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「年末感」とは何かを(無駄に)考える

「最近はすっかり『年末感』がなくなった」

こうした会話を聞くことが多くなりました。僕も、昔に比べると「年末感」を感じにくくなったと思う一人でもあります。

では一体、年末感とは何なのでしょうか?

そう聞かれるとなかなか答えられないですよね。このnoteおよび日経COMEMOでは、その年末感について考えてみたいと思います。

はじめまして、コピーライターの梅田悟司と申します。僕の仕事は、言葉を生み出すこと、コミュニケーションを考えることです。仕事柄、言葉に向き合うことが多く、年末感という言葉に興味が沸いた次第です。

年末とは、社会全体を巻き込んだ、壮大な締切りである

年末感や年末らしさは非常に面白い現象だと思います。日本に限定すれば、何とも言えない、新しい年を迎える前の静けさのような、あわただしさのような、切なさのような、来年への助走のような、様々な感情が入り混じった不思議な感覚です。最近では年末感を感じなくなってきたとはいえ、日本全体で生まれる数少ない共通感覚と呼べるでしょう。

年末感を考えるうえで外せないのは、年末の前後にある「師走」と「正月」の存在です。12月は仕事納めに向けて忙しくなり、人々は忙しさと共に師走を感じます。仕事がひと段落つき、正月準備に取り掛かり、年末を感じるようになります。そして、年が明けた瞬間から正月を感じるのです。この短期間でコロコロと集合的な感覚が変化していくわけです。

先に挙げた「時間」という切り口から見てみると、年末は、仕事納めと来年のはじまりに挟まれた「谷」のような期間と言えそうです。リモートワークやパソコン仕事が多くなってくると、明確な仕事納めや最終出勤日といった概念がなくなり、年末そのものが曖昧になっているのかもしれません。その結果として、年末感を感じにくくなっているのは合点がいきそうです。

その逆に、年始から逆に考えてみるとどうでしょうか。元日は強制的にやってきます。つまり、年末は1月1日の午前0時になった段階で強制的終了するわけです。その点からすると、年末は、仕事も家庭も生活もすべて含めた社会全体を巻き込んだ「壮大な締切り」なのではないかという仮説が浮かびます。かっこいい言い方をすれば、今年のグレートリセットです。

広告では「今年の汚れは今年のうちに」といったメッセージが流れてくるようになります。家庭でも「部屋の掃除くらいは、今年のうちにやっておきなさい」といった台詞が使われるでしょう。

人間は締切りがなければ何もできない生き物です。そのため「今年できることは今年のうちにやってしまおう」「今年生まれた負の遺産は今年のうちに片づけてしまおう」という機運が生まれ、実行に移そうと思えることはいいことかもしれません。

年末と夏休みの最終日の相似形

しかしながら、締切りを意識すると「あれもやっておこう、これもやっておかなければ」と考えてしまうのが人間の性でしょう。そこに元旦に向けた準備も重なり、忙しさは膨らんでいく一方です。大掃除、仕事の残務、年賀状、おせち料理の準備。人によっては、年末年始の帰郷の準備など……。

すると、どうなるでしょうか。もちろん、すべてこなすことはできません。

焦っていた時期を超えて、「今年のうちには終わりそうにないな」と諦めの気持ちが生まれ、「とわいえ、今年中にやる必要なんてないよね」と自分に言い聞かせるようになり、最終的に「来年にやったって同じなのに、何を焦っていたんだろう」という境地に達します。

その後は、年末という締切り効果が外れることになり、なし崩し的に実行されないというループに入りこんでいきます。

年末が締切りであるとするならば、年末感は「締切り効果に乗じて自分に課したやるべきことに押しつぶされそうになる苦しさと、締切り効果すら守れない自らの不甲斐なさへの悲しみ。そして、もう来年に持ち越すことを決めたあとの清々しい静けさ」が交じり合っている感覚なのかもしれません。

我が家の場合、年賀状を卒業してから年末の忙しさから一気に解放されました。おせち料理も基本は購入するようにし、数品を家族でつくるのみです。大掃除といっても、メインとなる窓拭きをする、掃除機の掃除をする、コンロとファンをきれいにする、以外はやりません。

締切りに向けたやるべきことも少ないため、焦ることもなければ、何かを来年に持ち越すこともありません。その結果、こうした複雑な感情にさいなまれることもなくなり、年末感や年末らしさを感じなくなったのかもしれません。

ここで思い出されるのは、夏休みの最終日です。

あの日の「夏らしいことをやってこなかった自分自身への恨みと、まだ今日を楽しめば挽回できそうな希望。しかし、宿題や課題に取り組まなければならず、それも叶うことはない絶望」は、年末のそれに近しいように感じられます。

こうして考えてみると、締切り効果の偉大さと共に、人間の愚かしさと可愛らしさを感じざるをえません……。

皆さんにとって、年末感とは何でしょうか?

答えもないし、なんの役にも立たないわけですが、こうした社会全体が感じ取る共通感覚について思いを馳せることは、頭の体操にもなりますし、マーケティング視点を獲得する訓練にもなると思います。このnoteおよび日経COMEMOでは、僕の仮説について書いてみました。

年末を越えて、来年が皆さんと、皆さんの大切なひとにとって、平和な年になることを心から願っています。

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