道標(みちしるべ)の往く方に 就活編
私は道標(みちしるべ)と申します。
迷いが多い世の中で人々の道標となる為にそう名乗っています。
いつでも私は老若男女問わずに誰かの道標となります。
今回、私、道標を求める迷走者様は、、、。
御先 真倉~おさき まくら~(31)ニート
「あぁだめだぁ!内定が全く取れねぇわ!!」
夕日が沈みかけている公園のベンチでため息と同時に愚痴が吐き出される。
俺は御先真倉。
先日見事に会社からリストラ通告を受けた。
例のウィルスのせいで会社は傾き、自分を雇う余裕も無くなったらしい。
今は次の職探しに奔走する毎日だ。
「ブラック企業に入りたくないから選り好みしてたけどスキルも何もない俺を雇ってくれるならもうなんだっていいか、、、。」
『そんなにお若いのにあきらめムードでどうするのです?』
「うわ!!!誰だあんた!?」
いつの間にか真横に座っていたその男は間髪入れずに演説を始める。
『今は大不況。
そんな生き残ることだけ考えたい状況で企業はむやみやたらに新しい人材を入社させて教育したりする余裕はありません。
できればピチピチの新卒か即戦力の人材を選んで採用したいのは当然のことなのです。
そんな中であなたは生き残らなければならないのに背中を丸めている場合ですか?』
その男の分かり切っている説教に俺はイラッとした。
「そんな当たり前の事言われなくてもわかってるよ!!
でもスキルもなければ年齢も30歳過ぎているんだ!!」
『ならスキルをお付けなさいな。』
「そんな簡単にできるわけないだろ?」
『あなたがやる気になればなんだって可能です。
何なら良い教材をご紹介させていただきましょうか?』
「あっ?分かった!
あんたそう言って変な教材売りつける為の営業してるんだろ!?」
『いえいえそんなことございませんよ?
私はあなたの道標(みちしるべ)になりたいのです。』
「みちしるべ?」
『はい!あっ申し遅れましたが私【道標】と申します。』
「...ふざけてんの?」
『いえいえふざけてなんていませんよ。
道標という名前なのです。
珍しいでしょ?
それであなたにおすすめのスキルですが、プログラミングなんていかがでしょうか?』
「プログラミング?」
『そうです。
プログラミングはIT業界に入る為の必須スキル。
そしてIT業界は今後も伸び続けると言われている人気の職種なのです。』
「でもパソコンなんてネットぐらいしか見たことねぇよ。」
『大丈夫です。
ど素人からプログラマーになれる方法が今はたくさんあるのです。
無料で』
「そんなバカな!?」
~御先自宅~
俺は道標に言われた無料プログラミングサイトを開く
プロゲートはゲームのようにプログラミングを進める事が出来て楽しくプログラミングを学べるサイトだ。
サイト内で全て完結しているのでエディタやソフトをインストールする必要がなくサクサク学べる。
ドットインストールは毎回3分の解説動画を見ながらサクサクとプログラミングを学べるソフトだ。
こっちはエディタを用意する必要があるが本格的にプログラミングを自分で書くにはその方がいいしインストールの方法も調べればすぐにわかる。
より手軽でゲーム感覚でやるにはプロゲート
本格的に隙間時間を活用しながら学ぶにはドットインストール
こんな感覚で初めは選ぶのがいいだろう。
どちらも有料バージョンがあり、より本質的で本格的なプログラミングが学べる。
無料で両方試して自分に合った方を有料化にしよう。
どちらも1ヶ月1000円前後なので専門書を買うと思えば安いものだ。
俺はこの日からプログラミングを猛勉強した。
正直初めてあった男の助言を聞くなんて馬鹿なことなのかもしれないが、あの男の妙な説得力に俺は言いくるめられてしまった。
~1ヶ月後~
俺はまたあの公園でため息をつく
「やっぱHTMLとCSSができるぐらいじゃどこも雇ってくれないか...。」
『ポートフォリオってご存知です?』
「うわっ!?...って道標さん!!」
『プログラミング。しっかりと励んでいるみたいですねぇ。』
「そうなんです!初めは解説を見ながらでも何をやっているか全くわからなかったんです!
けどとにかく続けて進めてみた徐々にわかるようになってきてHTMLとCSSぐらいは少しコーディングできるようになりました!
