ツララカモシカ

朝、かもしかを見た。

牧草畑のひだまりの中に佇んで、じっとしていた。

白に近い灰色で、毛は長くふさふさとしていた。牧草を食んでいるように見えて、その実微動だにしない。

「そういうコンセプトのモニュメントなんです」と言われたら、そこそこ信じたかもしれない。

その位には、かもしかはじっとしていた。

調べてみると(Wikipedia)、かもしかはウシ科の偶蹄目で、簡単に言えば「生え変わらないツノがあって蹄が二つに割れている獣」ということになる。ウシとかヒツジとかの仲間だ。なので牧草畑にいたのは別におかしい事ではないのだろう。

かもしかは「アオの寒立ち」と呼ばれる行動をする。

アオというのは、マタギの言葉でかもしかのこと。寒い日の朝に、かもしかが何もせずにずっと立ち尽くしている事をそう呼ぶのだという。理由は諸説あるけど、かもしかが主に生活の場とする崖地は寝転ぶのに向かないから、立ち尽くしているのではないか、ということらしい。

かもしかは好奇心が強く、面白いことに、人間の様子を見に来ることがあるのだそうだ。特別天然記念物の割に「アオの寒立ち」が人々によく目撃されるのは、それだけかもしかが人間の近くに来ているということ。

ところで今「面白いことに」 と書いたけれど、私がこうして「かもしかとは面白い生き物だ」と書いているのと同じで、かもしかだって「人間とは面白い生き物だ」と思っているのかもしれない。私が「かもしかを見た!」と思っているのと同時に、かもしかも「人間を見た!」と思っているのかもしれない。人間がかもしかを覗いているとすれば、かもしかもまた人間を覗いているのだ。なんだか深淵みたいな話だ。

細かいことは置いといて、調べるにつれて、私はなんだかかもしかという動物をすっかり気に入ってしまった。別にかもしかを見たのは今度が初めてではないから(田舎なので割と見かけます)、今更といえば今更なのだけど。不思議なものだ。

そんな訳で、tumblrのタイトルは「ツララカモシカ」にした。単にかもしかだけだとちょっと座りが悪い気がしたので。スキマスイッチと語感が似ているが、何の関係もない。
毎日いろんな事がとめどなくフローしていくけれど、たまには立ち止まって、ひとつひとつじっと眺めてみるのもいいのかもしれない。

冬の朝のかもしかみたいに。

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