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TABOO第1話

【あらすじ】
人間は誰しも耳たぶから1つだけ能力を引き出すことが出来る。
宝くじのようなワンチャンがある――――

主人公:加見祐輔
「神(カミ)」とか言われるけど全然ツイてない。

大学落ちて浪人中。18歳。
ゴブという妙な男に出会い、運も人生も変わっていく?


五分太一(ゴブ):人の心を「5秒だけ」読むことができる能力を持つ
能力の時間を延ばすために修行中!
ハゲてる人が耳たぶを引っ張ると能力に目覚める

ゴブの母:水を出す能力
ゴブの妹:他人の能力を補助的に具現化するサポート能力
ゴブの父:事故死

敵:片耳集団
  ⇒耳たぶから引き出す能力がパワーアップ

能力の使い道に葛藤しながら、様々な思いが交錯していく…


福耳って本当に運が良いんだろうか?
実のところよくわからないのではないか。

福耳は縁起が良いとされ、「福耳の人はお金持ちに成れる」、
「お金持ちには福耳の人が多い」と言われるが、
「卵が先か鶏が先か」理論ではないだろうか。

ただ、とある世界では
福耳だと特異なとんでもない能力が手に入り、
運命が好転するかもしれない・・・?!


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―――「あーあ、あり得ねぇよ」

加見祐輔はいつものように頭を抱えていた。

髪を掻き上げたその顔はそれなりに整っているが、
特別ハンサムなわけでもない。

加見(カミ)という名前故に友人からは「神(カミ)」などと揶揄されるが、この男は何かと運が悪い。

乗り物系の遅延にはしょっちゅう巻き込まれる。
乗る電車は大体混んでいる。
ただ、忘れ物はしたことがない。

彼女にはすぐフラれる。
特段本人の性格に問題があるわけではないのだが。
今までに彼女は3人いたが、全て3ヶ月以内でフラれた。
しかもどんどん期間が縮んでいる。
3ヶ月、2ヶ月、1ヶ月。
ただ、迷子になったことはない。
普通の人は迷子にならないし、彼女にフラれることと関係はないか。

ちなみに加見祐輔は18歳である。
今日は大学受験に落ちた。
受験番号は77番で、ようやく運が向いてきたか?と思ったが
単なる数字では運気は上向かなかった。

「てか合格の番号が69番の後いきなり80番って何なんだ…」
一目で落ちたってわかる絶望感。
今日は珍しく電車も空いてたっていうのに…

「不合格発表」後、ふらふらと歩くうちに、
祐輔は近くの繁華街に辿り着いていた。

大学の最寄りの繁華街ということで、
祐輔が思い描いていたバラ色のキャンパスライフの中には、
この繫華街で遊び歩くことも含まれていただろう。

あ~、もういっそ、ピアスでも開けにいくかな。

祐輔は半ばヤケクソ気味でそう思い、歩みを進めていた。

「それって、勿体なくないか?」


ん?

「そこの兄ちゃん、ピアス開けるなんて勿体なくないかって言ってるんだ」

俺に話しかけてるのか?

振り返ると、自分より少し年上と思われる男が立っていた。
髪も少し立っている。

「俺?」
「そう」

「何が勿体ないって?」
「ピアスを開けることだよ、耳にだろ?」

なんだ?
ピアス開けるかってヤケで思ったけど、何が勿体ないかもわけわからんし。

しかもなんでこいつにわかったんだ?

「わけがわからんって顔してるな」

「俺、心が読めるから」


「は?」

「少しだけだけどな」

何言ってんだこいつ?
髪がアンテナみたいに立ってるしそれで感じるってのか?

「おいおい、誰がアンテナだよ」

「アンテナって…」
「だから俺は心が読めるって言ったろ」
「マジなのか?」
「マジだって」

「じゃあ、俺の名前とか、俺の好きな物とかもわかるのか?」

男は首を横に振る。
「いや、それは今お前が考えてることじゃないだろ。無理だ。俺は完全なエスパーじゃないんだ」

「え、そうなのか」
「少しだけって言ったろ」

ここで祐輔は疑問に思う。
「それは生まれつきなのか?」

「いや」
男は自分の耳を指さした。
「俺、福耳じゃんか」

は?
一瞬時が止まる。

「あぁ、唐突だったな」
「耳たぶから特殊な能力が得られるんだぜ」
男は追加で説明したようだが、相変わらず意味がわからない。


その男によると、どうやら彼の爺ちゃんが『耳たぶから特殊な能力を引き出す』というこれまた特殊な能力の持ち主であり、彼は爺ちゃんによって『少しだけ人の心が読める』という能力を身に付けたようだ。


