「監査のない世界」は実現可能な未来か?
noteを読んでいただきありがとうございます。Aerial Partners(エアリアル・パートナーズ)の沼澤です。
■前回のnote(経理のDX)
クラウド会計ソフトの活用を例に挙げ、クラウド会計ソフトが普及するだけでは経理人材が減らない理由を解説し、経済活動のデジタル化にあわせて経理部がDXされていくシナリオの一例を紹介しました。また、業務管理システムと会計システムの間の谷を埋めるゲートウェイ提供の必要性とあわせて、Aerialチームの取り組みを紹介しました。
結果として多くの方に読んでいただき感謝しています。
■今回のnote(監査のDX)
サプライチェーン・マネジメントを例に、共通台帳を用いて(経理を含む)財務報告プロセスをDXする方法論に加えて、それに呼応するかたちで監査の領域がどう変わっていくかについて考えてみます。
「監査」というと、馴染みがない、あるいはとっつきづらいという印象をお持ちの方も多いと思いますが、経済活動がデジタル化していくと、その財務報告機能の確からしさを保証する業務である監査のあり方も当然に変わります。
今回のnoteを書くにあたっては、自社のDXに取り組む企業関係者、DX推進する各種ソリューションを提供する企業関係者だけでなく、多くの方にとって理解しづらい「そもそも監査とは?」論から説明することで、読んでいただいた後に、財務報告プロセスの自動化が監査プロセスに与える影響を理解いただけるように努めました。
ソフトウェアによって本来人間が行うべき領域の選別を促進することで、社会リソースの最適配分を行う手段であるDXと、監査のあり方は表裏の関係であることをつかんでいただければと思います。
それでは、サプライチェーン全体で単一の情報源(SSOT:Single Source of Truth)を構築してDXを行うプロセスと、それにあわせて監査のプロセス(※)がどう変わっていくかを見ていきましょう。
※説明の便宜上、本来の監査論を簡略化して説明している部分も多いのですが、諸先輩方からのご指摘等があればコメントをいただけると嬉しいです。
監査は「情報の確からしさ」を保証する業務
監査というと、読者の業務領域によっては馴染みが薄く、どこかとっつきづらい印象を持っているケースも多いと思います。
一言に監査といっても、実施する主体(内部・外部)やその対象(財務報告数値・内部統制)、そして法令による定めがあるかによって多岐にわたりますが、ここではやや広く捉えて説明します。
結論から言うと、監査は、企業活動の結果として得られる財務報告数値が正しいことを、第三者が保証する仕組みです。勘のするどい方はこれだけでおわかりかもしれませんが、プログラムによって情報の正確性が担保された世界では、監査の仕組み自体も大きく変わります。
以下、まずは監査そのものの基本コンセプトを理解するところからスタートしましょう。
金融商品取引法では上場企業に対し、「公認会計士若しくは監査法人」によって財務報告数値等の監査を受けることを義務づけており、日々私たちが目にするIR数値のうち、多くの情報は第三者が情報の信頼性を保証したものになっています。
投融資の検討や業務上の与信プロセス等に利用される財務報告数値について何のチェックもない状態では、経営者には財務報告数値を実態よりも良く見せることによる経済的インセンティブが働くため、独立した第三者が情報の正しさを保証することによって、健全な資本市場が支えられています。(監査ってすごい!)
