枯れた花園
気がついたら、深い森の中にいた
ここはどこだろう?なぜ自分はこんなところにいるのだろう?頭で考えても答えには辿り着かなかった
しかし、何も行動せずに絶望して終わるにはまだ早い、と考え、目の前に広がる道を歩き始めた
しばらく歩いていると、深い森は開け、花園にたどり着いた
花園と言っても鮮やかな色が広がっているわけではない、濁った色の、疲れ切った花々が背筋を伸ばさず俯き、辺りを埋め尽くしていた
咲き誇る花が美しい女性だとするならば、枯れた花は衰弱死寸前の老婆のようだった
私達をこんな姿にしたのはお前か?
花が尋ねる、そのしゃがれた声を聞くだけでも、恨み、復讐、怨念、負の感情が鼓膜から肌に広がり纏わりつく、息が白くなりそうなくらい冷たかった
違う、と言いそうになった
でも、自分にはこの森で目覚める以前の記憶がなかった
そうかもしれない、違うかもしれない、巻き込まれたのかもしれない、いろんな可能性が現れては記憶喪失のせいで闇に葬られる
手の伸ばし方は分かるのに、伸ばす方向がわからなくて、イライラする
少なくとも、本来はこんな姿じゃなかった口ぶりの花達に、私の記憶に残っている最低限の事実をもとに訴える
分からないよ、なんであなた達がそんな姿になったのか、自分がやったのかもしれないし、あなた達の自業自得かもしれない、なんで自分がここにいるのか、記憶がないから分からない
それがお前の答えか、お前は私達から逃げるのか、分からないと言って逃げるのか
目がないのに、睨まれている気がした
逃げてるつもりはない、けど逃げてると解釈されたのなら自分は逃げるよ、触れてもないのに恨みが伝わってくる、ずっとここにいたら、きっと凍りついたように心も体も動かなくなりそう
次に発せられた言葉を聞き、ほんの一瞬だけ、予想が現実に変わった
そのまま動かなくなればいい、そのまま佇んでいれば良い、お前の生命を搾り取れば、元通りになりそうだ
息を飲んで、飲み込んで、背を向けて走る、当てもなく走る、とにかく走る、体制が崩れても走る、呼吸が乱れても走る、走らないと生きれないと感じた
自分に対してなのか花に対してなのか、避けるように近づいては過ぎ去る風景の中、一件の家を見つけた
無我夢中でその家を目指し、行儀悪く扉を開け中に入った
花達は、いつの間にか居なくなっていた
部屋の奥から、人影が見える
人影が尋ねた
おや、おかえり
どうやら面識があるらしい彼の発言、自分の記憶喪失、誰かによって枯れてしまった花畑、ここは何処?彼は誰?私は誰?
疑問と警戒心が視界すら埋め尽くし、限界に辿り着き停止したそれは倦怠感に変わり、自分はその場に倒れ込んだ