#11 さ:殺人犯 「エデンの蛇」
「これは毒味です。」ある人がそう言った。
あっちゃんがそんなことするわけないじゃん。
あっちゃんはいつも天使みたいに笑ってるよ。
このりんごだってすごく美味しそう。
でも時折あっちゃんは私といる時より楽しそうにしている時がある。
いつものように「さおりー!」ってかけよってくれるけど、いつもよりそれは軽快なステップを踏んでるの。
あっちゃんはいつも憧れだよ。
背が高くて、スラッとしてて、黒髪に真っ赤なリップがよく似合ってる。
あっちゃんはいつもみんなの虜なんだ。
ほら、なんか、特別な組み合わせってあるでしょ。なんでこの子とこの子が、っていう不思議な組み合わせ。あれが私とあっちゃん。すごいでしょ?あっちゃんは私をすごく大切にしてくれる。
だってね、理科室の隅っこで、「さおりは特別だよ。」って言ってくれた。
そう、あっちゃんと私は特別なの。
秘密の関係だから、いつも廊下では目を合わせてくれないけど。
この前ね、いつもよりあっちゃんが楽しそうな時話しかけてみたんだ。「どうしたの?」って。
そしたらね、あっちゃんは私にとびっきりの笑顔を見せてくれたの。あっちゃんの笑顔、本当に美しかった。真っ赤な大きなお口が横にめいいっぱい広がって、口元にまだちょっと口紅が外れてついててお茶目だったなぁ。
それだけじゃないの。その時ね、「はい、これさおりにあげる。」ってりんごをくれたんだぁ。
それがこのりんご。ちょっともったいないからしばらく置いてたんだけど、せっかくあっちゃんからもらったから食べないとなぁって。
今日はね、あっちゃんがうちに来てくれるっていうから、その時一緒に食べようかなって、思ってるの。
あ、あっちゃんが来た。
ほらいつもと同じ黒髪に真っ赤な唇。よく似合ってる、素敵だなぁ。実はあっちゃんとお外で会うのは初めてなんだぁ。いつもは学校の白のブラウスに紺色のスカートだから、黒のお洋服を着ているの、初めて見ちゃった。いつもの白と赤も素敵だけど、赤と黒って映えやすくてよく似合うなぁ。今日は一段と笑顔なあっちゃん。「何かいいことあったの?」って聞いたけど、「ひみつ。」って教えてくれなかった。
ひみつ、ひみつかぁ……。あっちゃんにも私に言えないことがあるんだ。
ちょっと悲しかったけど、早速あっちゃんのくれたリンゴを用意することにした。あっちゃんを2階の私の部屋に招きいれて、「すぐ用意するから待ってて。」って言ってきた。部屋に入った時「案外綺麗にしてるんだね。」って言ってくれて「うん。結構綺麗好きなんだ。」って自慢しちゃった。
用意ができたから2階にかけあがる。
「はい!リンゴ!!」8頭分に切り分けたリンゴのお皿をテーブルの真ん中に置いて、思わずこう聞いたの。「ねぇねぇ、あっちゃん。食べる?」って。爪楊枝でリンゴを刺してあーんってしようかなって。そう思ってたんだけど、「いやいや、悪いよ。まずさおりにあげたんだから、さおりから食べて。」ってそう言われちゃった。優しいなぁ。
「じゃあ先に食べるね。」そう言ってパクッと一口食べる。「おいしい?」あっちゃんはそう聞きながら一緒に持ってきたジュースを飲んでいた。
「うん!おいしい!」そう言うと、あっちゃんは今までに見たことがないほどすごくすごく嬉しそうだった。「ここ、暑いね。」と言いながらあっちゃんはコップにあったジュースを飲み干した。
「暑いなら果物食べなきゃ!」私がそう言ったら、あっちゃんは突然倒れ出したんだ。不思議そうな顔でこちらを苦しそうに見つめてた。
ああ、あっちゃんの見たことない顔ダァ、
いいなぁ、あっちゃんは本当にいつもキレイ。
「おいしい?リンゴ入りのミックスジュース?」
私はそう聞いた。みるみるあっちゃんの顔の血の気がひいていく。色白なあっちゃんの顔がいつもより白くなっていく。黒と赤に白ってやっぱりよくニアウ。
あ、言い忘れてたけど、あっちゃんの周りではよく人が死ぬんだって。
「私、結構キレイ好きなんだよね〜。」
数十分前までつけていたエアコンを思い出しながら、今日新しく買ったリンゴを美味しく頬張った。隣には赤のよく似合うあっちゃんが横たわっている。リンゴは切っても白い汁しかでないのに、あっちゃんは赤い汁でいっぱいだった。あっちゃんにはよく似合うけれど、出しすぎたかもしれない。後片付け頑張らなきゃなぁ。あっちゃんは赤がよく似合うし、天使だし、キレイにしたいから、もったいなくてしばらく置いておくかもしれない。大事にあとで食べるからね。そうやってあっちゃんはほんとに天使になったんだ。
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