NO.4 カブトムシと森と冒険
「カブトムシ、捕りに行くから、日の出の時間に起こして」
突如、宣言された。
カブトムシ捕りなんて、いつ以来?何で急に?
その理由は分からないが、とにかく早起きをして近くの森に行くらしい。
今朝、5時過ぎに起こすと、一人でカブトムシ捕りへ出かけて行った。
近くには保有林になっている小さな森がある。通り抜けるまで数分の小さな森だが、うっそうとした木々はここが街中だと忘れてしまうくらい、本格的な森に仕上がっている。
ボランティアの方々がこまめに手入れをしてくれているので、歩きやすい。カブトムシの幼虫が育ちやすい環境も作ってくれているので、夏休みになるとお父さんと子どもたちのカブトムシ捕りの聖地として近所ではよく知られている。
結局、今朝の収穫はゼロ。
「やっぱり、仕掛けを作っておかなくちゃだめだな」
「お母さん、焼酎ある?」
バナナと焼酎と…。何を入れているかよくわからないが、カブトムシの餌を仕込み、夕食後、一人で仕掛けをしに森へ。
1時間。帰ってこない。あれ、何かあったかな?
急に心配になった。先週も変質者情報がメールで届いていた。怪我をして動けなくなっていたら、助けを呼ぶこともできない。
頭の中をそんなことが駆け巡り、家を飛び出した。
森に着くと、真っ暗で一歩も中に踏み入ることが出来ない。漆黒の闇ってこういうことかと納得するくらい黒い空間がそこにはあった。
右へ行くも、左へ行くも分からない。
入り口付近でうろうろしていると、次男が自転車で走ってきた。
良かった、無事である。
「ノコギリクワガタ1匹と、コクワガタ2匹、見つけた!」
そりゃ、良かったよ。
「紐忘れちゃって、細い木にくくり着けてきた。迷って、同じところ3週くらいしたよ。どこに仕掛けたか、分からなくなっちゃうから近くに落ちていた虫取り網を目印にしてきたよ…」
この1時間の冒険を色々話してくれた。
「真っ暗で、怖くなかった?大丈夫だった?」
「最初、ビビったけど、大丈夫だったよ。真っ暗で、何も見えなくて、懐中電灯二つ持ってきて良かった」
「明日は暗いうちに取りにこなくちゃ、キッズに先をこされちゃう」
何のスイッチが入ったのか、急に虫捕りなんて。小学生の子どもたちに負けていられないと、ちょっと大人発言が可笑しい。
夏休み一日目。中学二年生男子の小さな冒険が始まった。