(本屋のエッセー:5)「駅」には縁がある、という話
2022.9.20
「駅」には縁がある、という話
当本屋カフェは「御書印プロジェクト」とういう企画に参加させていただいている。全国の小さい書店から大手チェーン店まで、2022年9月現在365書店が参加する、書店の御書印を集めようというものだ。いわば神社の御朱印の書店版といったところである。先日、その「御書印帳」を11冊目、すでに全国200以上の書店を回られているというお客様がいらっしゃった。台風上陸の前日という日で、そんな日に当店に来ていただいたのには本当に頭が下がり、嬉しいことだった。そのお客様は鉄道関係のお仕事をされているとのことで、そういえば南阿蘇に来る10年ほど前、私は鉄道の時刻表を作っていたのだった、ということを思い出した。というかすっかり忘れていた。
鉄道の時刻表と言ってもダイヤ自体を作るのではなく、駅員さんがポケットに忍ばせておく、手のひらサイズの小さな本のような時刻表のことで、JRや私鉄からいただいたダイヤのデータを元に、その冊子に載せる時刻が正しいか、順番は正しいか、などを黙々と確認する、時刻の「校正」をする仕事である。その仕事自体は2年弱と短かったが、何より鉄道オタクのおじさま方と一緒に仕事をさせていただきとても楽しかったし、ダイヤ改正の時期や時刻、新駅の情報などの守秘義務や、鉄道会社さんに頼まれて作るものだから絶対に間違えてはならないというプレッシャーもあり、今思えば貴重な体験だったと思う。
そんな思い出話とともにもう一つ思い出したのが、大学時代4年間住んでいた「東伏見駅」の話。東京のしかも西東京市にあるとーってもマイナーな駅なのだが、これまでにそこに住んでいたというお客様が2人もいらっしゃる。それにも驚きだが、さらに詩人の茨木のり子さんが亡くなるまで暮らされていたのがこの東伏見だった、ということをそのお客様のお一方に聞いた。実は、茨木のり子さんの有名な「自分の感受性くらい」という詩が大好きなので、誠に僭越ながら、当店で出す浅い方のコーヒー豆の女性のイラストのモデルにさせていただいたのが、他でもなくその茨木のり子さんなのだった。お客様に教えてもらうまで、東伏見に住んでいらしたことすら知らなかったのだが、何だか点と点がつながったようで不思議な話である。
そして今、当店は南阿蘇村の「道の駅」の中に店舗を構えている。これもまた何かの縁。これが、駅には縁があるという所以である。
(終)