『髪がなくてもある』オジサン理髪店の秘技。
うちの父上は禿げている。
残念ながら禿げている。
どんな風に禿げているかというと、サザエさんのところの波平さんのような髪型である。正確に言うと波平さんほどサイドも残っていない。
頭頂部は、接写レンズくらいにまで近づいて拡大すると、うっすらと産毛らしきものが生えている。
その父上が散髪に行くというと、まず、母上がツッコミを入れる。
「え? どこ切るの?」
いやいや、ほんまにすごいですよね。
うちの父上じゃなくて理髪店さんが。
どっこも切るとこないお客さんが、たぶん、うちの父上だけじゃないそういうお客さんが、いつやって来るやもしれない確率が、日本全国に広がってるわけですよ。理髪店において。
そんなお客さんが来ても、眉ひとつ動かさず「らっしゃい!」って元気よくお迎えせねばならないんですよ。すごい。
私やったら1日でクビやわ。笑いを堪えられなくて。いや、父上が来た場合だけですよ。なんで身内ってこんなに面白いんですかね。
種明かしをすると、うちの父上曰く「髭をあたってもらうんや」と申しますので、何もすることが無い、という事態にはならないようです。
さぁ、まずその第一難関をクリアして、次。
理髪店は美容室と違って刃物を使いますからね。
しかも、お髭を当たりますから、頸部動脈あたりもゾリゾリやるわけですよ。
こうなるともうお互い命懸けです。行くほうも、やるほうも。同意書もなしに昼日中から、よくもまぁそんな物騒な、って話しですわ。
そりゃー、玄関先に赤と青と白の3色くるくるポールを回すハズです。動脈、静脈、包帯を表し世間に知らしめているのも頷けます。
そんな父上もどんどん高齢になり、先日、散髪に出かけた際に帰りが遅かったので、心配になってこっそり覗きに行ったんですよ。
高齢になると、色々と心配事が増えるんですが、まず第一に、道中でひっくり返ってないか。これベスト1です。うち、心臓が悪いんでね。
その次がまたややこしい。
店主がこれまた更に高齢なんですよ。
父上の行きつけの理髪店は町内にあって、歩いて10分ほどで行かれるのと、新しく他に探すのが面倒なのとで、町内の老人たちの熱い声により、一旦お店を閉めた店主がしぶしぶ体調のよい時だけ、1日にお一人さま限りという狭き門をくぐっての栄光の椅子が待っているのだ。
この日は予約の電話からして怪しかった。
どうやら店主が留守のようで、代わりに奥様が出てらしたようなのだが、父上の予約が一向に通じない。10分くらい大声で話している。
なんで?長すぎひん?世間話ちゃうで。
どこをどうパスを通してゴールしたのか、凡人の私には分かり兼ねるところが誠に口惜しいところですが、14時の予約で、父上はてくてく理髪店にお出かけになりました。
ところが、待てど暮せどお帰りになる気配がない。
なんで?
切るとこないのに。
まさか…! 店主の具合が悪くなって救急車で病院に付き添っているとか…?! 電話口の奥様のご様子もややこしかったから、奥様の可能性も、ある。
妄想が広がりだすと心配になって、こっそり理髪店に偵察に行ったんです。
昭和の香り漂う色ガラスの扉からは、薄暗い店内が見えない。
もうちょっと、もうちょっとと扉に吸い付いていると店主に見つかり、中へ招き入れられた。
過保護って思われたかな、、って気にしながら挨拶をすると「もう終わりますからね」ってニッコリした後、店主はドライヤーを取り出し、父の頭頂部にあて始めたのです。
鏡越しに談笑する、店主と父上。
どっちも気づいていない。
なんで?
どこにあててるん?
無いで、髪の毛。
そのまま、お会計を済ませて「また来月もよろしくお願いします」と感じの良い娘のふりをして店主とサヨナラをして、父上にも無礼のないようにと家につくまで談笑をしながら頑張った。
あともうちょっと、笑ったらあかん、笑ったら。
母上とこの面白さを共有するまでもうちょっと、あの電信柱まで…
と、実家に着くと父上に聞こえないところで、二つ折れになって2人でヒーヒー笑い倒して気がついた。
「ドライヤーは料金に入ってるんやな」
◇おしまい◇
お読み頂き、ありがとうございました!
今日で全男性を敵に回してしまったかなー。
いやー、今日はまた勝負の日だったのです、西尾さんとこの共同マガジンに参戦ですから生半可なことできませんやん?
合格出るかな〜
\共同運営マガジンのメンバー募集中/
🌷わたしの自己紹介🌷
【自己紹介】新天地へようこそ!
🌷目次一覧です🌷
サイトマップができました!全記事リンクによる一覧です。