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永遠にリピートできる36秒: The Beach Boys 「Disney Girls - Backing Vocals Excerpt」

ビーチ・ボーイズは僕が世界で一番好きなバンドで、特にブライアン・ウィルソンに至っては偏愛を通り越して、もはや信仰の対象になっている・・・。

そんなこともあり、公式に発売された音源はもちろん、海賊盤で流通しているものまで、かなり網羅しているほうだと思います。

去年8月に『FEEL FLOWS: The Sunflower & Surf's Up Sessions 1969 - 1971』というボックスセットがリリースされていて、国内盤は予約完売だったり、ビルボード・チャートでもなかなかの成績だったと聞きました。

このボックスの価値は、初期サーフィンサウンドや、『Pet Sounds』『SMiLE』といった、ブライアン・ウィルソンによるワンマンで生まれた最高傑作ではなく、バンドが才能を持ち寄って音楽面での成果を出した『Sunflower』『Surf's Up』の2枚を製作していた頃の録音が網羅された点でしょうね。

どちらも、当時はあまり売れなかったアルバムではありますけど。

このボックスが去年出て、マニアたちがいろいろな未発表曲・未発表ライヴ音源に感涙するなか、僕が特に感動したものは「Disney Girls - Backing Vocals Excerpt」という36秒しかない音源でした。

時が止まる感覚さえ覚える36秒

正直ね、もう1日、この36秒のリピート以外、聴覚に飛び込んでこなくても、苦痛にならないだろうな・・・とさえ思いましたね(笑)

この音源の背景

「Disney Girls」というのはブライアン・ウィルソンではなく、ブルース・ジョンストンというメンバーが書いた曲で、彼の数ある作品のなかでは最高傑作とされていて、アート・ガーファンクルやキャプテン&テニールなどのカヴァーも遺されている名曲です。

(でも、ブルース・ジョンストンは新曲をつくりつづけようとする能動姿勢もなくなり、なんだか気難しい共和党支持者、みたいになってしまいましたね、、、近年は。蛇足ですが。)

この36秒は「Disney Girls」の曲中にあるコーラスのいち部分を、録音当時のマルチチャンネルから抜き出したもの。他の楽器やリードヴォーカルをオフにしてるわけです。なので、その部分を単独で聴いたことはなくても、未発表というわけでも、マニアにとって真新しいものでもないかもしれませんね。

ただ、このボックスを編纂したマーク・リネットとアラン・ボイドは、よくぞこの一部分を見つけ、マルチにさかのぼり、他のチャンネルをオフにして、裸にして聴かせてくれた。

高音のファルセットは、ドラッグで美声を失う直前のブライアン・ウィルソン。マイク・ラヴも、カール・ウィルソンも、アル・ジャーディンも、ブルース・ジョンストンもいる。(デニス・ウィルソンはモンテ・ヘルマン監督の『断絶』のロケで不参加だった模様。)

主旋律の美しさ、中域の厚み、もちろん和音の美など。文章化するのは野暮ですが、ただただ美しさしかない36秒ですよ。

ビーチ・ボーイズ=コーラスなわけで、他にもこの手法で抽出できる音源は膨大にあっただろうに。そのセンスに大感謝です。

この音源を初めて耳にした去年8月頃は、小山田圭吾さんの騒動などで、僕はあまりメンタルが良くなくて(笑) だからこういう美しいものに触れると、感情が特に揺さぶられる時期だったんですけれど、これが耳に飛び込んできた瞬間は・・・なんだか、もう、茫然自失というか、全身の神経が音を吸収し感動しているのが分かるというか・・・最高でした。

野暮だけれど、少しのディレイとリバーブや電子ノイズを足して、延々と3〜4時間リピートされる音空間をableton Liveでつくったら気持ちいいだろうな。どうしても僕は、アンビエントが音楽などにおいて「通奏思考」になっているので、そういう発想になってしまいますが。

リイシュー企画者の編集眼

ストリーミングを使わずに、フィジカルメディアや単品ハイレゾ購入をする層が、往年のアメリカン・ポップスファンと重なること。そして、1960年代・1970年代の名録音の版権切れが影響して、当時の未発表音源を発掘し再編集してリイシューするのは、音楽業界で積極的に起きています。

当時の膨大な録音をチェックし、ポテンシャルがあるものを選び出す。その音源を単にリマスターで提案することもあれば、ミックスダウンやエディットをやり直して出すこともある。その判断を、原作者がするときもあれば、このボックスのように、バンドの音源を熟知した第三者がすることもあります。

一種の編集ですよね。

その編集において、何より大事なのは、元音源の録音特性・文化背景・ファンの期待の熟知と、徹底的にその原作を愛し尊重することなのだろうなと思います。

僕は過去を編集する機会はあまりなくて、現在・未来が領域の編集者です。でも、たまに過去の編集と再提案をしている方々が羨ましくなります。そろそろ、チャレンジしてみたいかもしれません。

あ、最後に、まだ原曲を聴いたことがない方は、こちらで。そもそも、原曲が素晴らしく美しいんですよね。


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