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TABOO 第3話

ゴブと祐輔は、骨董品店の前に辿り着いた。

確かにさっきのヘッドフォンの男は、店の中に入ったようだ。

骨董品店だけあってか店の造りも古く、引き戸だ。
曇りガラスで中の様子は良く見えない。


「中に入るのか?」
祐輔はゴブに尋ねる。

「あぁ、迷惑かけてねぇか見ないと…」

ガラッ

ゴブが言いかけると戸が開き、中から金髪の男が出てきた。

「あの~、なんすか?」

箒を持っている。店員なのか。
ヘッドフォンの男よりもよっぽど金髪の方がこの店に合わないような気もするが。

「店員さんすか?ヘッドフォンの男、店に入りましたよね」
ゴブが話しかける。

「バイトっすね」
見た目通り軽い感じだ。
こういう店ってバイト雇うんだな…

「ヘッドフォンの方は、今ちょうどなんか買ってるんじゃないっすかね」

ガラッ

金髪のバイトがそう言い終わらないうちに、なんとヘッドフォンの男がもう店から出てきた。
鉢合わせだ。

「あ…」

ゴブはそう言いかけて、ヘッドフォンの男もこっちを見たようにも見えたが、サングラスをかけているため目線はよくわからない。

「ありがとうございました~」

金髪のバイトがそう言い、ゴブたちも見送る。
ヘッドフォンの男は、さっきは持っていなかった紙袋を持っている。
何か買ったのだろうか。


ゴブはというと、唇を噛みしめている。

「何も言わないのか?」

祐輔が尋ねると、

「だって別に、店の中で迷惑はかけてないみたいだしよ…」

筋は通っている。

ただ、「迷惑をかけそう」という自分の予想が外れて少し悔しいのだろう。


「あんな人がこの店でなんか買うもんあるんすかね?」

ゴブはただ帰るわけにもいかなくなったのか、金髪のバイトに尋ねる。

「さぁ、どうっすかね。
最近うちは骨董品だけじゃなくて普通の食器も置いてますからね。
そうじゃないと売り上げが厳しくて」

金髪君も意外と真面目に店の事を考えているようだ。

「店長さん?お爺さん?に直接聞いてみたら、何買ったか」

祐輔はゴブに提案してみるが、金髪が店の中をのぞき、

「あ~、店長はレジっすけど、今はもう奥に引っ込んじゃってますね~」

「まぁじゃあ、呼び出して聞くほどでもないか…」

ゴブもそこまでこだわるわけではないので、諦めざるを得ない。

祐輔も奥のレジの方をのぞいてみる。

なんとも言えない重厚な雰囲気があった。


「お兄さんもおひとつどうすか?
ただの食器でも、なかなか味がありますよ~」

帰り際に金髪がゴブに声をかけるが、

「自炊しないんで!」
と意味不明な返事でゴブたちは店を後にした。


ゴブが敢えて店の前に長居しなかったのは、まだ遠くにヘッドフォンの男の姿が見えていたからだった。

「尾行するのか?」

祐輔は尋ねる。

「あぁ」
ゴブはやる気満々だ。

「あれで普通に買い物するって、ほとんど音楽聞いてないだろ…
ますます怪しいぜ」

「けど、素人が尾行なんてしてもすぐにバレるんじゃ…」

「そこは俺の能力よ」
ゴブが指を鳴らす。


確かに、ゴブの能力なら…!

「けど、狙って聞けるんだったか?」

祐輔が聞くと、ゴブはもう集中し始めている。

「雑多な音は混ざるが、この距離なら…!」

「聞こえたら俺にも教えてくれよ?」

「わかったから集中させろ!!」

祐輔は口を押さえる。


「あっ」
ゴブがつぶやく。
祐輔は声を出さず視線だけ向ける。

『さっきのガキ、なんだったんだ?なんか後をつけてるみたいだったが…』

ゴブがまずい、という顔をしながら、だが芝居じみた声を出す。
ヘッドフォンの男の心の声を演じているのだろう。

5秒で聞こえる範囲というと、せいぜいこれくらいだ。

「もう1回!」
祐輔は楽しくなってきてしまった。

「うるせぇ!」
ゴブはまた集中し始める。

『…だが、もうついて来てねぇみたいだな』

ゴブが安心した顔でもう一度喋る。


「だが、逆に言うとこっちも見失うリスクがあるってことだ!」

ゴブが今度は本心からの声で、慌てて歩を早める。

心を読みながら尾行するのは、難しい。
だが相手は、一旦警戒は解いたようだ。


上手い具合に気付かれず、町はずれの駐車場に着いた。

ゴブと祐輔は距離を取りながら高台でヘッドフォンの男を見ている。

男はバイクに乗るようだ。

ヘルメットを被るため、ヘッドフォンを外す。


…!!


片方の耳たぶが…ない!!


