寓話:「忘れられた花の森」

昔々、ある美しい森に、さまざまな種類の花々が咲いていました。花たちは、それぞれ自分だけの特別な香りと色を持ち、互いに競い合いながらも、森全体を豊かで美しいものにしていました。

ある日、森に魔法の水が現れました。その水を浴びると、どの花も一瞬で最高に美しい姿になるという噂が広がり、花たちは次々にその水を浴びました。すると、見違えるほど美しくなり、色も香りも一瞬で輝かしくなりました。

しかし、時間が経つにつれて、花たちは次第に自分自身で成長しようとしなくなりました。太陽の光や雨を感じる喜び、自分自身の力で咲き誇る誇りを忘れ、ただその魔法の水に頼るようになったのです。

やがて、森中の花々は皆、同じような香りと色を持つようになりました。最初は美しいとされていたその姿も、今ではどの花も似通っており、かつての個性豊かな森の面影は消え去ってしまいました。

そこに、一輪だけ、自らの力で咲き続けている小さな花がありました。その花は、他の花々が魔法の水に頼る中、自分の力で太陽と雨を吸収し、毎日少しずつ成長していました。見た目は派手ではなく、他の花々と比べれば目立たない存在でしたが、その花は自分の香りと色を誇りに思い、自らの成長を大切にしていました。

ある日、その花は風に乗って、他の花々に問いかけました。「なぜ、みんな自分自身で咲こうとしないの?」

しかし、返ってきたのは、どの花も同じような答えでした。「だって、この水があれば簡単だし、美しくなれるから。」

小さな花は悲しそうに、静かに呟きました。「でも、みんな同じ姿になってしまったら、自分らしさはどこにあるの?」


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