②JR北海道の中期経営計画について:苗穂工場の移転構想・北海道新幹線の高速化構想・水素電車の導入構想
|JR北海道「中期経営計画」以降の事業構想について|
JR北海道から先日公開された「JR北海道グループ 中期経営計画 2026」から、その資料内にある「中期経営計画以降に構想されている事業」の中から2回に分けて解説しております。
第2回となる今回は「苗穂工場の移転orリニューアル」・「北海道新幹線の想定最高速度の引き上げ」・「水素電車の導入」の豪華3本立てでお送りします。
その他の事業構想や、2026年度までの事業内容・今年度の事業計画は、③以降で解説しようと思います。
┆事業構想②:苗穂工場の移転orリニューアル┆
苗穂工場は、札幌駅の1つお隣にある「苗穂駅」に隣接している、車両の整備・検査・改造などを行う車両工場です。かつては車体の製造も行っていました。
また、車両を留め置くための巨大な車両基地(苗穂運転所)も隣接しています。
苗穂工場による車両の改造技術は、鉄道ファンであれば誰もが知るほどのハイレベルなものでしたが、近年は移転やリニューアルの構想が一部の媒体にて報道されていました。そんな中、公式の事業構想として今回発表された形になります。
資料には「苗穂工場敷地:工場のリニューアル(全面移転または現位置リニューアル)に合わせて生み出される用地を活用した開発」とあります。どちらかと言えば主題は北海道新幹線の延伸に合わせた(5-5地区や鉄東地区も含めた)JR北海道の札幌近辺の土地の再開発のようです。
┆考察②:全面移転なら…「“北日本最大級”の跡地」が候補?┆
現位置(苗穂)でのリニューアルとなった場合、再開発用の土地の捻出が優先事項になりそうです。工場の建て替えなどのリニューアルにより効率化を図って用地を捻出する形になるでしょうか。
一方で全面移転となった場合、注目されているのが岩見沢駅周辺の広大な空き地とソーラーパネル用地です。
今は緑が生い茂り自然に還りつつある🟡の土地は、かつて岩見沢操車場として貨車の入れ替えを行っていた土地です。
1926年に開業した岩見沢操車場は、北日本最大級の操車場としてその名を轟かせ、2500両もの貨車を操る能力を持っていましたが、空知炭田の炭鉱の閉山に追われ、1980年10月に廃止されてしまいました。その後も、操北ヤード構内の一部線路が撤去を免れ「岩北構内」として再利用されていましたが、1986年11月のダイヤ改正をもって廃止されています。以降38年間、この土地は注目を浴びることはありませんでした。
また、元岩見沢操車場に隣接し、現在はソーラーパネルが置かれている🔴の土地には、かつて岩見沢第二機関区(→空知運転所)がありました。
一時は多くの電気機関車・ディーゼル機関車が配置されていましたが、操車場の後を追うように、1994年11月に廃止されました。こちらもそれ以降25年もの間、放置されることとなります。
しかし2019年。元空知運転所にソーラーパネルを設置して太陽光発電事業をすることが発表され、2020年に稼働を開始しました。売電単価は20年間固定となっています。
2022年には「JR北海道グループ カーボンニュートラル2050」の資料内の取り組みにて苗穂工場のリニューアル(工場の建て替え)が明らかになります。また、新工場の屋根上には太陽光パネルを設置する計画であることも明かされました。
そして今回「苗穂工場の全面移転構想」の発表で「ここが選ばれるのでは?」との声が上がることとなりました。
実際のところ、岩見沢駅は「函館本線と室蘭本線の分岐駅」であり、札幌のように様々な方面から入線できることを踏まえても、岩見沢とする案は現実的なのではないでしょうか。
さらに、イメージ図を見ると、苗穂運転所の敷地には、再開発を示す光のような演出がかかっていません。
しかし、苗穂運転所の車両には共通点があります。函館本線の札幌以北のみを走る車両が多いということです。
ですので、再開発用の土地の捻出具合の変化によっては、岩見沢運転所の拡大など何らかの策を打ち、苗穂運転所から車両を転属させる可能性もありそうです。
┆事業構想+プチ考察③:北海道新幹線の想定最高速度の引き上げ┆
2030年度末の開業を目指している、新函館北斗〜札幌間で最高速度を320km/h→360km/hにスピードアップさせようという構想です。320km/hを想定して建設されているものの、更なるポテンシャルを引き出すため関係者と協力していくそうです。
「はやぶさ」こと E5系・H5系が活躍している北海道新幹線ですが、その裏で最高速度360km/hに対応している試験車両「ALFA-X(E956形)」の試験走行が行われています。そのため、札幌延伸時には “ALFA-Xの量産型” の導入が見込まれていました。この構想が上がるということは「360km/h対応の “ALFA-Xの量産型” 」の導入は既定路線で、あとは最高速度を引き上げるかどうかを問う…ということなのでしょう。
