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チャリンチャリン太郎【毎週ショートショートnote】

『治安維持専門 約款条項検証用 臨場カウンター』
通称チャリンチャリン太郎クンが実運用フェーズに入り半年が立つ。

「にしても、名前もうちょっと何とかならなかったんすか?」
「憎まれ役なんだから、間抜けなくらいでいいんだよ。」

不動産業を営むS社の提供する居住区は、現在5種類に分けられていた。居住するにはそれぞれのエリア用の約款にてS社と契約する必要がある。約款の条項がエリアの「最低限度の生活」であり、S社はサービス料と引き換えにその生活水準を保証する。
静かに暮らしたい人はAエリア、ある程度の騒音は許容されたい人はBエリア、など、今後のニーズに合わせて居住区の種類を増やしていく構想を既にS社は発表していた。

その運営の肝となるのがチャリンチャリン太郎クンだ。約款を結ぼうが守られなければ意味はない。居住区内に常駐し、エリアごとの約款が守られているかを監視する。逸脱行為がある場合には、対象者と回数を記録し通知を行う。それが『治安維持専門 約款条項検証用 臨場カウンター』である。
通知方法は即時アラートでの警告、および繰り返される場合には退去または区域変更要請の文書連絡がある。

上記居住区制度とチャリンチャリン太郎クンの本格運用開始から半年が経った今日、開発保守チームが集まり大きめの振り返りミーティングが行われていた。

「半年システムを運用してみてどうだ?」
「サービス導入開始直後ということもあるでしょうが、違反カウント自体はかなり少ないですね。」
「文書要請に至るケースはまだないです。」
「チャリンチャリン太郎クン自体へのご意見はいくつかきてます。
えー...違反時のアラート音がデカくて腹が立つ、大きな筐体がウロウロしていて少し怖い、など。」
「チャリンチャリン太郎クンだからって、音に凝りすぎたかなぁ。」
「でも違反時警告なんで仕方なくないです?仕事してますってアピールもできますし。」
「プラスの意見もありますよ?見守りの安心感がある、24時間相談を受け付けてくれる、とか。」
「C地区の中西さんは太郎クンと話しすぎだよな、皆の太郎クンなのに」
「巡回範囲が狭くなる恐れがあるので、相談用と監視用と台数増加を検討した方がいいかもしれないですね。」
「監視ではなく見守りと記載するように。」
「承知しました、失礼いたしました。」
「全部本物も費用面でキツいし、相談用はニセ太郎クン(仮)もありかと。」
「開発メンテがなぁ〜...」

会議室の隅では、一台のチャリンチャリン太郎クンがじっとその打ち合わせを見つめている。その筐体からは、時折微かな音で「チャリン...!...チャリン!」というベルの音が鳴っていた。

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たらはかにさんが運営しておられる「毎週ショートショート」の今週のお題がとても語感が可愛くて書いてみたくなり、初めて投稿させていただきました。
可愛いお題なのに、ディストピアの様相を帯びてきてしまったのは何故なのか。お題に申し訳ない限りです。
ありがとうございました。


ここまでお読みいただきありがとうございました。