過ぎる
誰にも言えず溜まっているお話のうち一つを初めて人に話した。
自分だけで留めておくと果たして自分の感覚がまともなのかどうかがわからない。
人に話して初めて「間違ってなかったんだ」と心綻ぶ音が鳴る。
言ってしまった後悔と間違ってなかったんだという安堵が交差する想い、
幾多の感情が絡み合った糸が弛緩して心のエネルギーが給油される。
一つはその人に委ねた。
「聞きたいというならいう、そうじゃないなら言えない」
まるで共犯者に引き摺り込むよう。
どちらを選ぶかと思ったら少し悩んだ挙句
「き……きたいかなぁ!」という声。
終わりに「今日のことは忘れてもらって」と誰にも言えず溜めていたものをシャボン玉の如く刹那の瞬時に今日という日だけに飛ばされて割れるものにしようとした。
そしたら思わぬことを言われた。
「忘れようにも忘れるのが難しい」
私が溜めていた思いは間違っていなかった、でも想像以上に他人にも泡のように飛ばせないものだった。
そんなことに驚いた。こんなお話は30個ほどある。
私の人生はいろいろありすぎたのだ。
溜まったシャボン玉を口から出す時はまた1つ増えてしまった時でいいかな。
とかく一つ言うことで生まれた間違ってなかった自分の感覚を拠り所に、
溜まりすぎたシャボン玉を少しずつ外にとばして軽くしようと思うのだ。
自然な反復の差異に、ヒトは廃れて
逡巡から解き放たれるため過去への執着を脱ぎ捨てる。
誰かの喪失は世界の喪失となる。
自由と共に孤独を受け入れ
消滅しないものを求め
言葉は沈黙する、過去を再生して壊さぬよう。
私の人生はいろいろありすぎた。
語りきれないほど語るにあたる割れにくく厚く硬いシャボンを上手く扱いきれない。