「これもなんかの縁だ、お前も俺の爺ちゃんに能力を引き出して貰えよ!」
「ピアス開けるとかで耳たぶを傷つけちまうと、もう能力は得られなくなるんだ」

男は言う。

それで、ピアス開けるのが勿体ないってことね。


祐輔と男は彼の家、爺ちゃんの所へ行くこととした。

「ところで、あんたの名前は?」

祐輔は思い出したように聞いてみる。

「ん?ごぶ太一だよ」

「ごぶ?どういう字?」

「一寸の虫にも五分の魂、のごぶだよ」

「あー、時間の5分と一緒か?」

「まぁ、そうだな」

五分太一は少し不満そうに言う。
『一寸の虫にも五分の魂』という諺が、好きなのかもしれない。

「そっちの方こそ、名前は?」
当然祐輔も名前を聞かれる。

「あ…カミゆうすけって言います」
「カミ!カミってあの神か?!縁起のいい名前だこと」

「いや…あの神じゃないし。加えるに見る。
しかも良いことなんてほとんどねぇよ」

「そういえばお前、なんか悪いことでもあったのか?ヤケ起こしてるみたいだったし」

「いやそれは…」
―――助けて…
「ちょっと静かに!!」

突然ゴブが叫んだので、祐輔は面食らった。

「何だよ急に?!」

「今、助けてって聞こえたんだ」
ゴブは辺りを探るように言う。

「聞こえたか…?あぁ心を読むってやつか」
「けど、心の声なんてそこら中から聞こえるんじゃないのか?」
仕組みが全くわからない祐輔は、矢継ぎ早に質問する。

「けど今のは子供の声だったんだ。子供が助けてって言ってるのはほっとけないだろ」

ゴブは結構いいやつのようだ。

「あっちの方だな」
ゴブは声がしたと思われる方に向かっていく。

「方角までわかるのか?」
祐輔は感心する。

「俺は耳もいいんだ!福耳だからな!」

関係あるのか?


しばらく歩いて二人は、古びた廃ビルに辿り着いた。
「それほどデカくないが、いかにもって感じだな…」
二人共が思わずそう声に出してしまうような、それ程の古いビルだった。

「ホントにここなのか?」
祐輔は尋ねる。
「というか、ずっとその子供の声を聞いてればいいんじゃないのか?そうすればもう少し手がかりが…」

「俺は、5秒しか人の心は読めないんだ」

「へ?」

「5秒?それだけなのか?
待って、五分なのに、5分じゃなくて5秒??」
祐輔の顔は既にニヤついていた。

対してゴブは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「完全に心が読めたら、もう反則だろうが」
何が反則なのかはよくわからないが、ゴブはボソッと言った。

「まぁ~でも少しでも心が読めたらうらやましいよな」
祐輔はそう言いながらもニヤニヤが止まらなかったが、なんとも無しに
ビルの上の方を見上げると、1つの窓から煙が出ているのが見えた。

「おい、あれ!」

どうやら笑っている場合ではなさそうだ。

「1番上だな!4階建てか?!」
二人はビルの階段を駆け上がる。

「また助けてって聞こえるぞ!子供は2人だ!」
ゴブの頼りになる情報。

「あそこだ!」

隙間から煙の出ているドアを見つけたが、上手く開かない。

ノブは回るのだが、ドアが開く手応えがない。ガタガタ動くだけだ。

「なんだこれ?なんか変だぞこのドア!」

「もう壊して開けちまうか?!」

祐輔とゴブの2人でドアを蹴破り、部屋に入った。


部屋の中ではお爺さんと、男の子と女の子の子供2人が…

壁に貼り付いている?