ゴブと祐輔は顔を見合わせる。


「ヒサさんに連絡だ!!」




ヒサさんに連絡を取った後、祐輔たちは高台の道を通りながら、バイクと並走した。

「あれはやっぱ、例の片耳集団の一員なのか?」

祐輔は走りながらゴブに尋ねる。

「あの見た目は、そうだろ! 俺も実際には見たことねぇけど」

ゴブが答え終わるとほぼ同時に、後ろから轟音と共にヒサさんが乗る車が到着した。

「お前ら、電話で言ってた男は見失ってないな? ひとまず乗れ、追うぞ!」

ヒサさんは追跡する際に相手に警戒されることを考えてか、
パトカーではなく普通車で駆けつけていた。


「あの赤いバイクか。ちょっと距離はあるが、この先の坂を下ればあそこの道には合流できるぜ」

ヒサさんが運転する車の後部座席に、祐輔とゴブは乗っている。

スポーツカーなどではなく普通車だが、かなりのスピードが出ていた。

ヒサさん、走り屋だろうか。

こんなにスピードが出ていてはバイクの男に気付かれるのでは?と
心配したが、そこはさすが警察官、同じ道に合流する頃にはある程度の
スピードに落ち着いていた。


3人が乗った車はバイクと同じ道に合流し、充分に距離を取って尾行を続けた。

「この道、このまま行くと山道じゃないか?」

ゴブがヒサさんに尋ねる。

「そうだよく知ってるな。どういうつもりか知らないが山の方に向かってる。アジトでもあるのか?」

ヒサさんは疑問を口にしながらも、しめた、というような顔をしている。

「アジトを突き止めたりしたら、かなりデカいんじゃないか?!」

ゴブは興奮した声を上げる。

「あぁ、そうだな。一本道なら捕まえる方法もあるしな」

「お!ヒサさんの能力か?!」

「まぁあれはホントに気を付けないと使えんな」


2人の会話の中に『能力』という言葉が出てきた。

例の耳たぶ能力を、やはりヒサさんも持っているというわけか。

片耳能力集団に対抗する警察の組織なら、特殊能力を持っていても不思議はないか。

祐輔が能力の事をヒサさんに聞こうと口を開こうとした時、

「ヒサさんの能力はな、そりゃビビるぜ」

喋りたがりのゴブが、やはり口を開いた。

「こらこら、あんまり軽く喋るもんじゃない、それより、
そろそろ山道に入ってくるぜ、カーブに気をつけろ」

ヒサさんに制止されてしまい、
(やっぱそんな軽々しくは喋れないよな)
と祐輔は思うのであった。


だいぶ陽も落ちて、山道ということもあり辺りはだいぶ暗くなってきた。

今日は色々なことがあり過ぎた…

祐輔は疲れてきていた。


「…まずいな、これだけ走ってる車が少なくなると、
さすがにこの距離でもあっちに気付かれそうだ」

確かにヒサさんが言うように、片耳男のバイクとこちらの車くらいしか、
もう同じ道を走っていない。


大きなカーブに差し掛かり、曲がりながら男がチラッとこちらに目を向けた気がした。


直後、男の乗るバイクはたちまちスピードを上げた。


「…ちっ!やっぱ気付かれたか。まぁ時間の問題だったな。追うぞ!」

ヒサさんも一気にギアを上げる。


時折すれ違う対向車のドライバーは、皆驚いたような顔をしている。

バイクのスピードもなかなかのもので、ヒサさんのスピードでも追いつかない。さながらカーチェイスだ。

「今はまだちらほら車もいるが、この先のトンネルを抜ければほとんど車もいなくなるだろ。そしたら捕まえるチャンスもあるかもな」

ヒサさんが言うと、

「お!ついに能力のお披露目か?!」

ゴブが喜んだような声を上げる。

「能力もリスクってもんを考えないとな」

「ヒサさんがいつも言ってるジョーさんの言葉だな」

「あぁ、モユルもいつも頭を悩ましてる」


2人の会話の中に出てくるジョーさん、モユルという名前も警察関係者なのだろうか。
祐輔は訳が分からないがゴブは、あぁ~、というような相槌を打っている。


2台が走る道の先に、トンネルが見えてきた。

「よし!いよいよだな!」

なぜかゴブが気合いを入れている。

ヒサさんは微笑みながらも、やはりこちらも気合いを入れた表情で、アクセルを踏み込む。


男の乗るバイクが先にトンネルに入った。

後からこちらの車も追いかける。

なんだかトンネルの入り口が光っているような気がした。


「…このトンネル薄暗いせいか視界が悪いな。
全然前のバイク見えなくないか?!」

ゴブが苛立つように言う。

確かにトンネルの中は緩やかなカーブではあるものの、
それにしても前にいるであろうバイクは視界に捉えられない。

「あっちも捕まりたかないからスピードは出してんだろうなぁ。
やっぱ勝負はトンネル出てからかな?」

ヒサさんは首をコキコキと鳴らしながら言う。
余裕はありそうな表情だ。

「さぁ、もうすぐ出口だ」

カーブが終わり、トンネルの出口の光が見えてくる。



「……え?」


トンネルを抜けると真っ直ぐな道だったが、

バイクの姿がない。


「は?!そんなスピードのはずないよな?!
なんでいないんだ?!」

ゴブが叫ぶ間に、ヒサさんはすぐさま路肩に車を停め、
3人は車外に降りることにした。


辺りを見回すが、やはりバイクは見当たらない。


「はーーー?!なんでなんだよ!」
ゴブは地団太を踏んでいる。

ヒサさんは、
「やー参ったなぁ、やっぱ奴らただもんじゃないってことか?」
と頭を搔いている。

祐輔は胸騒ぎがしていた。

あの時と状況が似ている?!
と内心思っていた。

ビルで何者かを追っていたあの時、やはり突然姿が見えなくなった。


「…ヒサさん、なんだか俺トンネルに入る時変な感じがしたんです」


「ん?」
ヒサさんとゴブが同時にこちらを向く。

「ほー、君も今日一日色々あって、何か掴んだか」


ヒサさんがのニヤリとして言った。


「やっぱお前ら、明日警察署でまた会おうぜ」



第3話 完

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