【300字小説#4】シャコンヌ
この虫は、砂漠に何十年も独りで生きている。
朝起きると、わずかな湿りを求めて穴を掘る。
黄色い砂が、彼の全てだ。
ある日、彼に突然、知恵がついた。
同時に、湿りを舐めとるだけの自分は卑しいと認めた。
すると穴掘りを止めて地表に上がり、
鉛色となった目で延々と空だけを眺めていた。
身体は小さくなっていった。
それは解放であり救済であった。
最期の誇りのつもりだった。
突然、視界をサッと何かが横切った。
「げぃぁっ」
それは一羽の鳥だったが、
自分の他は砂しか知らなかった彼は、
空が破れたのだと思った。
そういえば、声を出したことに気づいた。声が、あった。
喉の奥の熱さに、目が青くなる。
彼は、光を求めて、再び砂に潜りはじめた。