ボカコレ2023春のはなし - というよりは、裏話とそのあとの話
まえがき
ボカコレ2023春、おつかれさまでした!!!!!
じぶんはルーキー部門に『彼方のひかり』という作品を投稿し、最終発表で14位と大健闘でした。いわゆる"ボカコレっぽくない"楽曲だったからこそ、最終発表でこのような結果を頂けたことは、共同制作者のすずめのめさん、そして、純粋に皆さまのおかげだと感じています。本当にありがとうございました!
さて、すっかり恒例となったイベント後のまとめ記事ですが、現代のボカロカルチャーにとって『ボカコレ』はあまりに大きく、皆さんそれぞれ思うところがあるので、例によって、すでにさまざまな方が記事を書かれています。
全体概要については、『ボカコレ2023春ランキングの所感』(まきなLv39さん)が、ルーキーランキングの再生数分布は、『目標達成のボカコレ2023春』(朴之感想文さん)が、それぞれ纏めてくださっています。
また一方で、『ボカコレで考えるクリエイターのメンタルコントロールについて』(Yomogiさん)や、『後編-ボカコレ2023春を終えて∼クロヨウチュウ篇∼』(アカヨウチュウさん)など、ちょっと踏み込んだ内容の記事もあったりと、happyな面もdarkな面もひっくるめた、イベント後のさまざまな投稿まで含めて、やっぱり楽しく興味深いイベントですね。
ということで、これまで自分が書いていたような内容はすでに先行者がきっちりまとめてくださっており、後発で類似するテーマを語るのも……と感じたので、今回は、発表楽曲に関するあとがき的なものを記していこうと思います。
(期間中の栗田さんスペースで『アンドロメダノート / いち野 feat.裏命』に関する裏話が聞けたり、呆さんやSohbanaさんが自身の発表楽曲に関するfanbox記事を公開していること等を遠巻きに見ていて、裏話をしたい気持ちが高まっていました。ので、上記は半分こじつけです)
『彼方のひかり』のこと
歌詞について
基本的に、すべての曲を歌詞から作っています。メロディやアレンジなど、プロセスが進んだあとも、歌詞がより良くなると感じる変更でない限りは、メロディや曲構成・展開のほうで調整するようにしています。
前作『太陽の王国』を歌って頂いたVsingerの方の配信で、「メロディはシンプルだが構造が難しく、サビ以外の場所は全パートメロディが異なっている(要約)」と評して頂きましたが、これは歌詞先行型であるためで、もっと言うとだいたい全部の楽曲がそうなっており、しかも男女混声バンドのため音域の高低差もあって……本当に、これまで歌って頂いた皆さまにはとても感謝です。
歌詞、もっというと文章の解釈については、「ひとつの正解を設けない(し、設けていても発表しない)」ということを意識しているので、あまり細かいことをワーッと書く予定はないのですが、せっかくなので今回は2点ほど、ちょっとしたポイントについてしたためようと思います。
1. テーマ
言語化が難しいのですが、今作についてあえて表すなら「ひとりとひとりの、やさしいポップス」がテーマです。
前提として、今回はじぶんの考える「いつもの曲」を投稿しようと決めていました。
『ポストずんだロックなのだ』や『太陽の王国』から知って頂いた方にとっては、おそらく初めて出会う「いつもの曲」になると思うので、改めて自己紹介するような感覚で、『ネバーエンドすべて』や『就活東京』の頃から気にかけてくれていた方にとっては、『ことばに花束を』以来6ヶ月ぶりの「いつもの曲」になるので、お待たせしましたという気持ちでしたが……どうだったでしょうか?