より詳しく言うと、壁に貼りいている様子の3人の表面には
さらに布のようなものが貼り付いており、壁に固定されているように見える。

そして部屋の奥にある箱の中身が燃えている。

「消火器!あるか?!」


幸い下の階に消火器があり、火は消し止められた。

ドアには鍵はかかっていなかったものの、完全に閉まっている様子だったため、長時間となれば一酸化炭素中毒などで危なかっただろう。

祐輔とゴブは3人を解放するために近付いていった。

「なんだこれ?本当にただの布じゃねぇか」

「これが貼り付いてて苦しい感じですか?」

祐輔が3人に聞くと、3人とも首を横に振る。

どうやらキツく押し付けられているわけではないようだ。

実際に布も3人もある程度強く引っ張ると壁から離れた。

ただ、特に接着剤のようなものでくっついていたわけではなく、奇妙な感じだ。



「もう大丈夫だ!何があった?」

ゴブが男の子に聞くと、男の子ははまだかなり怯えた顔をしている。

「どうした?」

「爆弾…」

横の女の子が言った。

「何だって?」

「ば、爆弾が、あの箱の中にも小さな爆弾があって爆発したんです!」

激しく咳込んでから、ようやくお爺さんが話し出した。

「2人の男に私たちは監禁されて、閉じ込められてからしばらくして箱の中の爆弾が爆発したらしく燃え出したんです」

ゴブと祐輔も突然の事態に混乱していたが、祐輔が尋ねる。
「あの箱の中にも、ってのは?」

「もう一つビルの中に爆弾があるんだ!!」

男の子が思い切ったように声を出した。

「何?!」

「2人の男がいなくなる前にそんなことを言ってた」
「1時間後には爆発するって」

「そ、それはどんくらい前の時点の話なんだ?」
ゴブもかなり焦っている。

「兄ちゃんが来たのが30分後くらいだから…」

「あと30分もないってことじゃねぇか!とにかく逃げるぞ!」


5人はひとまずビルの外に退避した。
お爺さんと子供たちの3人は祖父と孫のようだ。
3人でお出かけしていて、拉致されたとのこと。なんとも運が悪い。
祐輔は、自分もツイてない方だが、同情した。

「どうする?警察呼ぶか?」
ゴブに尋ねる。

「そうだな、けど時間もねぇし、呼ぶだけ呼んで
爆弾は俺達でもう探し始めよう」

意外と言っては失礼だが、ゴブは正義感が強いようだ。

「無茶じゃないか?」
正直祐輔はビビっている。

「いや、箱の燃え方も大したことなかったし、そこまでの爆弾じゃないだろ…ちょっと思い当たる節もあるんだ」

どこからくる自信かもよくわからないが、特殊能力を持つ変人のツテでもあるのか。
「危なくなったら、すぐ逃げるぜ?」
祐輔も渋々協力することにした。


「爆弾探す前に、1つ試してみよう」

ゴブが言った。

「祐輔、この爺さんに耳たぶ引っ張ってもらえ」

またこいつは何を言い出すのか。
お爺ちゃんも怪訝そうな顔をしている。
ゴブは構わず続ける。

「この爺さんはハゲてるだろ。ハゲてる人は、他人の耳たぶから能力を覚醒させることに長けてるんだよ。髪が抜けてるから、能力も抜きやすいっていうのか?ハゲてるけどそんなことできるなら、プラマイゼロって感じだよな!」


え…?

そういう仕組みなの?!


こんな時にゴブのテンションはよくわからないし、
お爺さんもかなり躊躇っていたが、耳たぶを引っ張ってもらってから、
2人でビルに突入した。

お爺さんたちには、警察への連絡もお願いしてしまった。色々すみません。


「両耳引っ張られたしかなり痛い…
で、俺はどんな能力に目覚めたんだよ!」

階段を駆け上がりながらゴブに尋ねる。

「それはわからん」
「は?」

「どんな能力を引き出したか、引き出されたかはわからないんだ」
「手練れの爺ちゃんになるとどんな能力を引き出したかわかる人もいるって聞くんだが…」

また内部事情のような話をゴブは始める。

「じゃあゴブはどうやって自分の能力が…」

「だって俺は、なんか聞こえたから、割とわかりやすかったんだよ」

「確かにそうか、うらやましい…」

「俺はツイてるんだ、福耳だからな!」

アホらしくて、祐輔は即答する。
「さっさと探すぞ!」


一体、俺は何の能力なんだ?!
祐輔は壁を蹴飛ばしたり殴ったり、手あたり次第の方法で探し回った。


ビルの下には、警察の爆弾処理班が到着したらしい。
あとは早く爆弾を見つけなければ…!

祐輔たちは改めて4階に上がり、4階から下の階に降りながら爆弾を探している。
警察は下から探してくれているようだ。
それ程の階数ではないが、意外と部屋数が多く苦戦していた。