これも道標さんのおかげです!」
『私は何もしておりませんよ。
御先さんがご自身で選ばれたのです。
御先さん自身で自分の未来を決めたから前に進んだのですよ。』
「そういっていただけると頑張った甲斐も出てきます!
ありがとうございました!
それとさっき言っていた「ぽーとふぉりお」って何ですか?」
『ポートフォリオ。
業界によって意味は変わりますが、プログラミング業界では履歴書よりも意味を持つその方の作品集みたいなものですな。』
「作品集?」
『そうです。
プログラミング業界ではその言語ができるかというより、その言語で何を作ったのか?が非常に重要となってくるのです。
画家だからすごいのではなくすごい作品を作る画家がすごいのです。』
「たっ確かに...。」
『そのためにプログラミング業界ではポートフォリオと呼ばれる作品集を出すのが一般的です。
御先さんのように言語ができますとだけ言われても誰も信用してくれません。』
「でもそんなの作ったことないですよ?」
『誰も御先さんに完璧なサイトやLP(ランディングページ)を作れなんて言いませんよ。
面接官が見ているのはその方の姿勢です。
どのぐらいやる気があってどのくらい手のかからない人材かを見ているのです。
自主的に勉強してポートフォリオを作ってくる未経験者なんてやる気に満ちあふれていて手もかからなさそうではないですか。』
「なっなるほど...。」
~御先自宅~
俺は道標さんの不思議な説得力に突き動かされ言われた通りにポートフォリオとプログラミングの勉強に取り組んだ。
まずはHTML CSSでLP(ランディングページ)を1週間かけて6枚ほど作ってみた。
LP(ランディングページ)とは簡単に言えばweb上のチラシのようなもので商品の説明やアピールしたいサービスについて記載するページだ。
「御先さんは手のかからない人材を欲しがるって言ってたな?
HTMLとCSSで何ができるんだろう?調べてみよう。」
俺はHTMLとCSSでできる事を探してみた。
どうやら簡単なHPであればHTMLとCSSだけでも作れるみたいだったので粗末な完成であったが何とか更に1週間ほどかけて自己紹介のHPを作ってみた。
更に調べていく中でコーディング模写というモノもあるみたいだ。
web上のページのコードは全て解析ツールで見ることができ、それを模写して提出するのも勉強になるし評価されるポートフォリオとして組み込めるらしい。
俺はこれで更に1週間程でHPの模写をしてみた。
~1週間後~
「やった!!やったぞ!!!内定がもらえた!!!」
面接官に自身の経緯とポートフォリオを見せて猛烈にアピールした所、雇ってくれる会社がやっと見つかったのだ。
『御先さんおめでとうございます。』
「あっ道標さん!!何から何までありがとうございました!!
これも道標さんのおかげですよ!」
『私は何もしてませんったら。
全部御先さんが選択されて勝ち取った成果ですよ。』
「いえ道標さんに会ってなければ内定はもらえませんでした!
これで私も未経験からプログラマーです!」
『それはちょっと違います。』
「えっ?」
『御先さん。
あなたは確かにプログラミング業界に足を踏み入れた。
しかしそれはゴールではなくスタートです。
あなたはプログラマーの知識がある未経験者でしかないのです。
それを肝に銘じて今後も今までと同じぐらい勉強して学び続ける事をしなければならないのです。
さもないと...。』
「さっ...さもないと?」
『...まぁそれは私の杞憂でしょう。
あなたが勉強し続けてさえいれば問題ないのですから。
老婆心ながらご忠告させて頂いただけです。』
「はぁ...。」
~1ヶ月後~
異業種で働くにはまず環境に適応することから始まる。
業界の常識やマナーそういったものに適応しつつ与えられた業務をこなさなければならない。
当然なれない作業も多いのでポカすることも多かった。
毎日の残業とミスの連発によるストレスで晩酌の時間が増えて勉強の時間が減った。
【『今後も今までと同じぐらい勉強して学び続ける事をしなければならないのです。』】
「うわっ!!!!!...気のせいか。」
変な罪悪感からか道標さんの声が聞こえた気がした...