今作のような抽象的かつ内面的なテーマは、1作目『ネバーエンドすべて』と、13作目『ことばに花束を』で取り扱っていましたが、『ネバーエンドすべて』が「ひとり」の歌で、『ことばに花束を』が「ふたり」の歌であることから、今作は「ひとりとひとり」の歌になっています。
2. 書き方
内面的なテーマを扱う際は、人称代名詞の扱いがとてもむずかしい、と感じます。ぼく、わたし、おれ、あなた、きみ、さらに特定の三人称など、その人にはその人にフィットした呼称が存在していて、そこにブレが生じると歌のなかみがふっと離れていってしまう(と感じている)からです。
そのため、たとえば物語音楽など、世界観のなかにいる主人公をより鮮明にしたい場合は、思い切って「ぼく」などの特定の表現を用いますし、そうではない場合は、絶対値としての「じぶん」と評したり、あるいは全く用いなかったり……などとなります。
今作『彼方のひかり』は、「じぶん」と「あの人」についての歌詞です。近くて遠い関係性が一般的となった現代において、あなたがこの曲のどこかに何かを感じて頂けたのなら、それがとても嬉しいし、愛おしいなと感じます。
そういえば、期間中twitterですてきなレビューをたくさん頂いていました。せっかくなので、一部をここで紹介させてください。以下に限らず、どの観点も素敵で、何度も読み返してしまいました。
ある歌詞のどこにグッときたかで、その人の価値観がわかると思っており、レビューを見るたび、こちらまで素敵な気持ちになれました。頂いた反応について、いま追いかけで「ありがとう」のいいねや感想へのお返事を進めています。めっちゃ嬉しいです。本当にありがとうございました!
映像について
本作は、映像をすずめのめ(twitter)さんにご担当頂きました。前作『太陽の王国』もそうですが、めちゃくちゃパワフルで魅力的な作品をこしらえているのにまだ発見されていないクリエイターの方をみると、「もっと流行ってほしい!!!」と憤慨しながら制作依頼をブチ込むタイプの狂人なので、歌詞と弾き語りが固まった段階で即コンタクトを送りました。
作りかけの楽曲だけ渡して「お任せします!」という、ほとんど丸投げ状態の蹴り出しにも関わらず、初回の絵コンテで天体をモチーフとしたすてきなドラマを構築してくれたので、結果的に編曲もそれに導かれる形で、電子音や空間系のエフェクトが増えていき、歌詞もいくつか加筆しました。今思うと、本当に「ひとつの正解」をご提示頂いたように感じます。
今回の楽曲は、抽象的な歌詞のイメージ化になってしまう関係上、たとえばチケットと履歴書で旅立ちの意味合いがすこし異なるように、「出演するアイテム自体に意味があると歌詞のイメージがそれに定義されてしまうが、そのくせ正解は存在しない(言い過ぎない)」という無理筋な内容が前提だったので、自分自身は邪智暴虐の絵コンテ口出しマンとして君臨してしまったような感覚がありますが、結果的に、頂いたストーリーと楽曲が昇華し、細やかな部分までいい感じに仕上げて頂きました。(ちなみに前作も音ハメ限界おじさんになっています。人はなかなか成長しない)
ので、ここではすずめのめさんの過去作品をご紹介させてください。『彼方のひかり』で映像にピンときた方にこそ、より世界観の支配的なこちらを視聴してほしいなと思います。どちらもYoutube版です。ぜひチャンネル登録しましょう。
レトロで温かみのあるタッチでありながら、モチーフの選定によって、よりポップにもなり得るし、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿に似た厳かさも持ち得る、巧みなアートワークのセンスがとても好きです。
音について
すずめのめさんの過去作品のレトロ感に惹かれたこともあり、超スタイリッシュというよりは、ちょっとしたくすみを出せたら、と感じていました。ので、よく言われるローカットをあまりせず、なんなら最終段のmaster EQで5k以降のハイを削っています。(単純にシンバルが強すぎるというのもあったので、これが正しいというわけではありません)
今作でいうとドラムの、特にスネアドラムに関するコメントが多かったように感じるので、とりあえず自分がなにをしたかだけ書いておきますね。あくまでいちアマチュアDTM人間のいち手法なので、いい音が出るという話ではなく、拙作のような音が出る方法です、とだけ……
①[EZdrummer3]
②[EQ]
③[Comp]
④[Limiter]
↓↓↓
⑤[BUS_Limiter]
①EZdrummer3
ドラム音源の悩みはEZdrummer3でだいたい解決する気がしています。Superior Drummerでない理由は、出先で作業を進めることが多いのですが、PC本体のみであの容量を抑えこむことが困難で、都度外付けSSDをつける手間を増やすと作業を進めるハードルが高くなってしまうため。
LudwigのBlack Beautyは、いわゆる往年の名機で、レトロ感が出るかなと思い採用しました。重心を落としたくてピッチを下げたのですが、twitterでローピッチであることに言及したコメントを頂き驚きました。耳、良すぎ……?
