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配信日記:にじシバラジオ#025 詩人・高橋睦郎の世界を味わう

 今回の配信は座長ともぞーのおすすめコンテンツ回ということで、今年10月に文化勲章を受章された詩人・高橋睦郎さんを取り上げました。昭和30年代から活動され、同性愛を主題とした多くの詩を発表されている現代詩人ですね。
 番組中で朗読している詩は、長詩<頌ほめうた>。最初の朗読箇所の原文はこんな感じです。
 

頌(ほめうた)   高橋睦郎
夕焼けがある
世界でいちばん悲劇的な
そのゆえに いちばん美しい夕焼け
秒ごとに移ろう <時>の最も感じやすい皮膚
世界の薔薇いろの蕁麻疹をうしろに
くろぐろとそそり立つ こちら向きの男
いくすじもの筋肉の 捩れよじれる筋からなる
逞しい首の うつむきかげんに苦しげな顔も
針金のように 一本一本 硬い
ちじれた胸毛をまといつかせた肉の隆起も
影の領土に封ぜられて さだかではない

p.22、現代詩文庫135『続・高橋睦郎詩集』思潮社、1995

 <頌ほめうた>は長い長い詩であり、神話的イメージとホモ・エロティックなイメージが交錯しつつ展開していくのですが、とにかくこれらのイメージがめぐるましく連鎖するため、全篇読み通すのには非常に体力がいります。で、番組中盤で朗読しているのは<頌ほめうた>の中の次の箇所。ハッテン映画館を描いている箇所ですね。

さあ つかまえたぞ
かわいらしい牡兎
おさえた手の中で ばねのように
いたずらっ子の手の下の 圧迫された噴水の先のように
祭りの夜 若いテキ屋が 水素をいっぱい踏んごんで
さて きりきり言わせる風船のように
二月のつめたい水にくぐって
もろ手に囚えた真鯉のように
いきいきとはねる
つかまえたぞ ニュース映画館の暗がりで
トルコ風呂の湯気に立ちこめる 人柱の林の中で
公衆便所の匂いの雲の中で
満員電車の汗くさい人ごみで
待て すばしっこい牡兎め
ふしぎな国の土手っぷちめく
地下の国への階段を ぴょんぴょん
どこへ逃げる?
この下は 奇蹟の森
場末の地下の安映画館 がらがらの椅子席のうしろ
無言のまま ざわめく森は 肉なる森
どんな呪いが この人たちを
おぞましい樹に変えたのか
おう この不安げにたたずんで 歩けない
聖者のような 使徒たちのような人びとよ
光から闇へ にわかに入った目には
かれらの人むれが ただ くろぐろと
しかし その 風のない満月の夜の
揺れるともなく揺れる芒(のぎ)のように 揺れ動く
頭(ず)のめぐり 肩のまわりは
スクリーンに映った白い映像の反照に
ぼかされて 聖別の祝福すべきしるし
目にまぶしい 背光のよう
影たちは黒い汗を噴き出し
無関心をよそおい それとなくさぐりあう手の甲が
互いを確かめるや 風の中の白楊(はこやなぎ)のよう
ひらりとひるがえり 互いの指のすきま
うすい水掻きの部分に 狩りの指を泳ぎこませ
はては きつく握りしめる
最初の合図を交わした手は 手を離れ
互いのズボンの布地の中の 感動的な膨らみ
快楽の蟻たちが舐めて 蟻酸のまじったよだれで
頭からだらだらと崩れてゆく 白砂糖のかたまり

p.33-34、現代詩文庫135『続・高橋睦郎詩集』思潮社、1995

 以上に引用した箇所は<頌ほめうた>前半のごくごく一部であり、全体はかなりのボリュームとなりますが、もし気になる方がいたら高橋睦郎の詩集を手に取ってみてください。
 それでは次週もお楽しみに!

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