異動は、突然に・・・
「おいっ!足立!
井口を本社に異動させるって、さっきの話し、本人に確認したのか?」
「いゃ、してないですよ」
「なにぃ!なんでオレの指示した事やってないんだ!」
木曜日の残業中、なんだか機嫌の悪い部長に怒られる。
事の発端は、本社での、例のプロジェクトがうまくいってない...
ってコトからだった。
マンパワー不足もその要因の1つになっていた為、
その補充に、ボクの部下の井口君に白羽の矢が立ったのだ。
でも、ボク的には…
(本社の業務かぁ…)
井口君は優秀なんだけど、仕事を抱え込んじゃうクセがある。
例のプロジェクトは部署を横断して対応する必要があり、
その本社業務だと、それぞれを取りまとめて、捌いて、
さらに個別にフォローしたりして...
ただでさえ回ってないプロジェクトでは、ちょっと荷が重い…気もする。
(まぁ、本人の成長の為か。それにしても、だいぶ突然だな。
明日、コーヒーでも飲みながら、じっくり話してみるか・・・)
と思ってたところの大目玉。
よっぽど機嫌が悪かったらしい。
でも、
こういう時に、大人しく出来ないのが、ボクの悪いクセ…
「しょうがないでしょ。
部長から話しを聞いたのは定時過ぎて、本人、もう帰ってたんだから。
こういう話し、電話でする事ではないと思いますよ!」
「だいたい、なんで、こういう時に定時で帰してんだ」
「病院に行くって、言ってましたからね。
むしろ、『帰り道、混むからさっと帰りな』と言いましたし」
「…。じゃ、明日、朝イチ、確認して報告する様に!」
「…分かりました」
朝は、ボクが一番早く出社している。
家が近いこともあり、7:00には会社にいる。
一人で仕事していると、珍しく、部長が慌てて出社してきた。
「おいっ!足立!昨日の話し、まだ井口にはしてないだろうな!」
「…まだ、出社してないんで、井口君。
大丈夫ですよ。来たら、すぐやりますから…」
「その話し、ちょっと待て」
「へっ?(昨日、あんなに怒鳴られたのに?)」
「さっき、本社の谷部長から電話があって、
“今、そっちに向かってるから、その話しはちょっと待て”との事だ」
(ナンダ?)
谷部長は、元々、ボクの上司で、
(と言うか、新入社員の時からお世話になってる)
よく言えば、面倒見のいい、
悪く言うと、ウマぁぃ事、コキ使ってくる、やり手の部長だ。
(わざわざ、本社から来るなんて、なんだろう?
それにしても…なんだよ、昨日、怒られ損ジャン!)
そして…
朝の慌ただしい時間帯、二人の部長が会議している場にボクも呼ばれた。
「おぉ、足立!元気にやってるか?」
「まぁ、なんとか」
「それで、今回の件だけど、な」
(ははは。相変わらず唐突だな…)
「井口...どう思う?」
「…業務の詳細は聞かされてないので、なんとも…
まぁ、キチンと捌ける上司の元に付けたら、いい仕事すると思いますよ。
全体を見る機会も、本人の成長の為にいいんじゃないです?」
「オレもそう思う。でも、今回、“捌く”ヤツが欲しいんだよ」
「なるほど…
まぁ、それは、やらせてみて、フォローしながら、
本人を成長させるしかないんじゃないですか?」
「もう、かなりヤバいところまで来ているので、育ててる時間はない」
「しょうがないですね。他に適任者はいなそうですし…
あぁ、大阪の増田なんか適任じゃないですか?コッチに来たがってたし。
何年もって話しではないでしょうから」
「まぁ、な…」
「…(ん?)」
「…でだな。
常務とも話したんだよ。
そしたら、な。
“足立がいるじゃないか”ってな」
「ん?」
「お前だ」
「いやいやいや。ないでしょ。
こう見えて、結構、今、大変なんですよ!」
「お前の仕事なんて、そんな大したコトないだろ。
そんなもん、岡野にでもやらせとけ!」
(なんだそりゃ)
「今日、わざわざ、朝一番で、本社からオレが来た意味、分かるか?」
「・・・」
「お前の都合を聞きに来たんじゃない。
お前に、直々に、異動を伝えに来たんだ」
「…決まり…って事ですか?」
「そうだ」
「…いつから?」
「8月からだ」
(来月ぅ!?もう、2週間もないじゃないか!
普通、“異動”って言ったら、10月とかだろ!)
「だから、大阪から増田を呼ぶ訳にはいかないんだよ」
「いやいや。自分だって、そんなのダメでしょ」
「お前はなんとかなるだろ。近いんだから」
(え、えぇっ!距離の問題っ?)
「足立、飲みたい気持ちはよっく分かる。
ったく…仕方ねぇなぁ。飲みに連れてってやるから」
「こんな時間から飲みたいわけ、ないでしょ!」
「まぁ、そう言うな。オレは一旦、本社に戻るから、今晩は空けとけ。
なんかあるなら、その時に聞いてやる」
こうして、よく分からないまま、
ボクの異動が決まった。
よくある話しだ。