3階の各部屋を見ていく。
他の部屋のドアは、お爺さんたち3人が閉じ込められていた部屋のような違和感はなかった。
「やっぱりあの部屋のドアだけ変だったな…」

祐輔はそう考えながらも、
「いやそれより早く爆弾を見つけないと…!」
段々と焦りが増していく。

同じく3階を探していたゴブと合流した。
「お互い端っこから見てったから、ここが最後だな?!」
ゴブの体力はまだ有り余っていそうだ。

「この部屋はデカそうだぜ」

勢い良くドアを開けると…

大量の箱が積み上がっていた。
明らかに他の部屋と違う。

「うおっ……!!」

この中に爆弾があるのだろう。
雰囲気が違う。

犯人たちが用意したのか、元々この部屋にあったのか、
とにかく箱が多すぎる。
まさしく山のような箱だ。

「カモフラージュってか?!
とにかくしらみつぶしに探すしかねぇ!」
ゴブは凄い勢いで箱を開けていく。

「爆弾に衝撃を与えないように探せよ!」
祐輔はそう言いながらも、やはり焦っている。

「これじゃ爆弾が大したことないって言っても、周りの箱に燃え移ったらそれも大惨事だろ…」
「そもそも、もし近くで爆発したら即死じゃ…?!」

色々なことが頭を巡り、
祐輔が焦りでおかしくなりそうになった時、
隣の箱の山がわずかに光っているような気がした。

「おい、あそこの箱の山、なんか光ってる気がしないか?」
ゴブに聞いてみる。

「あ?!何?光ってるとか全然わかんねぇよ!
無駄口叩いてないでさっさと探せ!」

ゴブには伝わらないようなので、祐輔は自分で箱の山を探りだした。

山の中には、一際光を放っている箱があるようだ。

その箱を開けると…

「うお!あったーー!」


タイマー式の爆弾だ。
残り10分。

「早く、爆弾班を呼べーーー!」

ゴブが、凄いスピードで下の階に駆けていく。


「あれくらいの爆弾なら、10分もあれば大丈夫だってよ。
お手柄だったな!祐輔!」

祐輔とゴブは、部屋の外で待機中だ。
隣で話すゴブの顔にも、安堵の様子がみられる。

「さぁ、念のため下に降りよう」

他の警察官に促され、祐輔たちも下の階に降りることにする。

…!

その時、祐輔は上の階に人の気配を感じた。

「この状況で上の階に人…?!」

他の警察官が上の階を探しているとも思えない。
そもそも上の階は祐輔とゴブだけで探していたはずだ。


「なんか上の階に人がいるみたいだ!」

ゴブに言い残し、祐輔は階段を駆け上がる。

「あ?何だって?!」

ゴブは不意をつかれ、かなり遅れてついていく。

「おい君達!!」


警察官が呼び止めるが、祐輔は気配が気になってしょうがなかった。

犯人?
それともまだ他の人が監禁されていた?

とにかく妙な気配だった。

かなり先の廊下の角を曲がる人影が見えた。
あの角の先は、始めに爆弾があった部屋だ。

僅かに見えた服装は、警察官のものではなかった。

「部屋に戻るってことは、やっぱり犯人か?!」

「ゴブ、誰かいるぞ!
部屋に戻る犯人かもしれない!」

ゴブはだいぶ追いついて来ていた。

「犯行現場に戻るってか!捕まえちまおう!」

「あぁ、あの先は最初の部屋しかないし、追いつめられる!」


2人は角を曲がり、そのままの勢いで部屋に迫る。
最初にドアを蹴破ったため、もうドアはないのだ。


だが…

「は…?」


部屋には誰もいない。


「確かに角を曲がる人を見たのに…?」

祐輔は混乱する。

「ホントか?見間違えじゃねぇのか?」

ゴブは息を切らしながら部屋を見回す。


「おいどうした!!
爆弾は解除したが、危険だから早くビルを出ろ!」

警察官が呼ぶ声が聞こえる。


「やばいぜ、警察のおっちゃん怒ってるぜ。早く降りよう」

ゴブに促され、祐輔も部屋を出ることにした。
なんとも納得いかない。確かに人を見たのに…

振り返るとドアの周りが、なんとなく光っているように見えた。


ビルの外に出ると、人でごった返していた。
マスコミも少し来ているようだ。

「すげー、テレビカメラだぜ。
消防車も来てるし、そりゃそうか」
「お、爺ちゃんたちも保護されてるし、大丈夫そうだな」

ゴブはお爺さんたちに手を振り、ご機嫌そうに色々と喋っている。
爆弾を見つけて、手柄を上げたからだろう。

祐輔は、爆弾を見つけたものの、手柄なのか良くわからなかった。
偶然かもしれないし。

箱が光って見えたのが、ゴブの言う耳たぶ能力に目覚めたってことなのか…?
だとしたら何の能力?

「お、そういや俺の家に行くんだったっけ?」

ゴブが思い出したように言う。

そうだった。
この妙な能力のことはまだまだ気になるし。ついていってみよう。

どうせ特にやることもないんだ。




とある建物の1室で、男がテレビを見ていた。

『繁華街の廃ビルで火災、爆弾の可能性あり!
犯人は不明』

昼のワイドショーだ。

男の左頬には大きな傷がある。

ビルから出てきたと思われる大学生くらいの男子が一人、
わずかに画面の端に写り、すぐに見切れた。

なんとなく運の悪そうな男だ。


「あいつら…」

男はつぶやき、すぐにテレビを消した。


第1話  完


TABOO第2話|スマイル・N・ピース (note.com)

TABOO 第3話|スマイル・N・ピース (note.com)


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