~半年後~
あれからすっかりと仕事にも慣れ、職場にも馴染み楽しく仕事ができている。
給料は以前の職よりもほんの少しだけ増えた。
特殊スキルを会得しておいて本当に良かったと思う。
時間にも余裕が出来てきたので俺は今まで断っていた友人ともよく飲みに行くようになっていた。
そして心の余裕とお金にが出てきたからか女性とも縁が出来始めていた。
IT業界にいるというだけで結構みんな景気が良いと思っているみたいだ。
俺は自分の力で今の環境を作ったと豪語しIT業界にいるというプライドも生まれた。
何て幸せな生活だろうか!
『御先さん。』
「おぉ道標さん!お久しぶりですね!!
あれからずいぶんと生活も安定してきましたよ!」
『そのようですね。
しかし御先さん。
あなたお仕事の勉強はしなくてもよろしいのでしょうか?』
「うっ...まぁ道標さんには分からないと思いますがコネクションやコミュニケーションの為にも、こういうのは社会の勉強なんですよ。
プログラマーって言ったってコミュニケーションも必要な業種ですからね!
カタカタしているだけでは一流になれませんよ。」
『ほう、そうですか。
ずいぶんと楽しそうにお勉強なさっているのですねぇ。
プログラミングは常に発展していく技術ですから置いて行かれないように気を付けてくださいね。』
「いっ言われなくても...。」
『なら問題ありません。
勉強を疎かにすればそれは結果として返ってきます。
以前あなたが成果を出したように過ちの結果として必ず精算しなければならないのです。
いいですね?忠告はしましたよ?
それ以降はあなたが選んだ道となります。』
「はっはぁ...。」
道標さんはそういって釘を刺していつの間にかいなくなっていた。
~一年後~
おい!御先!!
コラ!!御先!!
まだか!!御先ぃ!!
御先と名前が呼ばれる度に心がひび割れていく感覚に毎日襲われる。
あれからほとんど勉強をしなくなり𠮟られる回数も増えていた。
もちろん仕事で手を抜いた事はない。
単純に置いて行かれているのだ。
手法に…
技術に…
後輩に…
そして給料は変わらない。
昇給はあるものの俺の一番の稼ぎ口は残業となった。
誰よりも仕事をしていた俺は誰よりも仕事が遅くなる。
誰よりも仕事をしていた俺は誰よりも成果を出していない。
完全にお荷物だ。
もうじき心が割れるのだと予見している
『御先さん』
「道標さん…。」
俺は道標さんをどこかで頼ったのかもしれない。
例のあの場所へ来ていた。
『あれほど言ったのに仕方のない人ですねぇ。』
「道標さん...私はこれからどうしたら…。」
『残念ながらあなたは進んでしまいました。
それもあなたの選択した道なのです。
もう後戻りはできません。』
「そんな…。お願いします!!なんでも...なんでもしますから!!!」
『...その心意気があと1年早ければあなたは全く違う道を進んでいたのでしょうね。』
「道標さん!!みちしるべさあああああん!!!!!」
『あなたの道は決まりました。
あとは真っ直ぐお進みください。』
~???~
カタカタ
「へ…へへ...へへへへ...。」
カタカタ
「へへへへ」
カタカタ
「heheheheheheheh」
カタ
「he」
『先生、御先さんの様子はどうですかねぇ?』
「あぁやって四六時中キーボードをカタカタ押しているよ。
なんでも前職でプログラミング?って言うの?
そういう仕事していたみたいなんだけどいきなり【言葉が理解できなくなった】みたいで意思の疎通ができなくなったんだ。
原因もわからないし、今はキーボードだけ与えていればああやって大人しくなるからしばらくはこのままだね。」
『そうですか...。
それでは引き続きよろしくお願いいたします。』
~エピローグ~
『技術の進歩は非常に早く人はそれにしがみつくので精一杯。
毎日最新の情報を入れ替えをしなければ人は世の中に追いつけなくなりました。
人を豊かにするはずの技術が人を縛る結果となるのは皮肉なものですねぇ。
御先さんもそう考えるとあぁやって情報の波から逃れられたのは幸せだったかもしれません。
ただプログラミング言語の勉強をしなくなっただけなのに人間の言語にまで置いて行かれてしまうなんてちょっと勉強しなさすぎではないでしょうか?
まぁそれもあの人の道標に沿った生き方なのでしょう。
それでは私も向かいましょうか、道標(みちしるべ)の往く方に。』