【300字小説#11】コマ遊び
「ねえ、悪いんだけどA店に行ってくれない?うまくいってなくて。前任者も頑張ったんだけど、やっぱりあなたじゃないとダメみたい。」
A店に着いて早速、反社長派の人間に頭を下げた。無害な笑顔で繰り返し頭を下げるのが一番効く。
「都合の良いコマの分際で。」
捨て台詞を後頭部で受け止める。
全員の退勤後、本部長に電話で報告する。「会社貢献度ナンバー1は、今年もあなたね。」と、鼻がもげそうなほどの猫撫で声でお褒めの言葉を頂戴した。
帰り道。赤信号で止まるたびエンジンが停止し、外界の静寂がツンと耳を裂く。
「知ってるよ。」
ふと、バックミラー越しに月がこちらの様子を窺っているのに気づく。凍てつくような視線だった。