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宝石展に行きました「価値とは」
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昨年情報が解禁された時から楽しみにしていた宝石展に行ってきた。
キャッチーな特大アメシストドームから始まり、宝石が地中でどう作られる/採掘されるのか/カットされるのか、指輪の個人コレクション、ルースと原石、ジュエリーの仕立て、ギメルのジュエリー、豪華絢爛な歴史的ハイジュエリーと区画が分けられ網羅されている。
展示方法や混雑についてはSNSで散々言われている通りだが、ライトなキラキラ好き~ディープなマニア、鉱物としての宝石が好きな人から仕立てられたジュエリーが好きな人まで、皆が楽しめる展示だった。
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国内で最も有名な宝石の会社・諏訪貿易が協賛しており、ルースと原石のスペースには実物のクォリティスケールが飾られている。
x軸がクォリティ、y軸が色の強さになっていて、宝石の品質が一目で分かるというものである。
一般的には色が濃い/内包物が少ないほど、「価値が高い」とされている。
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個人的に最大の目玉はやはりアルビオンアートコレクション(ハイジュエリー)のブースだ。
嬉しいことにここだけは撮影禁止なのでゆったり見られる。
ジュエリー好きにはまさに夢のような空間で、一人で行ったのに「もしこれを着けたら……」と子供のように夢想し手が動いてしまってちょっと恥ずかしかった。
その素晴らしい作品群の中に、ひときわ目が離せなくなるような魅力――を通り越して魔力を発しているエメラルドのリングがあった。
腕にはクローバー形の装飾が施されているのだが、とにかく真ん中に鎮座するエメラルドの美しいこと!!
景色はスローモーション世界には私とあなた(エメラルド)だけ……みたいな衝撃を久しぶりに受けて、何度も何度も戻って凝視した。
その後ベンチで休憩中、途中からすっかり存在を忘れていた音声ガイドを再生すると、諏訪氏の一番おすすめとして先のエメラルドリングが挙げられていたのだった。
国内トップレベルの宝石商を以てして「同じレベルのエメラルドは人生で2つ(1つだったかな? 記憶が曖昧でスミマセン)しか見たことがない」と言わしめたこの石、肉眼で見られるうちに見ておくためまたチケットを取ってしまった。
魔力です。
アートの世界で、よく分からないという人とアートマニアの人が「これが良い!」という作品を一つ選んだ時同じものを選ぶ、ということが往々にしてある。
分野に関わらず、ある一定のレベルに達したものは、それに対してどの深さで理解しているかに関わらず人を惹きつける
という当たり前のことを頭ではなくハートで再確認できた。
間違いなくこのエメラルドは「価値が高い」宝石だ。
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では、色が薄かったり濁っていたり内包物がたくさんある宝石は「価値が低い」のだろうか。
その問いかけに宝石が好きな人のほとんどがNOと言うだろう。
インクルージョンの多い石でもその入り方が面白ければ魅力的と感じたり、薄い色を可愛くて爽やかな色だなと気に入ったり、或いは「自分の飼い猫の目に似ている」と独自の価値を見出したり。
ちょうど先日「マツコの知らない世界」エメラルド特集でも、内包物についてエメラルドバイヤーさんが「人それぞれの本能に訴えるような〜」とコメントしていた。
はじめての石の即売会で見つけたガーデンクォーツを、今でもたまに思い出す。
トレイの上にがさっと置かれたうちの一つで、透明度はあまり高くなく、値段もたしか1、2千円程度だった。
ただ、インクルージョンが小さい小さい恐竜みたいな形をしていた。
結局それを買わなかったことを、その後に見たどんな「価値の高い」ルースを諦めたことより後悔している……。
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好きなジュエリーデザイナーの方がやっている音声配信を紹介したい。
自分の考えを言語化するのが上手なクリエイターさんで毎回話が面白いのだけど、その中でも特に好きな回。
内包物のある個性的な石のジュエリーをメインに作られている方だが、
「誰でもクリエイターを名乗れる時代に、センス『だけ』でなく、一般的な価値基準を判断ができる知識を持つことが説得力に繋がる」
という考えのもとFGAというおそらく一番難しい宝石学の資格を取得されたそうだ。
私はアマチュアだがこの話を聞いて、不当に高い金額で石を買わされたり後悔しない買い物をするために、知識をつけようと思った。
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一旦宝石の話から脱線するが、以前アートギャラリーでアルバイトをしていたことがある。
当時スタッフとしてしばしばお客さんにお伝えしていたのは、「(お金さえあれば)買える」って面白くないですか? ということ。
美術館にある作品のキャプションには題名・作家名・素材・いつ作られたかが書いてあって、ギャラリーではそれに加えて値段表記がある。
若い作家であれば自分で値段を設定したり、もう世界的に名が知れてマーケットができているような作家の作品(セカンダリーと言う)であればその時のオークションでの落札結果などが反映される。
宝石よりさらに価値基準が分かりづらいアートに、誰かが個人的に価値と値段を決めたり、権威のあるギャラリーやたくさんの人が価値を見出すことでそれが強固な信頼性のある市場価格になっていく。
ここで数日前に話題になっていたツイートを引用させていただく。
そういえば先日、噂の科博の宝石展に行ってきた。どうしてもガラスケースに人が群がってしまうので、じっくり見るのが難しかったのが残念だったけども、撮影禁止エリアの宝石たちとか圧倒的なパワーがあってすごかった。あと「値札つけてくれよ、金の力で感動したい」と呟いてたおじさんがいた。
— インド神話の天竺奇譚 (@tenjikukitan) June 4, 2022
金で全てをはかるおじさんは心が貧しいという意見も寄せられていたが、私も値段がついてたら面白いに一票!
(ジュエリーを買い始めて、他のものに較べてずいぶん売っている場所で値段が違うんだなと気づいたが、それはそれとして)いくらあったら買えるという具体的な想像は、鑑賞時の視点をまた一つ増やしてくれる。
それに、どうしてこの値段なのかを考えると、関わった人の多さや入った手数まで自然と想像が及ぶだろう。
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価値ってなんだろう。
私が石油王でお金が無限にあったらよかったのだけど、現実はしがない会社員なので、素敵だなと思ったものを片っ端から買うことはできない。
コスパが良いものも大好きだけど、原価が全てかと言われたらそれは違う。
安いものは価値がないのかと言えば、それだって違う。
かと言って、頑張ってブランド物を買うのは愚かじゃない。
でもそれはあくまで私個人の価値観だ。
宝石をただの石ころだと思う人だっている。
とにかく私は宝石とジュエリーが好きで、ブランドのジュエリーを着けてその歴史と栄光のひとかけらで自分自身を飾るのも、コンテンポラリージュエリーの思想やコンセプトを味わい「身に着けるアート」を楽しむのも、作家ジュエリーでデザイナーさんのオンリーワンチョイス&クリエイティビティと自分の感性が交叉した喜びを感じるのも、ぜ~~~んぶだ~~~い好き!!
宝石展はキラキラいっぱいで楽しかった!
あのエメラルド、何十年か後にまた見たいなぁ。
おわり