また、新幹線(最速260km/h)と貨物列車(110km/h)が共存している青函トンネルについて、新幹線による物流の拡大(&貨物列車との棲み分け等の検討)による高速化や物流の範囲拡大を目指すそうです。近年は「はこビュン」の強化で貨物にも力を入れてきているJR東日本の新幹線。貨物新幹線などの構想も上がっている中、これからどのように新幹線と貨物列車の共存を図っていくかが焦点になりそうです。
┆事業構想④:水素電車(燃料電池車両)の導入┆
オフィス・ホテル・駅・工場といったビルや鉄道設備の文字列が並ぶ「水素エネルギー等の活用」のページの中にやはりありました。
「水素を活用した燃料電池車両等への置き換えの検討」の文字列。
というのも、先述した「JR北海道グループ カーボンニュートラル2050」の資料内で、水素電車・水素バスへの置き換え案が既に示されていました。
H100形を置き換える(2両編成の?)車両になるようです。
H100形は、ディーゼルエンジンの動力で発電した電力で主電動機を動かす「電気式気動車」で、新潟や秋田で活躍しているJR東日本のGV-E400系の コピペ兄弟車です。
99両が導入され、キハ40形を置き換え、性能の向上によりスピードアップにも貢献し、現在はニセコ・網走・名寄・釧路など、道内各地の普通列車で見たり乗ったりすることができます。
キハ40形を2025年3月のダイヤ改正までに(「山紫」・「水明」・「恵み」シリーズ4両の計6両を除いて)全て置き換えるため、2024年度も(最後の4両の)製造が予定されていますが、その資料内の年表には驚きの記載が…
なんと2030年度までに水素電車の試験を行い、2030年代には推進・2040年代には定着させようと言うのです、これには驚きました。この段階でまだH100形の車齢は20年程度(キハ40形は40年近く生き残った車両も居る)、かつ現在も製造中なのにも関わらず、““既に時期を含めた置き換え計画がうっすらと浮上しているのです””。
H100形の置き換えに触れる前に、まずは水素電車の説明から。
水素電車(水素を活用した燃料電池車両)は、屋根上にある水素貯蔵ユニットから高圧水素を燃料電池装置へ供給し、空気中の酸素と化学反応することで発電した電力で動く仕組みになっています。
H100形と同じく、この構想もJR東日本 をパクった に倣ったもので、JR東日本では「FV-E991系」という試験車両が、神奈川県の鶴見線で試験走行を行っています。2030年度の量産導入を目指していて、実現すればディーゼルカーを置き換えるそうです(#)。また、北海道版の車両は耐寒耐雪対応の設計に変更するため、導入には更に数年ほど時間がかかるでしょう。
┆考察④:電気式気動車は「過渡期の産物」?┆
そうなると、北海道への水素電車の量産導入開始は2030年代後半になるでしょうか。
それではここで、既存のディーゼルカー達のラインナップを見てみましょう。
北海道新幹線の札幌延伸(2030年度末?)により、函館本線のうち新函館北斗〜長万部間(キハ150形0番台が活躍)は旅客営業が、「山線」と呼ばれる小樽〜長万部間(H100形の99両中15両が活躍)は路線自体が廃止される可能性が極めて高いです。
また、留萌本線(深川〜石狩沼田間、キハ54形が活躍)も2026年3月末に廃止されます。函館本線の深川〜旭川間では留萌本線から乗り入れる列車(4924D〜4925D)が昼間に1往復ありますが、同区間で活躍する電車・737系の運用を見るに、太字部分の留置の時間を有効活用することで、737系へ置き換えることができそうです。
ただ、宗谷本線(うち名寄〜稚内間はH100形は未入線)と花咲線ではキハ54形が、室蘭本線や石勝線(+日高本線?)ではキハ150形が今後も活躍しそうです。果たして、山線用(苗穂運転所所属)のH100形15両の転用で淘汰できるのでしょうか…?
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というのも、H100形の製造両数は元々は127両の予定でした。しかし、2023年度の移動等円滑化取組計画書によると、99両に下方修正されたようで、95両を製造した段階で発表された例の資料では「取替が概ね終了した」と書かれています。仮にH100形以外の形式が残ることとなれば、まずはそちらが置き換え対象になりそうです。
ただ、兄弟車のGV-E400系も、新潟・秋田地区の63両のみで製造が打ち切られ、予定の150〜250両から大幅に製造数が減らされたり、労働組合から「燃料消費が激しく空調管理も難しい」と冬季の取り扱いの難しさを指摘されていたりしたことから、電気式自体「ある程度導入してから、実使用を経て、増備するのは避けることとした」と考察され、それは「電気式気動車が少数に終わるかもしれない」可能性を暗示しています。
JR東日本は水素電車のほか、ハイブリッド車両や蓄電池電車への転換を図ることを発表しています。ですので、将来的に電気式気動車が「過渡期の産物」と位置付けられれば、H100形も早いうちに置き換えの方向に進んでしまうのかもしれません。
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