ギター興味ない奴ほどギターをやるべきなんじゃないかという話

ひょんなことからギターを弾き始めたのが今や4年と少しになろうとしている。フィリピン人の友達が欲しくて通い始めたカラオケバー。コロナのあおりで人がすっかり減ってしまったのでバーのマスターが店をミュージックバーにするとドラムやギターを置きだしたのである。正確に言えば、店に楽器は昔からあるにはあったのだけど、ギターは大幅に増えたしドラムも小さなパッドのものから本物を模した電子ドラムになった。さて、ミュージックバーなんだからお前もギターを持てとマスターに言われ週に1回程度、カッチリしたレッスンというよりは飲み物を片手に気楽なジャミングという感じだった。できなければ家で練習して来てねというスタンス。僕は実際あんまり練習してこなかったけど。それが今や……今や……そんなに弾けるようになってはないのだけどサイドギターは十数曲、ソロも数曲、レパートリーができた。後でまた話すけど弾き語りでコード譜を見ながらやるくらいなら二十曲はできるようになった。じゃあ僕はギタリストになれたのかというと、自分では全くそうは思わない。上手じゃないから、というのが第一の理由だがそもそもそこまでギターやギターの音楽が好きじゃないからなんである。

僕は今になってもギターのかっこよさが良く分かっていない。むしろ自分が音楽を聴くときはむしろアンチでさえある。シンセサイザーを多用した電波ソングやアニソン、リディムは打ち込みのラテンヒップホップ、ベースとドラムとボーカルしかいないようなポップス。僕は主にそういう音楽を聴くのでギターが我が物顔で中低音域を占めてたり長いギターリフやソロのあるような曲はあまり聞かない。ドラム、ベース、ギターというバンドの基本要素の楽器の中でどうしてギターだけが主旋律を歌うボーカルを差し置いてしゃしゃり出ることがまかり通るのか、と今でも考えるくらい。

ところがギターを弾く人の間では誰にあこがれているとかどこどこのバンドみたいな音を作りたいとかそういう話がわりと頻繁になされる。僕にはとうていついていけない。もちろん店のマスターの蘊蓄を聞くごとに裏でせっせと調べてギター界隈にはどんなジャンルがあってどんなバンドがどんな曲をどの年代に発表したのか、表面的なことはできる限り覚えてきた。話についていけなくてボーっとしているわけにもいかないし、なにより、そういうことを学んでいくうちに自分も好きなギタリストができたりこんな曲をやりたいとかこんな音を作りたいとか志向性が養われるのではないかと期待したからでもある。

しかし結果は上の通りである。僕は興味のないことをやることに人一倍苦痛を感じるタイプだからギタリストのような感性を持ちたいといろいろやるごとに疲れてあきらめてを繰り返した。自分の感性について今はもうほぼあきらめている。

話は変わるが、ここ数ヶ月で弾き語りを始めた。僕はカラオケが大好きでよくひとりで真夜中に24時間営業のカラオケにこもって歌とともにストレスを吐き出していた。ある日カラオケにギターを持ち込んで弾き語りに挑戦してみたところ、たどたどしくはあったけれどできないこともないってくらいだった。それが楽しかったのと、なによりギターがあればカラオケに行く金を浮かせられるやん!という発見。夜中も車通りの多い街中の公園で弾き語りの練習を始めた。自分が思った以上にのめりこんでしまって、週に2,3回行くこともあった。弾き語りをしているといろんな人が声をかけてくれて、そういうコミュニケーションができるのも楽しかった。

そこで僕は思った。もっと早くから始めていればよかったと。学生の頃からやっていれば今頃もっと上手になってできることの幅も広がっていたかもしれない。ところが昔の僕からすればギターはギターが好きな人が持つべき楽器だし自分には全く縁のないものであった。そう考えるとバーのマスターには感謝しかないのだが。ともかくも、ギターが好きじゃないのにギターを練習することにこんなにメリットがあるということに今気が付いたのである。

よくよく考えると楽器には種類がたくさんあるが弾き語りや伴奏ができる楽器はピアノとギターしかない。ピアノが”弾ける”ようになるまでの道のりは果てしなく遠い。しかも1曲1曲譜面を読んで練習しなければいけない。右手と左手は別々のリズムで別々の音を出すし、弾き語りともなれば三人分の仕事を一人でこなさないといけない。

比べてギターの"弾ける"はとてもハードルが低い。特に弾き語りであればコードを弾いているだけで伴奏はそれなりの形になる。もし仮にピアノでギターと同じ音を出して弾き語りをしようとしても音が少なすぎてとても聴くに堪えないはずだ。リズムだってずっと一本調子の同じリズムでもギターの弾き語りなら最低限OKなのである。右手のワンストロークでじゃらんと最大6音が一度になってくれる。ギターは簡単なうえにコストパフォーマンスが高いのである。しかし普通ギターをやる人、やりたい人というのはそこで満足したりしない。アルペジオや単音弾き、難しいリズムのストロークや複雑なコードに挑戦したりする。

いままでの自分のイメージ……というか実際そうなんだけどギターを弾いてる人たちはギターがとても好きだ。難しいソロを弾けるまで練習したり、エフェクターをあれこれつなげて音作りをしたり、好きだからこそ時間をかけてギターを楽しんでいる。かつての自分には、素人の自分がギターを触ることさえおこがましいのではないかという思いがあった。いや、今でもそう感じることはある。

それを差し引いてもギターが僕と音楽の距離をぐっと近くしてくれたのは紛れもなく本当だ。カラオケ代わりの弾き語りも寝しなに一人でぽろぽろ弾くのもアンサンブルに加わるのもどれも楽しい。ギターなんて柄じゃないから……とキーボードを触っては挫折していた昔の自分に教えてあげたい。ギターは自分を好きじゃない奴にとっても大いに役に立ってくれる、懐のでけぇ楽器なのである。

結局大したことない結論を薄めて延ばした文章ではあったものの、僕のギターに対する思いとみんなにも教えてあげたいギターの良さを存分に述べることができたと思う。きっとこれからも僕がロックスターにあこがれたりギターがかっこいいバンドの曲を好んで聴くようになることはないだろうけど、それでもまた公園で弾き語りはするだろうしバーでもギターを弾くだろう。この文章を読んでいる人たちの中にも生活にギターを、あるいはギターでなくても、いままで避けてきた"何か"をそれが嫌いな気持ちのまま自分の人生のど真ん中に投げ込んでみるような酔狂を楽しんでみてほしいと願ってやまない。

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