノープス」同様、一番有名な「落とし」情報をあえてカットして難易度を上げた問題と言えるでしょう。
「チグリス・ユーフラテスが合流するとシャトルアラブ川になる」という知識は、学生の基本問題No.1決定戦『abc』でも出題歴のある頻出事項です(2010年「abc the eighth」)。
また、ここまでの6問で「化学(ポタシウム)」「哲学(ニコマコス)」「天文(カノープス)」「日本史(徳川家斉)」「音楽(ブラームス)」「地理(チグリス、ユーフラテス)」とジャンルがバラバラになっているのも評価できるポイントですね。
Q.キュニコス派の思想を体現した、アンティステネスの弟子で、ソクラテスの孫弟子にあたる古代ギリシャ哲学者とは?
A.ディオゲネス(Diogenes)
その後、全国の決勝で高崎中央高校・清水に出題された1問。
コント中で答えは発表されていませんでしたが、問題文からして答えは「ディオゲネス」で間違いないかと思います。ただ正直なところ、ディオゲネスを出題するなら「樽の中に住んでいた」という情報は欲しいかなー、と思いました。全国の決勝ということで、あえて有名な情報をカットし、高崎中央高校・清水の動揺を誘ったのかもしれません。
空気階段のコントの魅力の1つに、「どんなにヤバい設定でも、そのディテールに高いリアリティがある」という点があると思っています。
SMクラブで警察官が名乗るときには「阿佐ヶ谷警察署 生活安全課の岡本です」と所属まで言うし、異常犯罪者は事件現場に残されたフランス語の言葉遊びを一瞬で理解するし、コミュニティFMの音声はスマホの方に若干のタイムラグが生じる。
この『ハイスクールクイズ 群馬予選決勝』も、問題の難易度が簡単すぎることもなく、難しすぎることもなく、かといって架空の事象を出すわけでもなく、実際に出題されてもおかしくないようなレベルの問題を出題することで、リアリティを高めているのだな、と思いました。
さて最後に、このコントに関する「大発見」をしましたので、ここでご報告いたします。
コントの冒頭、もぐらさん演じる高崎中央高校の倉田が、何かの人名を答えて正解し、決勝に進出する、という場面から始まりますが・・・
そこで答えていた人名、皆さん覚えてますでしょうか。
冒頭の導入部分でさらっと流れる部分なので、ほとんどの方は覚えていないかと思います。
DVDを購入された方、もう一度見返してみてください。
高崎中央高校の倉田、「まさむらたけいち」と言って正解しています。
私は、どこかで聞いたことある人名だな・・・なんの名前だっけ・・・と思い、Google検索をしました。
正村竹一 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E6%9D%91%E7%AB%B9%E4%B8%80
そうです。もぐらさん演じる高崎中央高校の倉田は、現在のパチンコの原型を作ったとされる「パチンコの父」の名前を答えていたのです。
この正村竹一さん、パチンコ台の釘の配置の「正村ゲージ」を考案し、爆発的にヒットさせるも、「みんなで仲良く使うがええがや」といって「正村ゲージ」の特許を取らず、その結果、業界でこのゲージが広く普及し、パチンコ産業が現在まで発展する基礎を築いたという偉人、「現代パチンコを作った男」なのです。
・・・もぐら、どんなところにパチンコ要素を忍ばせているんだ。
正直な話、正解した高校生に変なイメージをつけてしまうので、この「正村竹一」が、実際の『高校生クイズ』で出題されることはまずない、と思います(放送を通じて出演する高校生に賢いイメージを持ってもらいたいはずなので)。
ただ、現役の高校生であっても、「難問」や「学生系」と呼ばれる傾向のクイズを好んでいる人などであれば、「正村竹一」は一定数正解が見込める問題ではないかと思います。実際にクイズ業界でもたびたび出題歴があり(2012年「第5回 Janitor Cup」、など)、過去問をしっかり研究している人、難問傾向に強い人であれば、高校生での正解も十分にあり得る話なのです。
この記事を読んで、『ハイスクールクイズ 群馬予選決勝』がどんなコントなのか気になった方、また、劇場や配信で一度見たけどもう一度見返したくなった方、「空気階段 第5回単独公演『fart』」のDVD、絶賛発売中です。ぜひお求めください。
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https://www.tbsradio.jp/event/53653/
もしかすると、我々が気づいていないだけで、他にも見つかっていない隠し要素があるのかもしれません。