本noteでは実際の監査手続の詳細については触れませんが、経済活動の成果としての財務報告数値の確からしさを検証するために、①数値ができあがるまでの仕組みの監査(間接的な監査)と②数値そのものに関する直接的な監査があり、この点については監査のDXにも関係してくるため説明しておきます。
例えとして、全国には約3,400万本の電柱があるそうですが、そのすべてを頻繁に点検することは現実的ではなさそうです。しかし、電柱の製造工程や、機器による自動モニタリングの仕組みが正しいことを確かめることで、電柱そのものの点検本数・頻度を減らせるように、仕組みの監査結果に依拠して、統計的に有意なかたちで結果(ここでは電柱)の監査範囲を減らすことができます。
これを企業の財務報告プロセスにあてはめてみると、「電柱」が「取引」に置き換えられます。企業活動においては、年間に何百万、何億といった膨大な取引を行っているため、そのすべてを監査することは現実的ではありません。だからこそ、内部統制等の仕組みのチェックを行って、取引自体を直接チェックする(※)範囲を限定しても、統計的に財務報告数値全体の確からしさを保証することができる訳です。
※単に「監査」と聞くと、各種資産の現物を確認したり、取引の証憑の束から財務報告数値の妥当性を確かめる光景を思い浮かべる方が多いのは、情報の正しさを証明するためには、実物を見て確かめることや第三者が作成した情報の方が、伝聞情報や企業が自身で作成した情報よりも証明力が高いからです。
SCMにおける財務報告プロセスのDX
監査プロセスの未来を想像する前に、具体例としてサプライチェーンマネジメントにおける財務報告プロセスのDXについて見ていきましょう。ここでは、より鮮明にイメージをもっていただくために、サプライチェーン上で製品の出荷・検収を行い、検収をトリガーに、売上伝票(仕訳)を起票するシーンを想定して説明していきます。
従来の出荷・検収プロセスにおいては、サプライチェーンに属する企業間の取引の妥当性を担保するために、契約書→出荷伝票→検収書→請求書→払込証書→領収書のように、何重にもマニュアル業務による証跡を残して、企業間の合意を形成していきます。(課題①:合意形成フローがマニュアル)
また、それぞれの企業が個別に業務管理システムから会計システムへの情報の繋ぎこみを行っているため、そのコスト自体も個社ごとに負担しています。(課題②:非競争領域について個別企業がそれぞれ投資することによるコスト増)
さらに、検収書をもとに売上伝票を起票するのは経理人材であり、この点は前回のnote「クラウド会計ソフトが普及しても「経理部」がなくならないのはなぜか?」で紹介したとおりです。(課題③:業務管理システムと会計システムの間の谷をマニュアルで埋めている)
一方、ブロックチェーン技術等によりDXが推進されたサプライチェーンにおいては、プログラムによって合意形成の正しさが確かめられている共通台帳上のデータを用いることにより、検収については権限管理された専任者によるNFCタグの読み込み等のトリガーにより即時に合意形成が行われます。
サプライチェーンにおける共通台帳上で合意された検収情報をもとに、会計系のシステム上で売上伝票が即時に起票される仕組みを構築することができます。今回は売上伝票を例にとりましたが、これは請求系のシステムにおいて請求書を起票するシーン等、財務報告にかかるバックオフィス業務全般においていえることです。
監査がDXされる未来
前述のとおり、情報の信頼性を保証する業務である監査においては、仕組みの監査を行うからこそ、取引自体を直接確かめる範囲を減らしても、財務報告数値全体が正しいことを保証することができます。
サプライチェーン全体で、プログラムにより情報の信頼性が担保されているアフターDXの世界においては、共通台帳に刻まれている第三者との合意はサプライチェーン全体で単一の情報源(SSOT)であり、サプライチェーン上の第三者との間で正しいことが証明されていることから、監査プロセスは証憑の突合等ではなく、財務報告に係る仕組みそのものの妥当性を検証するプロセスへとその中心を移していくことになります。
また同時に、サプライチェーン全体を通じて監査を行うことにより、サプライチェーンに属する各企業の監査コスト負担はより軽くなっていくでしょう。
公認会計士法が施行された1948年以降、私のファーストキャリアでもある監査法人在籍時から現在に至るまで、経済活動の移り変わりに合わせて監査アプローチも進化してきました。
一方で、2020年現在においても、企業の財務報告プロセス自体にアナログな業務を前提とした内部統制がなくなっていないことから、監査プロセスの大部分が、マニュアルの単純作業を積み上げることで成り立っているのも事実です。
「監査」と聞いて多くの方が想像する資料と資料との突き合わせを行う光景は、今後、監査の対象である企業の財務報告プロセスがDXされるのにあわせて過去のものになっていきます。
監査実務の中で大部分を占める単純作業を、RPAのように単に業務にパッチを当てて自動化するようなアプローチだけではなく、監査プロセス自体を根本からアップデートすることで、専門家が単純作業から開放されて、プロフェッショナルジャッジに時間を投資できるような近未来が現実のものになることをAerialチームは確信しています。
企業から経理担当者がいなくなり、また、それにあわせて外部監査プロセスもDXが行われて専門家の働き方が変わっていく。その未来の実現のために、Aerialチームが担っているDX業界内での役割やポジションについて、次回以降のnoteで紹介しようと思います。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
【さいごに】Aerialチームに興味を持っていただけた方へ
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