歓送会の後で・・・
最後の出勤の日。
課のみんなが歓送会を開いてくれた。
ホントは出るつもりなかったんだけど...
あまりにも理不尽だし、
結局、ちゃんと、異動に関する説明や合意形成はなかったし。
でも、
オッちゃん達が、「こういうのはちゃんとやらなくちゃ、ダメだ」と。
(いゃいゃ、ちゃんとやるべきコトって、他にもあるでしょ?)
と、頭によぎったけど、
皆さんにはお世話になってるので、きちんとお礼を伝えようと思ったのだ。
そして、お酒もだいぶ入り、盛り上がっていると、
課長が隣に座ってきた。
「いやぁ、足立クンから言われた『この課をどういう方向に持っていきたいのか、明確にして欲しい』って、胸にグサっと刺さったなぁ」
「そうですか。(で、刺さって何か変えたのか?)」
酔っぱらってたのか、その後の会話はよく覚えていない...
でも、ちゃんと大人の対応してた...とは思う。作り笑顔で。
しかし・・・
半年も経って、まだ何も示せてないって有り得ないんじゃないだろうか?
なんとなく、この課が強くなれない理由が分かった気がする。
見かけ上、数値は良くなっている様にしているから、
成果を出している事にはなっている。
でも、本当は、実力をきちんと把握せず、目標を”去年の予算の5%減!”とかしているだけで、大した改善はしていない。
いつか予算が実績を下回ったら...
そう言えば、前の課長の時、「こんな、実績とはかけ離れた予算もらっておいて、”改善しましたっ!”なんて、ある意味、詐欺でしょ!」と突っ込んだら、逆切れされて、それ以降、コスト会議には呼ばれなくなった...
(はぁ...なんか、変な事、思い出しちゃった...)
実際に、この課は、4年ぐらいの間にトップが3回も変わっている。
まぁ、色々あって変わるんだろうけど、
その時、それぞれの”思い”を引き継いではいっていない感じがしてた。
課長なんだから、自分の思う通りにやればいいんだけど、
それでも、何と言うか...
”芯”の部分は共有していくべきなんではないだろうか?
そう、
芯や思いを引き継がず、ゼロから構築しようとするから、今以上に強くなれない。
いや、
ゼロから構築してもいいんだけど、ね。
むしろ、自分の課なんだから、本当はそうすべきなんだろうけど、
その場合、北極星をきちんとみんなに示す必要がある。
それなのに、スタートの段階で、「いゃ、まだ、部からの目標が示されてないから」とか言って、もったいぶったりしてる。
(最初に、もぅ、死ぬ程考えておけっ!てなモンだよ)
いや、1つだけ、困った部分を引き継いでいた。
それは、”先送り”
前任者がそうしているのを見ているからだろう、
基本的に、歴代課長、皆、そのスタンスだ。
(先送りしても、いいことなんて何もないのに)
(しかし、あるべき姿を先送りする人、初めて見た)
(「俺はこういう方針でやってきた。お前はどうする?」とか...
なんかあるだろ?)
(なんで、そういう会話をしないのか、理解できない...)
「歴史を語れない国は滅んでいく」のだとしたら、
歴史を語れないこの課は、滅びゆく運命なのではないだろうか?
会も終盤になった頃、
ひそかに信頼しているオッちゃんから声をかけられた。
「足立ぃ、寂しくなるなぁ」
「おっ、ありがとうございます」
「お前がいなくなったら、この課、やばいんじゃないか?」
「まぁ、なんとかなるでしょ?
でも、実はオレ...ひそかに、丸さんが課長になったら面白かったのに、と思ってたんですよ」
「ナニナニ、オレぇ?無理だろ。モーターの事しか分かんねぇし」
「いやいや、あるべき方向をきちんと示して、任せるところは部下に任せていれば、全てを、詳細に分かっている必要、ないでしょ」
「そうもいかねぇだろぅ」
「だって、丸さん、モグラ叩き、キライでしょ。仕事で」
「モグラ叩きぃ?...まぁ、なぁ」
「今のウチって、”これ、絶対、大火事になるなぁ”って分かってても、手を出さず、先送りにするじゃないですか?ちゃんと報告して、”こうしたい”って言っても、”今は、上が・・・”とか言って、動かない。で、結局炎上して、モグラ叩き的な対応になる。でも、丸さんは、見てるとそういう仕事の仕方をしていないなぁって」
「そんなんだけで、課長ってのは、なぁ...」
「いや、それが大事ですって。方向に加えて、考え方の優先順位を決めておく。それでも、問題は起きるでしょうから、何かあった時は後回しにせず、先手先手で攻めていく。パートナーさんとのやり取り見てると、それが出来てますからね。絶対、いいと思うんだけどなぁ」
(終わったぁ・・・)
解散になり、両手を思いっきり上げて、伸びていると、
「最後ぐらい、もういっぱい付き合えよ」と丸さんから声をかけられる。
「さっき、少しドキッとしたんだけど、さ。
実は、来年度...まぁ、まだだいぶ先なんだけど...
『現場の課長やれっ』て言われてんだよね」
「おぉ、やっぱり!分かってる人は分かってますねぇ」
「でも、いきなり課長はなぁ」
「大丈夫ですって。オレが保証してもアレですけど、丸さんなら問題ないでしょ。というか、この課の課長になって欲しかったんだけど、なぁ...」
(丸さんまでいなくなったら、この課、本当にどうなるんだろう?)
「まぁ、また、なんかあった時はいつでも顔でも出せよ」
「はいっ!」
「それに、お前の事だから分かってると思うけど、理由は何であれ、こんな中途半端な課にいるよりも、新しい所に移った方が思いっきりできるだろ」
「ですね」
「期待してるよ」
「ありがとうございますっ!」
なんか、最後に良いお酒が飲めた。
身体に絡みついていた鎖が外れ、帰りの足取りが軽くなった。
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