②EQ
スネアドラムにビートを牽引してほしかったので、でっかい感じにしています。300Hz〜2kHzまでの部分は、その場所を下げるというよりは、ドンシャリっぽい感じに着地すればいいなと思って音源と相談しながらエイヤでぐぐっと下げています。ローは単体で頭をすこし殴られるくらいの説得力が欲しかったので持ち上げています。密閉型のヘッドホンで聴くと、曲が終わるときに聞こえるスネアの打撃感がちょっとうれしい。
③Comp〜最後まで
よく言われる76コンプの、ほとんどテンプレみたいな設定を噛ませています。ここから先は、コンプとリミッターで音を潰していく課程のため特にコメントがないのですが、Wavesのものすごくclassicなリミッターを2段掛けしてハイをパリッと歯切れよくさせてゴールとしました。
…………書いたはいいですが、あまりにマニアックかつピーキーな内容ですね。この話はここで終えようと思いますが、もしシャープではなく、あたたかめのバンドサウンドが作りたい!という方は、個別にご質問いただけたら回答します。
今後のこと
というわけで、作品に関するお話はここまでとして、今後の活動について考えていこうかな、と思います。
けっこう皆さんもそうだと思うんですが、自分の場合は、ボカコレが終わった直後の1週間って、単に謎の余韻に囚われていたり、睡眠負債の返済だったり、後ろ倒しにしていた現実への対応だったり、どこかぼんやりと、しかしバタバタした日常になりがちです。
今週は、冒頭でご紹介した皆さんのnoteだったり、余韻と日常が溶け込んだtwitterスペースだったり、キタニタツヤさんの配信だったり、なんだかんだボカコレの予熱をずっと残したまま過ごしていました。おそらく4月中旬まではどこか頭のなかにボカコレ春が残っていて、いい感じに忘れかけた5月中旬ごろに「ボカほめ」内で想い出話……という感じになりそうですね。
投稿祭がいっぱい
言うまでもないことですが、4月以降もイベントが目白押しです。
※こちらの元記事に、それぞれの投稿祭の詳細がまとめられています。
多くの方が注目するのは、8月の『ボカコレ2023夏』と、11月の『無色透名祭Ⅱ』かと思います。自分もそうです。イベントの規模もそうですが、単純に参加していてとても楽しい大型投稿祭なので、この2つの投稿祭にはなるべく参加したいですね。
それとは別に、6月9日の『モミアゲヲ投稿祭』や、12月の『ボカロオルタナティブ祭』など、ある特定の界隈で大きな盛り上がりをみせている、コンセプト自体が異彩を放つ投稿祭も気になります。
となると、6月に『モミアゲヲ投稿祭』に参加し、8月に『ボカコレ2023夏』に参加し、10月に『無色透名祭Ⅱ』の事前投稿をし、12月に『ボカロオルタナティブ祭』に参加して……と、なんだか丁度いいスパンで今年の投稿予定がちょうど埋まってしまいそうな予感がしています。
個人的には、なんの祭りとも関係ない「通常投稿」を大切にしたい気持ちがあるのですが、現行のスケジュールだとむしろ何らかの祭典を避けて投稿するほうが難しいレベルなので、2023年については、結果的に投稿祭とともに新曲をもって現れる人という動きになる見込みです。おたのしみに…!
(と言いつつ、フロクロさんが『すれ違う視線、重なる言葉。/重音テト』を通常投稿としてポン出ししたことにめっちゃシビれたし、予約投稿後のやきもきした時間ってとてももどかしいので、楽曲ができたタイミングで衝動的に公開しているかもしれません)
新曲がいっぱい
上記の投稿祭とは別に、ボーマス51で頒布される複数のコンピレーションアルバムに参加させて頂きました。いずれも新曲での参戦です。改めて、この場を借りて、お誘い頂き本当にありがとうございます!
①ポエトリーコンピ『詩集』
芥田レンリさん(twitter)主催の『詩集』をテーマにしたポエトリーコンピにお誘い頂きました。すでにポエトリーのジャンルで複数の作品を投稿されている方もいれば、今回がはじめてのポエトリー作品という方もいらっしゃって、純粋にとても楽しみなアルバムです。
カバーイラストは愛らしい「まかぎねこ」でおなじみのまかぎさん(twitter)ですが、独特の透明感がひかる素晴らしいアートワークだと感じます。
ぼくの発表する作品については、ポエトリーリーディングというテーマなので、過去作『ポストずんだロックなのだ』をイメージされる方もたくさんいらっしゃると思いますが、ごめんなさい、ちょっと今回は毛色を変えて、これまでとまったく違うアプローチで楽曲を作成しています。
かつて戦後の日本文学や戦後詩を研究していたためか、『詩』というテーマはけっしてhappyなものばかりではないよね……というマインドがあり、また一方で、ずんだもんのささやきボイスを採用したい!という気持ちを解決するにあたり、「ずんだもんがささやかなければいけない理由」を考えていた結果、ものすごく怖い詩になってしまいました。
クレジットは『歩行訓練 / ずんだもん』となっています。ずんだもんはずっとささやいています。どうか皆さんでずんだもんを助けてあげてください。
②ボカロックコンピ『6th Strings Wonder』
油性さん(twitter)主催の『ボカロック』をテーマにしたコンピにもお誘い頂きました。じつはこの作品が人生ではじめてお誘い頂いたコンピのため、もともとかなり緊張しながらお話を伺っていたのですが、他の参加者の名前を聞くたびに驚きが膨れ上がっていった記憶があります。
個人的には、ロック・ポップ・オルタナといったジャンルだったり、昨今のボカロシーンで多く誕生している複数のサークル・クルーを横断して集まった、いわゆる2023年春の時点における「ギターサウンドを軸としたボカロジャンルの音楽」の決定版と言っても過言ではないメンバーに見えています。
そのなかの1人に自分が顔を出せたことはとても嬉しいですし、このメンバーのなかで自分はどんな音楽を発表するべきか、という点についてとても悩んだのですが、こういう場所だからこそ、通常営業の「やさしいポップス」を発表したい!と思い、クロスフェード14曲目の楽曲を仕上げました。
クレジットは『旅するアジア / ナクモ&めろう』となっています。感染症の余波もいよいよ収まり、GWやシルバーウィークなどの連休シーズンにむけて、ひとあし先に旅情をしたためました。こちらの楽曲もぜひよろしくお願いします。
③???????
じつは、もうすこし、何かがあるかも………?
レビューがいっぱい
そして最後にもうひとつ、お知らせしたい内容があります。
年始から『#ぼかれびゅ』の部員として活動しており、今回のボカコレでは#ぼかれびゅ公式と個人を合わせて30曲弱のレビューを世に放ちました。
レビュー済みの楽曲は、以下のマイリストにレビューとセットでまとめているので、ぜひチェックしてみてください!基本的に発見時点で「(今より)伸びろ!」と感じた楽曲が対象となっています。
そして、今後も継続的にレビューを実施していくにあたり、楽曲を投げつける用のマシュマロ質問箱をオープンしました。
自薦・他薦に関するトピックはとても扱いの難しい問題なので、そういうノイズを廃して楽曲そのものを聞き、おっ!と感じた楽曲をまとめて月に3〜4曲ほどレビューを書く、みたいなサイクルを回したいので、自薦を含めた匿名の楽曲レコメンド投稿ができるプラットフォームを設けたつもりです。
じぶんの感覚で2〜3営業日のうちに耳を通す予定なので、この楽曲を誰かに聴いてほしい!という想いのある方は、自薦他薦を問いませんので、上記フォームにレコメンド投稿を送ってください。おすすめコメントやこだわりポイントなどあると、聞くときにテンションが上がるので、併記頂いてもOKです。すてきな作品をお待ちしています!
おわりに
改めて、とても長い記事にもかかわらず、ここまで読んでくださったすべての皆さま、本当にありがとうございました!
ボーマス51での頒布コンピや、曲投げ質問箱フォームや、今後の活動はもちろんなのですが、いちおうボカコレに関する記事なので、最後のまとめとしては……
『彼方のひかり』と、すずめのめさんを、今後ともぜひよろしくお願いします!!!
おしまい。みなさま、ありがとうございました!